【前編】テクノロジードリブンの“人材サービス企業”への進化に向けて―パーソルグループのシステムの今とこれから
2023年5月に策定された中期経営計画2026では、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」の実現に向けて「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化を目指すことが方針として掲げられています。
今回は、その進化をシステム・仕組みづくりの側面から牽引するパーソルホールディングス グループデジタル変革推進本部 本部長の朝比奈にインタビュー。パーソルグループ全体のシステム設計について、目指す理想のあり方と、その実現に向けた取り組みの現在地を聞きました。
【後編】はこちら→R&Dの取り組みで拓く、パーソルグループの未来と新しい“人材サービス”の可能性
エンジニアリングからプロジェクトマネジメント、組織・仕組みづくりまで幅広く経験
―前半は、朝比奈さんがグループデジタル変革推進本部 本部長の役割を担われるに至った背景にフォーカスしてお話を伺います。まずはこれまでのご経歴からお聞かせいただけますか。
大学院に在籍していた頃にプロジェクトマネジメントを手がけるグローバル企業にアルバイトで入社し、社会人としてのスタートを切りました。そこで16年間勤めた後、外資系ITセキュリティ企業におけるビジネスアナリストとしての業務経験を経て、前職であるパーソルキャリア(旧・インテリジェンス)に入社したという流れです。
―パーソルキャリアにジョインされる以前、テクノロジーの領域においてどのような経験をされてきたのですか?
1社目では、社員を目指して アルバイトとしての業務のかたわら技術を学びはじめ、ヘルプデスク、プロダクトサポート、プロダクト開発、プロダクト導入コンサルティングへ……とステップしていきました。ここでは具体的に、自社製品を開発してお客さまのシステムに組み込むこと、グローバル製品を日本向けの仕様にカスタマイズすることなど、エンジニアリング業務を幅広く経験しています。
2社目、3社目のITセキュリティ企業においては、コーポレート寄りの役割をいただき、情報システム部門において、社内で扱う情報システムの企画から開発、運用、ガバナンスなどあらゆる領域を担当後、部門長をしていました。
―幅広い経験を積まれた後、次のステージとして日系企業、中でもパーソルキャリアを選ばれたのはなぜですか?
さまざまな国のエンジニアと共にはたらいてきた経験の中で、日本のエンジニアの方々の優秀さを痛感し、“彼らが自分が求めるキャリアと対価を得られる状態” を作りたいと思うようになったことから、はたらく場として日系企業に目を向けました。
当時の企業選びの軸は、①ITの重要性を理解し “強いIT” を目指している事業会社であり、②何かしらの領域においてNo.1であり、③社員が会社に対してロイヤリティを持っていることです。この視点で転職活動をしていて出会ったのが、パーソルキャリアでした。
―パーソルキャリアでどのようなご経験をされ、その後どのような経緯で現在のお役割に就かれたのですか。
パーソルキャリアへの入社時にいただいた役割は、アルバイト求人情報サービス「an」(現在は提供終了)のシステム部門長です。ビジネスの性質から企業文化まで前職とは何もかも異なる環境の中、これまでの経験にない “事業の中のIT” を考え、事業成長につながるシステムやシステム部門づくりを目指して奔走しました。
その後、お声がけいただいてパーソルホールディングスに移り、ホールディングスにおける開発組織の立ち上げや、グループ横断で新規事業創出に取り組む事業会社の立ち上げと仕組みづくり、グループITのアプリケーション組織のマネジメントなどをさまざま経験。そして2020年4月、当時統括していたアプリケーション組織と目指すものややりたいことを同じくする「グループデジタル変革推進本部」を統合し、本部長に就任して現在に至ります。
「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化に向けた、抜本的システム改革
―後半は “パーソルグループ全体のシステム設計の今とこれから” をテーマにお話を伺います。まずは、グループデジタル変革推進本部の役割についてお聞かせください。
グループデジタル変革推進本部は、グループ社員の業務をより便利にし、よりよい “デジタル体験” が得られる状態を目指す組織です。グループ共通で利用されるシステムの企画・開発・運用や、コーポレート領域におけるデータ利活用の推進、そのために必要なルールやプロセスの整備、まだ事業の皆さんと共に事業のデジタル化推進などを主に行っています。
―現在パーソルグループで利用されるさまざまな共通システムには、どのような課題があるのでしょうか?
人事や会計などの基幹系システムが構築されてから10年弱が経過しており、グループの規模や売上規模の拡大、経営統合による組織の変化などを経て、今のパーソルグループに合ったシステムではなくなっていることが現状の課題です。
改修や継ぎ足しを重ねてシステムは非常に複雑な状態になっているため、一つひとつ課題や要件を整理し、全体のシステム設計から抜本的に見直す必要があると捉えています。
―朝比奈さんは、パーソルグループにおけるシステム設計のあるべき姿とはどのようなものだとお考えですか?
今のパーソルグループに合った、そして今後の発展を見据えたシステムであり、データドリブンの意思決定を推進するに相応の仕組みであることが理想です。ただ、大きな組織だからといって、すべてを一様に大きなシステムにする必要はないと考えています。
例えば、ファイナンス周りなどグループ全体としての大きな意思決定に関わり、かつ競争領域ではない部分のシステムについては、洗練されたデファクト・スタンダードなものを採択して仕組みの統一・標準化を進めるのが望ましいでしょう。
ですが、人事やビジネスそのものについて、各個社の規模も社員も制度も一様ではない中で、無理に一つのシステムに載せるというのは現実的ではありません。
合わせるべきものは合わせて、コアの部分は共通の仕組みとしながら、その周りには各社の事情に合った小さな仕組みが衛星のように存在する。これらが両立されたシステムを作っていきたいと思っています。
―あるべき姿の実現に向けて、現在グループデジタル変革推進本部で進められている取り組みについてお聞かせください。
まずは人事領域を皮切りにシステムのモダナイズを進めており、ここからファイナンス領域についても今はない機能も含めてしっかりとデザインし、構築していきます。
また単に各個社のシステムを直接繋ぐのではなく、「複数社にまたがっての連携はどのように行うべきか」といった仕組みやルールを整えていくことについても検討を進めています。整然として、かつ柔軟に変更できるような大きなアーキテクチャを作っていきたいですね。
―かねてシステムの課題があった中、今大きく変革が進められている背景とは?
ビジネスとITが切っても切り離せないものであると、その重要性がはっきりと認識され、「テクノロジードリブンの人材サービス企業へと進化するために、システムをよいものにして社員によりよい環境を提供しよう」、つまり「社員に対する投資を強化していこう」という経営としての意思表示が明確になされたことが、取り組みを大きく前進させたのだと捉えています。
―システムの変革はどのような体制で進めていこうとお考えですか。
領域によって異なりますが、ホールディングスでシステム全体を管理して各社に利用してもらう「シェアードサービス」のような体制もあれば、各社で根本の仕組みの検討から対応し、私たちは全体の取りまとめを担う、といった体制もあると考えています。適切な体制を各社のみなさんと協力しながら、進めていきたいところです。
―それでは最後に、今後に向けた朝比奈さんの思いをお聞かせください。
私たちがこれから仕掛けていく変革は、既存の業務プロセス全体の変革なしでは達成し得ないものです。より多くの社員に「使いづらかった社内システムがこんなに変わるんだ」「便利で楽になった」、また「新たな価値を顧客に届けられている」と体感していただけるように、各現場にしっかりと踏み込んで皆さんとの対話や業務理解を深め、正しくリーダーシップを取りながら変革を推進していければと思います。
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈)
(2023年8月時点の情報です。)
- 朝比奈ゆり子Yuriko Asahina
- パーソルホールディングス株式会社
グループデジタル変革推進本部
本部長 - 外資系プロジェクトマネジメントソリューションベンダーにて、製品開発、マーケティング、経理などを幅広く担当。外資系ITセキュリティ会社2社でのCorporate IT部門長を経て、2014年、パーソルキャリア入社。アルバイトサービス「an」のIT責任者に就任。2018年、パーソルホールディングスへ転籍し、新規事業創造・オープンイノベーション推進を担う新会社パーソルイノベーションの法人設立に従事。
2020年、パーソルホールディングス グループデジタル変革推進本部 ビジネスITアーキテクト部 部長としてコーポレートIT部門の組織変革を推進。2021年より現職。