クラウドシフトを超え、AI時代に最適化する。次の変革を導くインフラ戦略

テクノロジードリブンの人材サービス企業を目指す、パーソルグループ。今回は、クラウドシフトの先を見据えた進化に挑む水戸に、AI時代に適応するインフラ戦略と、変革を担う組織の挑戦について話を聞きました。

インフラの進化を加速させる――運用とコスト、両面から最適化する戦略フェーズへ

まず、2025年4月に横並び組織の部長同士でポジションチェンジが行われましたが、その背景について教えてください。

私が所属するグループIT本部では、以前から管理職の担当領域を意図的に変えることで、組織全体の価値を高められると考えていました。というのも領域が固定化されると、どうしても視点や発想が限定的になり、変化を生みにくくなるからです。

ビジネスコアインフラ部とワークスタイルインフラ部の部長同士が入れ替わるという配置転換が行われたのですが、長く同じ部門を管掌してきた私と塚本にとって、それぞれの専門性や知見を新たなフィールドに展開させ、組織の変革力を高める好機でした。また、私自身、前職で長くインフラ領域に携わってきた経験を活かすうえでも、非常に意義のあるタイミングだったと捉えています。

こうした背景のもと、これまで培ってきた経験と新たな視点を掛け合わせながら、持続的な成長を実現する組織変革に取り組んでいます。

現在、ビジネスコアインフラ部はどのような役割を担っているのでしょうか?

以前から一貫して進めているのは、国内グループ各社の業務システムをすべてクラウド環境へ移行する「クラウドシフト」の推進です。この取り組みは、パーソルグループ全体の事業基盤を進化させるうえで、重要な柱と位置づけられています。

ただ、クラウドは導入して終わりではありません。技術や業務プロセスは日々変化していくため、インフラもそれに合わせて素早く最適化させる必要があります。特に、パーソルグループのような大規模組織では、障害発生時の影響も大きく、より迅速で的確な対応力が求められます。

そこで今注力しているのが、クラウド環境のモダナイゼーションと、オブザーバビリティ(可観測性)の強化です。システムの状態をリアルタイムで可視化し、異常の早期検知と即時対応を可能にすることで、安定運用と継続的な価値提供の両立を目指しています。

こうした「次の一手」に踏み出せているのは、前任の塚本がこれまでクラウドシフトで確かな土台を築いてきたからこそです。現在はその基盤を活かしながら、より戦略的かつ発展的なテーマに取り組めるフェーズに入ったと感じています。

クラウド移行の先を見据えた中で、どのようなアプローチを進めているのでしょうか?

インフラ領域だけに閉じていては、どうしても施策の幅が限られます。より大きな変革を生み出すには、他部門とも連携しながら、新たな価値を生み出す視点が欠かせません。

すでに、グループAI・DX本部 ビジネスITアーキテクト部が主導するIT運用保守改革プロジェクトで実装された「リソースの自動最適化技術」を参考に、全社への展開に向けた検証や仕組み化に取り組んでいます。この構想が実現すれば、運用の効率化だけでなく、ITコストの削減にも大きな効果が期待されています。

従来のインフラの枠にとらわれず、アプリケーションの視点や他組織の知見を積極的に取り入れながら、より実効性の高い改革を進めていきます。

テクノロジーを活用した仕組みづくりにおいて、欠かせない視点があれば教えてください。

AIを軸に事業変革を推進する一方で、テクノロジーの高度化に比例してITコストも年々増加傾向にあります。今では活用と同時に「適切なコスト管理」も、グループ全体の重要なテーマの一つです。

パーソルホールディングスでは、コスト削減の効果が社内表彰の対象となるなど、全社的にコスト最適化を推進する姿勢が明確に打ち出されています。その結果、現場では「どこにメスを入れるべきか」という視点が、自然な発想として浸透しつつあります。 事業成長のために新たな仕組みを構築するだけでなく、ITコストを最適化し、より重要なところに集中投資していく――こうした視点の変化こそが、テクノロジードリブンの未来を現実のものにしていく原動力だと思います。

挑戦を恐れず、信頼を守る。責任感と主体性で築く、仲間と支えるグループ基盤

水戸さんはベンダー企業の「システムを提供する側」から、現在の「システムを使う側」へとキャリアを移されていますが、この大きな転換には、どんな思いがあったのでしょうか?

前職のITベンダーでは、長く顧客への提案業務に携わっていました。ただ、ある程度経験を積むと提案の型は身につきますが、それが本当にお客さまの課題解決につながっているのか、自分の中で疑問が残るようになっていたんです。

そうした思いから、ユーザー企業である生命保険会社へ出向し、24時間365日稼働する基幹システムの運用チームで管理職を担いました。

正直、それまでは「どう売るか」だけに意識が向いていましたが、初めて現場の最前線に立ち、「絶対にシステムを止めない」という視点に触れたとき、大きな衝撃を受けたんです。

具体的に感じた気づきや変化を教えてください。

一番印象に残っているのは、現場全体に根づいていた「責任感の強さ」です。システムが停止すれば事業が止まり、売上にも直結する。そんな緊張感の中で、誰もが「システムを止めない」という意識を当たり前のように持っていたんです。

台風の日でも席にはいつも通りメンバーがそろっていて、トラブルが起きると誰に言われるでもなく、周囲のメンバーが次々とサポートに入る――「チームワークでシステムと向き合う」という、これまで歩んできた世界とはまったく違う、価値観が大きく揺さぶられる体験でした。

この現場を経験せずにキャリアを終えたら、きっと後悔する。そう思えるほど現場に向き合う仕事の奥深さを感じ、転職を決意しました。

パーソルホールディングスに入社して、前職と比べて特に印象の違った点はありましたか?

まず驚いたのは、一人ひとりが自発的に「こうしたい」「もっと良くできるのでは」と提案し、行動していく姿勢です。そうした姿勢をポジティブに受け止める土台があるからこそ、社員一人ひとりの成長意欲や問題解決力が、自然と引き出されているのだと思います。

主体性が連鎖する組織文化は、前職ではなかなか経験できなかったもので、パーソルホールディングスならではの特長だと感じています。

環境を変えながらも、一貫して大切にしている価値観はありますか?

「郷に入っては郷に従え」ではありませんが、どんな環境でも、そこで求められる文化やスタイルに自分を合わせていく姿勢を大切にしています。

実際、私がパーソルホールディングスで最初に任されたのは、これまで経験のないグループウェアの領域でした。最初は分からないことだらけでしたが、「自分に何が求められているのか」に意識を向けることで、少しずつ役割を広げられたのだと思います。

一方で、どんな環境でも変わらず持ち続けているのが、「守り」の重要性です。これまで、安定運用や堅実な保守が、どれほど組織に価値をもたらすかを肌で感じてきました。だからこそ、コストの最適化も単なる削減ではなく、守りの延長にある重要なテーマだと捉えています。

経営と現場をつなぎ導く、AtoA時代を見据えたインフラ戦略の最前線

テクノロジーの進化が著しい今、インフラ領域には何が求められているのでしょうか?

生成AIの進化により、今後は複数のAIエージェントが連携し合う「AtoA(Agent to Agent)」の時代が本格化していきます。そうした未来に向けて、どんなAIであってもセキュアかつ柔軟に接続できる共通基盤の整備が欠かせません。

たとえば現場から「このAIを使いたい」と声が上がったとき、すぐに活用できる体制があるかどうか。それが今後の事業スピードや競争力を大きく左右します。

そのため、AIの進化をいち早く捉え、あらゆるニーズに応えられるインフラ環境を先回りして整える必要があります。それは決して裏方の仕事ではなく、AI活用のスピードを支える“前線の役割”だと思っています。

こうした基盤づくりを通して、インフラ部門としての価値をさらに高め、グループ全体のAI戦略を足元から力強く支えていきたいと考えています。

セキュアなインフラを実現するためには、どのようなアプローチが有効だと考えますか?

非常に難しいテーマですね。私たちも日々、AI分野の国際的な調査機関のレポートや最新の業界動向を注視していますが、「この領域の正解」を持っている企業は、まだどこにもないでしょう。

ただ、「今後こういう方向に進むだろう」ということはある程度示されているので、そこに向けて自分たちで仮説を立て、詳細に予測をし、柔軟に準備していく必要があります。

答えが明確にない中でも、最新の情報をキャッチアップし続けながら、現実的な選択肢を積み上げていく。そんなアプローチが、未来を支えるインフラをつくっていくカギだと思います。

“正解がない未来”に向けたインフラづくりの中で、重視していることを教えてください。

インフラは、取り組みの成果がすぐに表れにくい領域です。しかし、AIやクラウドのような「攻めの取り組み」を支えるには、その下にある基盤が、どれだけ柔軟かつ堅牢であるかが重要になります。

だからこそ、今何に取り組んでいて、それがどんな未来につながっていくのか――そうした、経営が描く理想と、現場が向き合うリアルの間を“翻訳”する。挑戦の手が止まらないよう、仕組みそのものを設計していくことが、私の担うべき役割だと捉えています。

挑戦を当たり前にする文化が、変革を加速させる。インフラから広がる価値の連鎖

“テクノロジー推進”以外に感じる、パーソルホールディングスの魅力は何だと思いますか?

私が強く感じているのは、「部門を超えた変革マインド」が根づいていることです。たとえば、部長陣が毎週集まり、組織課題についてフラットに議論を交わす「部長スクラム」という取り組みがあります。

組織全体のアジャイル化を進めるにあたって、まずはマネジャー自らがスクラムマスターの研修を受け、資格取得を目指しました。現場に求めるのであれば、まず自分たちが理解し、実践するべきだという強い思いがあったんです。

今では、議論の中から生まれたアイデアや気づきを、それぞれが自部門に持ち帰り、実際のアクションへとつなげるサイクルが自然に回っています。組織全体の変化に対し、一人ひとりが当事者意識を持ち、部門横断で推進できる土壌が整っています。

こうした取り組みや文化は、他の企業ではなかなか見られない、パーソルホールディングスならではの魅力です。

ビジネスコアインフラ部門では、どのような考え方や姿勢が求められているのでしょうか?

「この人となら前に進める」と感じるのは、完璧でなくても、まずやってみようと一歩踏み出してくれる人です。たとえば、私が「こんなことを試してみたい」と話したときに、「面白そう」と素直に反応してくれる。一緒に考えたり、自分なりに調べてみたりするなど、前向きに関わってくれる姿勢を持っている人は頼もしいですね。

「それは自分の範囲ではない」と線を引くのではなく、少し背伸びしてでも同じ方向を見て走ろうとする人がいるだけで、チームの空気は大きく変わります。

実際に、そうした前向きな仲間がいるからこそ、私自身も新しい取り組みに踏み出せています。変化を楽しみ、挑戦にまっすぐ向き合える姿勢が、今この組織で活躍している人たちに共通する要素だと思います。

最後に、現在のビジネスコアインフラ部門ではたらく魅力を教えてください。

私たちの組織の最大の魅力は、自らの意思で仕事の領域を広げ、周囲と連携しながら新たな価値をつくり出せることです。

単に決められた業務をこなすのではなく、「こうすればもっと良くなるのでは」「このチームと連携すれば、より大きな成果が生まれるのでは」といった発想を、自分たちで形にしていける環境があります。

インフラという専門領域を起点にしながらも、隣接するフィールドにも積極的に関わることで、個人の視野も、組織としての提供価値も自然と広がっていく。その過程を楽しめる人にとって、非常にやりがいのある職場だと思います。

ありがとうございました!

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=長坂佳宣(PalmTrees)
※所属組織および取材内容は2025年12月時点の情報です。
※略歴内の情報は2025年10月時点での内容です。

Profile

水戸宗友 Munetomo Mito

パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部 ビジネスコアインフラ部
部長

1999年、外資系ITベンダーにてキャリアをスタートし、インフラ領域のITアーキテクチャ設計や顧客へのシステム提案活動に従事。2017年11月にパーソルホールディングスへ入社し、現在はパーソルグループにおけるワークスタイル変革を担い、生成AIを中心に従業員体験の良化に向けた取り組みを推進している。

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