営業×生成AI―法人マーケティング部が挑む仕組み改革とグループ成長戦略

意思あるキャリア選択が、未来を切り拓く力になる

まずは、繁田さんのこれまでの経歴を教えてください。

2006年に新卒でベンチャー企業に入社し、求人活動の効率化を支援する法人向けシステムの営業を担当していました。しかし、当時の労働環境はなかなか過酷で、朝9時に出社して終電で帰宅するような日々が2年ほど続きました。仕事の中身はとてもやりがいを感じていたのですが、はたらき方や今後のキャリアを真剣に考えた上で転職を決意しました。

前職では求人情報を提供するサイトやサービスに深く関与しており、特にアルバイト採用の分野においては、これまで培ってきた知見と経験をそのまま活かせると考え、2008年5月にパーソルキャリア(旧:インテリジェンス)に転職しました。
ただ、実はこの時、二次面接で一度落ちているんです(笑)。それでも、一次面接の担当者が「繁田さんがインテリジェンスに合わないはずがない」と声を上げてくれ、別の部署を提案してくれて。そこで再度面接を受け、配属先の仕事内容にも納得し、さらに一次面接のときの面接官への御恩も感じていて、「ここまで言ってもらえるなら、この会社ではたらいてみよう!」と決意しました。

インテリジェンスに入社した後は、どのような業務を担当していたのでしょうか?

入社後は、アルバイト求人メディア「an」の代理店営業を5年ほど担当しました。当時の私は、顧客企業の経営層との関係性構築を大切にしていたので、「月に何回、社長と飲みに行ったか」という指標を真剣に追っていましたね(笑)。一方で、提案書を作成するという企画力が問われる業務も好きだったので、ほかの営業メンバーと切磋琢磨しながら、そして楽しみながら仕事に向き合っていました。

その後、企画業務への関心が高まり、今後のキャリアパスも考え、営業企画部門へ異動を希望したんです。そこでは、広告代理店と直販チャネルに携わり、営業企画のマネジャーとして幅広い業務を経験してきました。

パーソルホールディングスに異動されたきっかけを教えてください。

30歳を過ぎたころ、いくら良い企画を立てても、現場の営業メンバーが取り合ってくれないことには意味がないことに悩んでいました。「面白いからやろう!」と自主的に取り組む施策の方が強い推進力があると感じ始めていたんです。ちょうどそのタイミングで、以前の上司であるグループ営業本部の本部長から、「パーソルホールディングスにマーケティング機能を新設するから、一緒にやらないか?」と声をかけてもらったんです。

当時から、少子高齢化や労働市場が縮小していく中、人材業界の役割はより一層求められると考えていたので、「パーソルホールディングスの営業生産性をどう担保するのか」というテーマは非常に面白いと感じましたね。

加えて、「もっと効果的な営業活動の仕組みをつくりたい」という思いも強くあり、2019年にパーソルホールディングスへ転籍しました。

パーソルホールディングスに異動されてからの経緯や、現在の役割について教えてください。

異動した当時は、新たな価値創出を担うエキスパート職としてキャリアをスタートしました。その後、2023年にマネジメント職となり、2024年からは法人マーケティング部の部長を務めています。

現在は、法人マーケティングの成果を創出し、その価値を示していくことが私の役割です。パーソルグループが持続的に成長していくためには、法人マーケティングの機能が今後ますます重要になると確信しています。そのため、短期的な成果にとどまらず、現状とのギャップをグループ全体で見据え、将来的に担うべき役割を伝えていくことにも注力しています。

仕組みで営業を強くする―法人マーケティングの舞台裏

法人マーケティング部が立ち上がった背景と、繁田さんご自身の思いを教えてください。

部門創設の背景には、「現場で戦う営業はいるが、戦略的に支援する機能が不足している」という課題意識がありました。私も「組織として営業を支える“仕組み”を作ること」に、大きな意義があると感じていたんです。

当時、グループ各社はそれぞれが独自にマーケティング活動に取り組んでいましたが、組織の縦割り構造が強く、なかなか全体最適には結びつきにくい状況でした。そのため、「グループ全体で市場に向き合う体制が必要である」といった考えのもと、パーソルホールディングスが横断的なマーケティング機能を担うために取り組んでいます。

パーソルグループには、300を超える豊富なサービスがあります。これらを有機的に組み合わせて、お客さまの多様な課題に対して最適解を導き出す―この仕組みこそが、パーソルグループの大きな武器であり、磨き続けたい価値だと思っています。

その考えを具体化するため、どのような取り組みを進めてきたのでしょうか?

最初の大きな取り組みは、「顧客情報の一元管理」でした。グループ全体で300万件を超える顧客の名刺情報が蓄積されていながら、グループ会社ごとにそれぞれ管理しており、グループとして柔軟な活用ができていなかったんです。「お客さまに最適な提案を、最適なタイミングで届ける」ことを第一に考え、まずは名刺データを統合・共有する仕組みを整備しました。

導入にあたっては、どのような壁がありましたか?

特に注力したポイントは3つあります。

1つ目は、「名刺の所有意識の壁」をどう越えるかという点です。これはグループ各社の役員やサービス責任者と話し合いを重ね、グループ全体の視点での意義を丁寧に伝え続けました。

2つ目は、法令対応です。法務やセキュリティ部門と半年以上にわたって連携し、個人情報保護法や特定電子メール法に則った運用ができるよう、プライバシーポリシーを整備しました。

そして3つ目が、現場の理解です。「何のために共有するのか」「どう使われるのか」といった声に正面から向き合い、納得してもらえるように準備と対話を重ねました。

当初は斬新すぎる施策として捉えられ、慎重な声も多くありましたが、2021年には土台が整い、着実に成果を出すことで周囲の評価も変わっていったんです。取り組みの成果が認められ、最終的には社内表彰を受けるまでに至りました。

そこから、どのようなステップへと進まれたのでしょうか?

名刺活用の高度化を進める中で、次なる挑戦として取り組んだのが、生成AIを用いた営業プロセスの再構築です。

具体的には、「名刺交換の日時や場所」「お客さまの業種・部署・役職」さらには「よく閲覧するWebサイト」といったデータまでを幅広く取得し、類似属性の成功例をもとに、生成AIが顧客企業ごとに適したアプローチを導き出すというものです。その結果を踏まえ、適切なタイミングでアポイントを取得し、お客さまの課題に応じたサービス提案へと繋げています。

過去3年間は、AIの継続的な学習を通じて、営業プロセスの改善と最適化に注力してきました。

組織の境界を越え、パーソルグループ全体のDXを動かす挑戦

4月から本部の名称が「グループAI・DX本部」へと変わりました。この変化をどう受け止めていますか?

本部の名称変更は、現在進めている戦略と合致しており、自分の中でもとても納得感のある変化だと捉えています。

一方で、生成AIを活用した営業支援の仕組みは、私の管掌領域とインサイドセールス部門に限られているのが現状です。テクノロジーの力で営業プロセスを進化させる余地は、グループ全体にまだ大きく残されていると感じています。

テクノロジーの活用は、今後どのように広がっていくと考えていますか?

求人ニーズは突発的に発生することが多く、なかなか予測して準備を進めることが難しいため、常日頃からお客さまと接点を持ち情報をキャッチしていくことが重要です。こうした観点でもテクノロジーや営業プロセス自体を刷新することで、グループ全体の生産性向上に大きく貢献できると考えています。

今期からは「テクノロジーを使うこと」そのものではなく、「テクノロジーをどう活用し、グループ全体に貢献していくか」が問われるフェーズに入りました。そのため、経営戦略本部と連携しながら、グループとしての法人戦略の再定義にも取り組んでいます。

本部の名称変更と同じくして新設された「マーケティング企画室」には、どのような狙いがあるのでしょうか?

パーソルグループでは、2030年までに「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」という目標を掲げています。その実現に向けて、法人戦略をより具体化・実行していく中核機能として「マーケティング企画室」を立ち上げました。

たとえば、「売上目標は達成していても営業一人あたりの生産性が鈍化している」といった“見えにくい課題”に対して、組織全体を俯瞰しながら体制を整えていく必要があります。そのためには、単なる数値目標にとどまらず、もう一段解像度の高い法人戦略を描くことが重要だと捉えています。

法人営業の生産性を高めるには、グループシナジーの活用と法人マーケティング機能の強化が欠かせません。だからこそ、未来を見据えた戦略的な打ち手を、グループ全体で実行していきたいと考えています。

マーケティング企画室から広げる、未来志向の法人戦略

これまでのお話から、繁田さんは強い信念を持ちながら、常に挑戦し続けている印象を受けました。その思いやモチベーションは、どこからきているのでしょうか?

私自身、根っこは「怠惰な人間」なんです(笑)。大学時代は、ほとんど授業に出ず、家でゲームばかりしていました(笑)。そのため、もともと「給料を上げたい」「出世したい」といったモチベーションはあまりなくて。だからこそ、「これは自分が頑張るべきものだ!」「僕の使命なのだ!」と思える、仕事に打ち込むための自分なりの理由が必要なんですが、まさに今の仕事には、その理由を感じているんです。

今の法人マーケティングの取り組みには、組織や事業の未来に本質的に貢献できるという確かな意義があります。また、メンバーに対しての責任があり、信じてくれている以上、絶対に実現させる―そんな思いが、今のモチベーションに繋がっていますね。

新しい領域や大きな壁に挑む中で、難しい判断が迫られることもあると思いますが、どのようなことを大切にされていますか?

常に「自分で決める」というスタンスを大切にしています。たとえ結果が良くなくても、「自分で決めたことだから納得できる」と思えるんです。

パーソルグループの「自分の“はたらく”は、自分で決める」という言葉には、個人的にも非常に共感しています。過去の選択もすべて自分で決めてきたからこそ、今の自分がある。これからも、自分の意志で選び、責任を持ってやり抜いていきたいと思います。

ありがとうございました!

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/長坂佳宣(PalmTrees)
※所属組織および取材内容は2025年7月時点の情報です。
※略歴内の情報は2025年4月時点での内容です。

Profile

繁田佳典 Keisuke Shigeta

パーソルホールディングス株式会社
グループAI・DX本部 法人マーケティング部 部長

ベンチャー企業で求人領域の営業経験を経て、2008年にインテリジェンス(現:パーソルキャリア)に入社。2019年、マーケティング機能立ち上げに伴いパーソルホールディングスへ転籍。2024年より法人マーケティング部 部長として、テクノロジーを活用した営業プロセス改革やグループの成長戦略推進に取り組む。

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