インサイドセールスの常識を変える―AIが300超のサービス提案を支援する「CONNECTIS」開発

Profile

Hiroyuki Hatae

パーソルホールディングス株式会社
グループAI・DX本部
法人マーケティング部
リードナーチャリング室
室長

2009年にトランスコスモス株式会社に新卒入社し、VOC活用に向けたコンサルティング・分析業務に従事。2017年より株式会社ビズリーチにてBtoBマーケティング領域全般に従事し、その後、IS企画として業務改善に取り組む。2021年にパーソルホールディングス株式会社に入社後は、マーケティングオートメーション・インサイドセールス領域を中心にグループシナジー最大化の実現に注力している。直近は、生成AIを活用したインサイドセールス業務の高度化を推進中。

Shoko Hara

パーソルホールディングス株式会社
グループAI・DX本部
法人マーケティング部
リードナーチャリング室
リードデジタルマーケター

2010年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)へ入社。営業職としてアルバイト・中途採用求人媒体の営業業務に携わり、その後同領域の営業企画として従事。2022年にパーソルホールディングスの法人マーケティング部門へ異動し、グループ全体のクロスセルを促進する「OnePersol施策」に従事。CRMの導入・活用定着を支えながら、AI活用を通じた新たな施策の推進にも注力している。

パーソルホールディングス グループAI・DX本部 法人マーケティング部は、「法人顧客の課題とパーソルグループのサービスをつなげる」役割を担っています。

今回取り上げるのは、人に依存してきた従来のインサイドセールス手法を刷新し、多様な顧客課題に対し、パーソルグループが提供している300を超えるサービスを自動でレコメンドするAIシステム「CONNECTIS」。その開発を牽引する波多江と原に、プロジェクトの背景や開発プロセス、そして今後の進化構想について聞きました。

テクノロジーで人材不足・情報過多・スキル格差の壁を乗り越える。マッチング精度向上の新たな挑戦

まず、リードナーチャリング室の役割を教えてください。

波多江

リードナーチャリング室がある法人マーケティング部は、顧客にも営業にも「愛されるマーケティング」を目指し、「顧客の課題」と「グループ全体のサービスをつなげる(=マッチング)」役割を担っています。

その中でもリードナーチャリング室のミッションは、マーケティングオートメーション(MA)を活用した継続的な顧客接点の創出と、インサイドセールスによるアポイント獲得です。

組織の特徴や特有の難しさは何ですか?

波多江

私たちは業界・業種を問わず幅広い顧客にアプローチするため、顧客が抱える課題も多岐にわたります。

さらに、グループのサービスは300を超え、それらを適切に提案するには、人間の記憶や理解力だけでは限界があります。この多様性と情報量が、私たちの仕事の特徴であり、難しさでもあるんです。

特にインサイドセールスは、膨大なサービス情報を正確に理解し、顧客の課題に応じて自分の言葉で伝える必要があり、非常に難易度の高い業務です。また、トークスクリプトも一律化できないため、どうしても個人の技術やセンスに依存しやすい特性があります。

そうした中で、CONNECTISを開発するに至った背景を教えてください。

波多江

インサイドセールスにおいてアポイントを獲得するには、顧客の「課題特定」と「課題解決につながるサービス」の適切なマッチングが不可欠です。しかし、その精度向上には、三つの大きな課題がありました。

第一に、人材面の課題です。現在のインサイドセールス部門は人材の入れ替わりが発生しやすい組織構造で、市場全体の人材不足も相まって、人材の確保・定着が一層困難になります。

第二に、300以上あるサービス情報の管理負担です。サービスの追加や廃止、変更が頻繁に発生し、膨大な情報を常に最新の状態にアップデートするには高い管理コストが必要になります。

第三に、ヒアリング力の個人差です。例えば「人は足りていますか」といった表面的な質問では、顧客の真の課題を引き出すことができず、適切なサービスを提案することができません。ヒアリングには高度なスキルが必要になり、その差によってアポイント獲得率が3~4倍に変わることもあります。

こうした背景から、従来の手法ではマッチング精度の向上に限界があると判断し、テクノロジーによる解決を目指してCONNECTISの開発に着手しました。

このほかに見据えていたポイントはありますでしょうか?

波多江

パーソルグループが発表した2023年の中期経営計画では、派遣業や紹介業といった人材領域以外のサービスでも、BPOやテクノロジーを活用した生産性向上に注力する方針が示されました。これにより、取り扱うサービスの幅が一気に広がることが見込まれ、既存課題がさらに顕著化していくと予測していました。

Salesforce×外部パートナーとの協業で構築する、前例なきサービスレコメンドシステム

開発当初は、まず何から着手されたのでしょうか?

波多江

2023年度下期にまず着手したのは、「顧客の課題情報をデータ化し、パーソルのサービスを自動でレコメンドできるか」というPoC(実現可能性の検証)です。私とデータサイエンティストの2名体制で、15個のサービスを対象に開発を進めた結果、「実現できそうだ」という確かな感触を得ました。

この段階で、AIがパーソルのサービス情報をもとにレコメンドする仕組みを構築するため、RAG(外部情報を活用して回答精度を向上させる技術)を採用することも決めました。

開発を進める段階で、どのような案を検討しましたか?

波多江

2024年度の開発時には、「自社開発」と「既存サービスの活用」のどちらで進めていくかを検討しました。

パーソルはAIの活用に力を入れ、さまざまな開発を進めていますが、AIの進化スピードがかなり速いことや、開発・保守運用などの様々な観点から、今回は既存サービスのSalesforceを基盤に開発することにしました。Salesforceを活用しているグループ会社が多いことから、おいおい横展開できないかという思いもありました。

ただ、開発については社内だけでは技術的な知見が不足しており、外部パートナーとの連携は不可欠でした。

外部パートナーの選定は、どのような基準で行いましたか?

波多江

多くの国内事例を調査しましたが、「多様な顧客課題に対して複数サービスをレコメンドし、インサイドセールスの現場で実際に活用する」といった事例は、ほとんど見当たらなかったんです。

そんな中、以前Salesforceの導入を支援してくれた企業が、 Salesforce社が提供する最新AIサービスの研究を進めており、私たちの将来構想とも重なる部分が多かったため、共同開発で進めていくことを決めました。

具体的に、どのように進めていったのでしょうか?

波多江

開発を進めるにあたっては、協力企業の技術的知見と、私たちの現場経験を融合させるアプローチを取りました。まず協力企業に仮説構築の方向性を提示してもらい、そこに私たちが蓄積してきたノウハウを組み合わせて、具体的な仮説に落とし込んでいったんです。

特に重視していたのは、「今、現場で何が起きているか」「どんな課題に直面しているか」を頻繁に共有することです。この積み重ねが、仮説を実務レベルの施策へとつなげるうえで大きく役立ったと感じています。

波多江

この開発は国内に前例が見当たらず、「これがダメなら次はこちらを試してみよう」といった試行錯誤の連続で、正直、心が折れそうになる場面もありました(笑)。

顧客との会話支援を実現したCONNECTIS―精度向上とヒアリング支援機能で次なるフェーズへ

CONNECTISの開発は、どこまで進んでいますか?

波多江

2024年度時点で、顧客課題を入力すると、適切なサービスが自動でレコメンドされ、そのサービスに沿ったトーク内容まで提示できるレベルに到達しました。

現状、パーソルホールディングスのインサイドセールス部門が持つデータを中心に活用していますが、将来的にはパーソルキャリアやテンプスタッフなど、グループ会社の各事業における同一顧客の訪問記録や商談内容との連携も今後考えていきたいです。

開発を進める中で、やりがいや苦労を感じた点はありましたか?

波多江

私の性格もありますが、新しいおもちゃに触れるような感覚で、開発自体は楽しかったですね。会社としてもキャリアとしても非常に先進的な取り組みなので充実していましたが、その分、原さんには負担をかけてしまいました(笑)。

波多江さんは本当に楽しそうでしたね(笑)。正解が分からないながらもスピード感をもって判断を進めていく工程は新しい学びが多く、わたし自身も同じように充実していました。

ただ、実際に使う社員の業務へのフィット感や操作性は重視したかったので、それをどう反映させるかには気を配っていました。

2025年度の取り組みについて、教えてください。

波多江

今年度は「レコメンド精度の向上」と「ヒアリング支援機能の開発」を進めています。

CONNECTISを活用して営業活動を支援していくには、営業現場の事情をより考慮していく必要があります。というのも、エリアによって人材紹介のニーズがあっても、営業拠点がないなど、エリアや条件によって対応できないケースがあるんです。

さらに、適切なサポートには顧客課題の正確な把握が欠かせません。人材不足一つとっても、解決策は採用・派遣活用・人事研修など多岐にわたります。そこで、顧客課題の深掘りを促すアシスト機能を開発し、サービス条件も踏まえた高精度なレコメンドシステムへのアップデートを推進しています。

AIエージェント化で、顧客課題とサービスを自律的に結びつける世界を目指す

CONNECTISの進化によって、どのような世界が実現されると考えていますか?

波多江

最終的に目指すのは、AIが自律的に動く「AIエージェント化」です。

通話内容を音声認識でテキスト化し、顧客の課題や情報を自動抽出してSalesforceに登録、レコメンドまで実行する。さらに必要に応じて顧客へメール案内も行う―つまり、顧客課題とパーソルのサービスを高精度で結びつける仕組みを進化させ、ハイパーパーソナライゼーション(顧客一人ひとりに最適化された体験提供)を実現したいと考えています。

私も波多江さんと同じく、人がやらなくてよい作業を自動化していくことに尽きると思っています。

ただ、顧客との会話そのものは AIでもできますが、人“も”担うべき領域であってほしい。そのため定型業務や付随作業を自動化することで、担当者がより価値の高い業務に集中できる環境をつくっていきたいですね。

AIが人の業務領域に広がる中、これからの「人の役割」をどのように捉えていますか?

波多江

「営業は顧客との信頼関係構築に集中すべき」という声は多いですが、将来的には人が介在しない形も十分あり得ると考えています。

数年前までAIがほとんど使われていなかった状況から、わずかな期間でここまで変化しました。だからこそ、「人が担うべき領域」を固定せず、常に「本当にそうなのか?」と問い直す姿勢が重要です。

未来は予測できないからこそ、計画も柔軟に見直し続けることを意識しています。

この1年で人々のAIへの慣れは大きく進み、今後はAIが業務を遂行することへの抵抗も減っていくでしょう。ただ、お客さまによってAIの支援で十分な方もいれば、最後は人に背中を押してほしい方もいると感じています。

そのため今後は、状況や相手によって、人とAIの役割が変わっていくのではないかと感じています。

最後に、お二人の今後の目標を教えてください。

CONNECTISを、営業活動のすぐそばで自然に支援する存在に育てたいと思っています。
顧客情報を調べる裏で自動的に動き、提案や会話の切り口を提示してくれる―そんな姿を描いています。そしてインサイドセールスに限らず、社内の幅広い営業活動にも広げていきたいですね。

そのためにも、さらにAIの知識を深め、周囲がより楽に、やりがいのある業務に集中できる環境づくりに貢献していきたいと思います。

波多江

今後は、テクノロジーを活用し、属人性に依存しない法人マーケティングの仕組みを構築できる人材になることが目標です。

また、広告運用やコンテンツマーケティング、MA、インサイドセールスなど特定分野のスペシャリストは多くいますが、これからの環境変化を見据えるとひとつの専門性だけでは生き残りが難しくなると考えています。SEOを例に挙げれば、AI Overview(AIによる要約回答)の登場でコンテンツ閲覧や検索流入が減少しているという話も聞きます。

こうした技術変化で特定領域の専門家のキャリアが脅かされるからこそ、AIなど新しい領域も取り込み、スペシャリストの皆さんが複数分野を横断できるジェネラリストとして活躍できる場を整えていきたいと思います。

ありがとうございました!

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=山口修司(ファーストブリッジ)
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です。
※略歴内の情報は2025年4月時点での内容です。

ほかの記事を読む

2025.07.03

営業×生成AI―法人マーケティング部が挑む仕組み改革とグループ成長戦略

2025.07.31

国内38社6万人の業務基盤を支えるビジネスITアーキテクト部が挑む業務改革とは?

2025.04.01

【前編】生成AIで変革を加速せよ——パーソル各社の事業をアップデートするグループAI・DX本部の挑戦

2025.04.01

【後編】生成AIで変革を加速せよ——パーソル各社の事業をアップデートするグループAI・DX本部の挑戦

  • TOP
  • CONTENTS
  • インサイドセールスの常識を変える―AIが300超のサービス提案を支援する「CONNECTIS」開発