【勉強会開催レポート】[パーソルホールディングス×良品計画]システム企画・PMのための「変革を起こす力」の身につけ方―外部支援と内部推進、それぞれの現場から学ぶ構想力と推進力―

Profile

Takashi Sano

株式会社良品計画
ITサービス部コンシューマーサービス
店舗デジタル推進課
課長

2000年に独立系Sierに新卒入社し、システム開発、NW・インフラエンジニア、PMとしてのキャリアを積み、2016年~事業会社に転職。
2021年から良品計画にジョインし、店舗システムのデジタル化を推進。

Taro Tabata

パーソルホールディングス株式会社 
グループAI・DX本部 デジタル推進部
部長

コンサルティング会社2社で、ITコンサルタントとして顧客企業のプロジェクト支援を務めた後、2022年5月にパーソルホールディングスに入社する。DX推進準備室において、国内グループ各社のプロジェクトの推進・支援に携わり、2025年4月より現職。

2025年10月15日(水)、パーソルホールディングスが主催する勉強会『[パーソルホールディングス×良品計画]システム企画・PMのための「変革を起こす力」の身につけ方―外部支援と内部推進、それぞれの現場から学ぶ構想力と推進力―』に、パーソルホールディングスの田端太郎が登壇しました。

多くの企業で進められているDXですが、システム企画やPMとしてDXに携わりながらも、事業の成長につながっていることが実感できていない人も意外に少なくありません。成果に結び付けるために必要になるのが変革を起こす力。ではその力をどのように身につければ良いのかという点について、田端とともに良品計画でデジタル化推進プロジェクトに携わっている佐野崇氏が登壇し、日々の業務の中で変革を起こす力を磨く方法、コツなどについて紹介しました。

今回は、当日お話しした内容から一部抜粋・編集の上でご紹介します。

※本記事に記載している情報は、2025年10月時点のものです。

ITコンサルから事業会社DXへ:基幹系システムの機能改修プロジェクト事例に学ぶ「現場と歩む変革のリアル」

「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げ、人材派遣や人材紹介などの人材サービス事業を展開しているパーソルグループ。同グループの持ち株会社であるパーソルホールディングス株式会社 グループAI・DX本部 デジタル推進部に所属、デジタルCoE(Center of Excellence)としてグループ会社のプロジェクト支援を担当しているのが、田端である。

田端の社会人としてのキャリアは、2005年にコンサルティングファームのアクセンチュアに就職したことから始まる。9年間、アクセンチュアでITコンサルタントとして従事。2014年には同じくコンサルティングファームのベイカレントに転職した。

田端

キラキラした経歴に見えますが、泥臭くハードワークしていました。

2022年に「事業会社で働いてみよう」と一念発起し、パーソルホールディングスに転職した。

デジタルCoEに求められる役割

田端が務めているデジタルCoEは、組織横断的な取り組みを進めるために、優秀な人材やノウハウを1つのチームに集約して組織化を目的としている。

田端

具体的にはITの企画や開発、プロジェクト管理など専門的知識を持った横断チームを組成して、グループ会社を支援していこうという取り組みです。

パーソルグループではこれまで、グループ会社ごとに最適な投資・体制構築を実施してきた。各グループ会社が自主的にデジタル変革の投資を行っていたのである。

だが3年前より、パーソルホールディングス内にデジタルCoEを設置し、グループ全体で戦略的なDX投資を行っていくことになった。デジタルCoEの役割は、①デジタル化の推進支援、②グループ内でのデジタル価値向上と事業貢献、③ナレッジの蓄積によるパーソル内での高いパフォーマンス発揮、④グループへのナレッジ展開、⑤クロスファンクショナルなコラボレーションである。

田端たちは「グループ各社のデジタル化を加速することを考える」ことを担って活動しているのである。

デジタルCoEとしてプロジェクトの課題をどう乗り越えたのか

田端は実際に進めてきたプロジェクト事例を紹介。1つ目の事例は基幹システムの機能改修案件である。カスタマー向けのサービス向上を目指した機能改修プロジェクトに、PMOとして参画した。体制は図をみればわかるように、全体PMの下に業務、IT、開発の3つの組織を設置。田端たちは、全体PMを支援する全体PMOと、業務PMを支援する業務PMOとして参画した。結果、同プロジェクトは計画通りに完了し、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の担保に大きく貢献できたという。

だが、同プロジェクトでは2つの壁が発生していた。第1は既存の壁。既存のプロセスを最重要視されがちで、効率的なやり方や質の高いやり方に変えようとしても、抵抗感を抱かれたのだ。「新しいことに力を割くことが難しく、現状を変えたくないというバイアスがかかりがちだったことが根本原因だったと思う」と田端は説明する。それをどう解決していったか。

田端

非常に泥臭いやり方だが、相手のやり方を否定することなく、自ら手を動かして資料作成や連携などを行って効果を実感してもらいながら、少しずつやり方を変えていくアプローチを取りました。

第2は組織間の壁。業務が忙しく他部門の支援に力を割けなかったり、既存の枠組みに引っ張られ、組織を超えた課題解決や支援が行いにくいことがあったことだ。

田端

うちのチームだけ良ければよいという個別最適に陥りがちでした。

この壁を感じないように、田端たちは現場の作業の巻き取りをすると共に、チーム間のコミュニケーションの支援を行うことで少しずつやり方を変えていった。

田端

特に業務側の手伝いをしました。

2つ目の事例は基幹システムのSaaS化プロジェクト。基幹システムの老朽化に伴い、クラウド移行とバージョンアップを同時並行で行った。同プロジェクトにもPMOで参画した。体制は業務側、IT側それぞれにPO、PMを立て、PMOはそれを横でつなぐ役割を担った。結果としてはこちらもプロジェクトは計画通りに完了、QCDの担保に貢献できたという。

同プロジェクトにおいても壁を感じていた。第1の壁はIT知識の壁。業務部門側が気軽に質問できなかったり、要望事項を伝えられなかったりしたのだ。この壁を解消する打ち手としては、業務部門に任せず、協力会社との会議に参加し、業務部門と一緒に疑問点の解消や要件のすり合わせをしていく協業体制の構築をすることだという。

第2の壁は協力会社との壁。協力会社から期待するようなアウトプットが得られなかったのだ。「そのときに感じたのは、協力会社に対して過剰な期待を抱いたこと」と田端は話す。

そこで田端たちは協力会社任せにせず、結論に至るために必要なタスクを分解して依頼したり、情報を吸い上げた上で、対応策を一緒に検討するなどの協業体制を構築した。

3つ目の事例は業務部門のプロジェクト支援。データ入力業務において誤入力件数が増大するという課題が発生。その課題を解消するために業務部門はツール導入を検討し、その支援を行った。

この事例では固定概念の壁が発生した。決定事項のみを重要視し、検討経緯の理解やそれ以外の解決方法の検討を進められなかったのだ。

田端

決まったことを実現することに注力しがちでした。

そこで田端たちは、そもそもの課題を紐解くことから始め、現状を整理、理解した上で適切な対応策を検討することを支援した。

田端

現場での課題解決は地道な作業の積み重ね。DXはひとつひとつの課題を丁寧に解決することで、大きな成果につながっていくんだと思いました。

IT部門に求められていること

デジタル変革に向け、IT部門に求められていることは、「3つある」と田端は言う。まずはベンダーマネジメント。ITコンサル時代、田端は協力会社にお任せしてしまう企業を多く見てきた。「協力会社への過度な依存はリスクが高い」と田端は指摘する。IT部門には状況を正しく理解し、自ら手を動かしてプロジェクトの停滞を打破することが求められているのだ。

2つ目はユーザー支援。表面的な理解によって判断を誤ったり、バイアスにより正しい情報を得られなかったりするケースも多い。

田端

丁寧に情報を収集した上で、俯瞰的に状況を見ながら課題を深く理解し、かつ相手側にとってネガティブなことであっても本来あるべき提案を行うことが必要だと思います。

3つ目はチャレンジ精神。変化の潮流が速い今は、変化しないこと自体がリスクになっている。一方で、不確実性を恐れ、変化へのリスクを過度に評価し、現状維持に留まるケースも多い。

田端

リスクを正しく評価して備えれば、変革に向けた一歩を踏み出せるのではないかと思います。

今後磨いていきたいスキルについても田端は言及した。田端が磨きたいスキルの第1は、アウトプットする力。ITコンサル時代は、成果物作成能力が求められていた。内部に入った今も、「状況は変わらない」と田端。これからもインプット/アウトプットの量、質、スピードを向上させていきたいという。

第2は想像する力。内部からの支援は、開発側との距離感を感じるが、限られた情報の中で適切な状況判断をすることになる。

田端

コンサルタントとして現場での経験があると、何が起こっているかをある程度イメージしやすいと思うので、そのイメージを膨らませて、必要な対応をしていくことが重要です。

第3は予測する力。外部から内部に移ってきたとき、プロジェクトは手段であることを強く感じたという。

田端

目の前のシステムやプロジェクトを見るのではなく、事業や組織にどう影響しているかを理解し、未来を予測することが必要です。

事業会社でのデジタル化推進プロジェクト事例紹介:店舗レジシステムの刷新

無印良品やMUJIブランドの商品開発、販売を展開する良品計画では2021年より販売システム刷新プロジェクト「MUJIPOSプロジェクト」を推進している。今回登壇した佐野崇氏は、店舗システム全体の最適化・DX推進を担当している。

佐野氏は2000年にSIerに入社し、エンジニアとしてのキャリアをスタートさせた。2006年にIIJに転職。2016年まで「ITサービスの提供側で仕事をしていました」と話す。その16年間で、システム開発はもちろん、ネットワークやインフラの知識を身につけた。そのうち、10年間はプロジェクトマネージャーとして、プロジェクトに従事。

インフラエンジニアやプロジェクトマネジメントのスキルをバックボーンに2016年にローソンのシステム子会社、ローソンデジタルイノベーション(LDI)に入社。

佐野

ここでは小売全体の最適化を進めるために全商品にRFIDタグを張り付けてサプライチェーン全体の最適化を計ったり、『Lawson Go』というウォークスルー決済の実証実験を行ったりしました。

LDIではレジをなくす取り組みをしていた佐野氏だが、良品計画に入ってからは、「店舗のレジを一生懸命作っています」と笑みを浮かべる。

販売システム刷新プロジェクト(MUJIPOSプロジェクト)とは

佐野氏が良品計画に入社した2021年9月時点での国内店舗数は約450店。中期経営計画では国内約500店舗を2030年までに1000店舗まで増やすことを発表していたのである。つまり年間100店舗出店していくことになるが、これを実現するにはいろいろ課題があった。

まずはコストの課題。店舗増に比例してコスト増になる構造になっていたのである。次はスピードの課題。

佐野

これまで使っていたレジは20年以上前に作り上げたもの。レガシーシステムの制限により開発のスピードが上がらない、ハードウェアの供給が追いつかないなどのリスクもありました。

3つ目の課題が機能・品質。店舗ではセルフレジが導入されていたが、「トラブルが頻発していた」と佐野氏は明かす。それを改善してほしいという要望が増えていたのだ。

これらの課題を解決する目的で立ち上がったのが販売システムの最適化を行うMUJIPOSプロジェクトと、IT経費の最適化を目指した統合ヘルプデスク構築プロジェクトである。

システム構成は次の図の通り。左側が既存(As-Is)のシステム構成。各店舗に有人レジ、セルフレジファースト、セルフレジセカンド、キャッシュレスセルフレジと4種類の異なるレジアプリケーションを導入。決済の金種を1つ追加するだけでも、4種のアプリケーションに手を入れなければならなかった」と佐野氏は話す。

右側のあるべき姿(To-Be)では、既存システムの課題を解消した構成となっている。

佐野

有人レジとセルフレジはアプリケーションが分かれているように見えますが、モード切替で対応できるので実態は1つです。

業務効率化を実現、1年強で投資費用を回収

これによりプロジェクト発足時の課題はすべて解消。しかも店舗の業務効率化にも大きく貢献し、1年強で投資の回収もできた。

第1に店舗経費および出店投資費用の削減。システムの運用費で約6割、レジ単価で約2割削減できたという。これだけの効果を出すために、システム運用費については店舗機器の保守スキームを改革。

佐野

月額定額ベースを作業実績ベースに変更。従来はPOSのハードベンダーにお願いしていましたが、サードベンダーに現地対応をお願いすることにしました。

レジについては新しいベンダーに変更することでソフトウェアライセンス費を削減。またレジ什器については内製化して、コスト削減を実現したという。

第2は計画的な機能拡張とハードウェアフリーの実現。

佐野

半年に一度のメジャーリリースと3カ月ごとのマイナーリリースという形にしました。

タイミングを固定したのは、POSベンダーにエンジニアリソースを確保してもらうため。また昨今のPOSの世界では、ハードウェアとソフトウェアの分離が進んでいる。

佐野

今回は既存のアセットを有効活用しましたが、今後、ハードウェアのEOSL(End Of Support Life)を迎えた時に、最適なハードウェアを選択できるという価値も手に入りました。

第3は安定稼働の実現。新しいPOSシステムのリリース後、影響度の高い障害件数はゼロ件になった。

第4は店舗の業務効率化が実現したこと。

佐野

UIや返金に関わる業務機能を改善したことで、1年で約35万時間の業務効率化を実現しました。

事業会社で生きるSIerで培ったスキル

現在の業務に16年間、ITサービス提供側で培ってきたどのようなスキルが生きたのか。佐野氏は「3つある」と話す。

まずはPMスキル。「どちらの立場にいても、普遍的に有効活用できるスキル」と佐野氏は力を込める。具体的にはプロジェクトの計画作成、体制構築、ベンダーコントロール、リスク管理、ステークホルダー管理などのスキルである。

2つ目はエンジニアスキル。「実装の中身が分かることは大事」と佐野氏。今回、佐野氏と直接やり取りをしたPOSシステムのベンダーは小規模だったため、基本設計や非機能設計などプロジェクトの上流工程のナレッジが少なかったという。そういうベンダーと進めるには、エンジニアスキルが役立ったと佐野氏は言うのである。

また深くベンダーと関わることで、プロダクトの品質向上にもつながった。「中小のシステムベンダーと取り組む場合には非常に重要なスキル」と佐野氏は言う。

3つ目はITサービスマネージャー。SIerではシステムのリリースがゴールだが、事業会社はそれがスタート。その後も業務成果につなげ、継続的に改善していく取り組みが必須になる。そこで必要となるのが安定稼働を実現するためのシステム運用の可視化や運用設計、サービスレベル定義、PDCAサイクルの実行が必要になる。いわゆるシステムの安定稼働と継続的な改善を実行する仕組みを作るスキル。このスキルがITサービスマネージャーに必要というわけだ。「安定稼働を実現するうえで、エンジニアスキルとITサービスマネージャーのスキルは、非常に役立った」と佐野氏は振り返る。だがITサービスマネージャーのスキルを持つ人材は非常に少ない印象があるという。

パネルディスカッション「変革を起こすシステム企画・PMのキャリアと学び」

各セッション終了後、佐野氏と田端によるパネルディスカッションを行いました。

テーマ①キャリアを変えた“転機”の瞬間

キャリアを変えた転機について教えてください。

田端

考え方がガラッと変わったのは、マネージャーになったとき。ITコンサルから事業会社に入り、PMやPMOの役割を担当したとき、実は前職の延長線上でしか考えていませんでした。ですが、自分自身でチームを率いると、自分でいろいろ説明しなければならなくなります。そのときに、自分の存在価値やチームの存在価値を内省するようになり、今までと考え方を変えなければいけないんだと思いました。

佐野

SIerと事業会社の違いは、自ら企画して動かしていくかどうか。SIerでは上長にアサインされてプロジェクトが始まるケースが多いですが、事業会社だと自分で企画を立ち上げて、覚悟を決めて実行していくケースがあります。その覚悟を決めた瞬間が転機になりました。

2018年、ローソンはCEATECに出展しました。ですが、当初、出展することだけが決まっており、内容は決まっていなかったのです。そこで私は店舗で売っている商品を会場に持ち込み、RFIDのタグをつけ、実際に買い物ができる実験店舗を紹介することを考えたのです。社内の調整はもちろん、ベンダーにも協力体制を仰いで実行しました。勇気のいった取り組みだったのですが、一歩を踏み出せたことで、大きく変われたと思います。

テーマ②事業会社で得た想定外の学び

事業会社ではどんな想定外の学びがありましたか。

田端

人ですね。入社して2年間ぐらい、採用面接の担当者が上司でした。その上司から「田端さんは人の心がよくわかってないのでは」というようなことをよく言われていました。ITコンサルのときは、システムに向き合う時間が長かったこともあり、人を理解することはあまり重要視されていませんでした。事業会社にくると、いろんな人を巻き込む必要があります。そのときにこの人はどういうことを考えているのかなど、人を理解することの大切さを学ぶことができました。

佐野

良品計画は小売業なので、商品を作って販売することが生業(なりわい)です。システムを作ることは手段に過ぎず、目的を達成するためのツールの1つでしかありません。事業会社では常に、会社が抱えている課題を解決するためにはどうするか、という考えになる。つまり必然的に目線が変わるのです。目線が変わることでインプットのアンテナも変わるので、視野も広がります。

社会にもつながる課題をどう解決していくか。事業会社ではそれを学ぶ機会が得られます。

テーマ④明日から動ける!システム企画・PMへのアドバイス

明日から現場で実践できる、システム企画・PMとして活躍するための一歩についてアドバイスしてください。

田端

1つは基礎的なビジネス力を身につけること。社会人の業務やビジネスは読み・書き・そろばんが一番重要だと思っています。特にPMは読む力=インプット力、書く力=アウトプット力を磨くことが欠かせません。

もう一つは予測する力です。相手がどう動くのかを想像したり、一つ先をイメージする癖を付けることで、プロジェクトがうまくいくような気がします。

佐野

課題を見つけることだと思います。システム企画は、何かを企画してシステムを立ち上げ、現状を変えていく役割を担います。日頃から、身近なことでも良いので、課題を見つけることを心がける。それが一歩目になると思います。

今すぐに初めて、特に効果が大きそうなことはありますか。

田端

資料を作る量、質、スピードがあるといいと思います。プロジェクトのスムーズな進行には、ステークホルダーや関係者の合意形成が欠かせません。そこで必要になるのが質の良い資料。それをクイックに作れる能力があるとかなり有効ですね。

佐野

新しいことを始めるとき、それが本当に価値のあるモノかどうかはわかりません。なので一歩目は完璧なモノでなくてもよいと思います。まずは行動を起こすこと。たとえ新しいことが始められなかったとしても、それは学びになるし、いつかは花開くタイミングが来るかもしれません。自分の思いを形にして周りに説明する、意見をもらうこと。これは有効だと思います。

テーマ⑤外から支える/中から仕掛けるキャリア選択の価値

田端さん、佐野さん共に、両者の立場を経験されています。両方を経験し、どんな強みが得られたのでしょうか。

田端

事業会社に入って思うのは、視野や視座が変わったこと。ITコンサルの場合は、プロジェクトが終わると離れてしまいます。その後、その事業やシステムがどういう価値を生み出したのかなど、先のことは見えなくなる。SIerにいるほうが専門性は得やすいとは思いますが、プロジェクトの先に事業が存在する、つまり事業を軸とする視野や視座は中から仕掛けるところにいないと、身に付きにくいと思います。

佐野

ITサービスの提供側、特にSIerは基本的にプロジェクトでデリバリーを実行していくことがメインの業務になります。事業会社にいると企画を立ち上げ、予算を取り、仲間を集めてプロジェクトを実行していく。このような営みは外部にいると経験するのは難しいと思います。

今回、良品計画では基幹システムのリプレースを経験しました。このプロジェクトでは企画開発から運用までのすべての工程を確度高く経験することができました。これは大きな学びになったと思います。

最後に過去の自分にメッセージを送るとしたら、どんなメッセージを送りますか。

田端

「そのまま頑張ってくれ」です。キャリアは目の前のことに一生懸命取り組むことで、その先のキャリアが生まれてくると思うからです。一見、無駄なように見えても、キャリアを積む上で、無駄なことはありません。

佐野

「事業会社に行った判断は間違いではなかったよ」と言いたいですね。僕は事業会社での仕事がすごく面白く感じています。自分がやりたいことができる幅は、SIerと比べると事業会社の方が圧倒的に広いと思います。自分で提案してやりたいことがある人には、事業会社が合っていると思います。

QAセッション

パネルディスカッション後、参加者からの質問に回答するQAセッションを行いました。

Q.

一番ヒヤッとした判断とその時の意思決定材料について教えてください。

田端

プロジェクトごとに定量化のテンプレートを作っています。その中でROIが出るかどうかを細かく見ているのが現状です。

価値は低いが政治的に強い要望のさばき方については、私も知りたいのが正直なところ。一応、ROIを示しながら説得しにいくぐらいですね。

Q.

事業会社ではスピード感を持って仮説検証のサイクルを早めることがビジネス競争力に直結するとも言われていますが、そのようなスピード感は求められませんでしたか。

田端

求められますが、そこを実現するのは非常に難しいことだと思います。事業会社の中にはセキュリティをはじめ、いろいろなリスクに対応する必要があるため、どうしても制約事項が発生するので、これからしっかりと考えていこうと思います。

佐野

スピード感を持って進めることは常に考えています。一方で、基幹システムのリプレイス案件の場合、急いで進めると痛いしっぺ返しがくる可能性があるので、こまめに中間報告をするなど、ネガティブキャンペーンされないよう関係者にインプットしていました。いわゆるステークホルダーマネジメントをしっかり行うことだと思います。

Q.

決済リードタイム短縮のために変えた会議体はありますか。また止める、棄てる判断の基準はどのように定めていますか。

田端

月次でステアリング・コミッティ(ステコミ)を実施し、その中で決定してもらっていました。ですので、ステコミの中でしっかりと決めることができる人に参画してもらっていました。

プロジェクトは目的にどう適合するかが一番重要だと感じています。状況によって変わるので、止める、棄てるの判断は基本的には存在しないと思うのです。それよりもプロジェクトの目的に合っているか、合っていないかで判断する。そのためにもぶれない目的をしっかり定めることが大事ですね。

Q.

TCO削減の内訳と、業務効率KPIをどのようにリンクさせたのでしょうか。回収期間、ペイバックと計算根拠を開示可能な範囲で教えてください。

佐野

今回のプロジェクトでは業務効率の向上は目標にしていません。というよりもできなかったというのが正しい表現です。ですが、保守の削減によりコスト効果が見込まれるのがわかったので、投資回収に関しては保守のスキームを変えることで可能になるという計算ができたので、それを進めていきました。

具体的な投資額は明かせませんが、例えばプロジェクトの投資が3億円だとすると、ハードウェアの保守の変更で年間1億円削減できるので、3年で回収できるという計算で進めました。

Q.

事業会社での開発文化から学んだ気づきがあれば教えてください。

田端

パネルディスカッションで話したとおり、人の理解やプロジェクトの進め方です。

まとめ

参加者からの質問も多数寄せられ、充実したセッションとなりました。今後もイベントやTECH DOORにて、パーソルグループのプロジェクト推進について紹介していく予定です。

文=中村 仁美
※レポート内容は開催日時点の情報です。

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「忖度」せず、分け隔てなく——パーソルグループの変革を下支えする「デジタル推進部長」の覚悟

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