30を超える基幹システムを“無風”でクラウドに。パーソルテンプスタッフが挑むアプリリフト

Profile

Osamu Kodama

パーソルホールディングス株式会社
グループAI・DX本部 Staffing ITソリューション部
クラウド推進室
シニアコンサルタント

2006年、新卒でユーザー系SIerに入社。大手食品製造メーカーなどのシステム開発・運用に従事し、PM/PLとして多くのプロジェクトをリード。2024年にパーソルホールディングスへ入社し、現在はプロジェクトリーダーとしてアプリリフトプロジェクトを推進。

Takehiro Tokita

パーソルテンプスタッフ株式会社
テクノロジー本部 クライアント IT推進部
クライアントIT2室
シニアコンサルタント

2022年にパーソルテンプスタッフ入社。基幹システムの運用保守、複数の大規模案件プロジェクトをリード。2023年からDCクラウド化アプリリフトプロジェクトのプロジェクトマネージャーとしてPoC・方式設計を経て、現在は移行計画およびテスト計画を推進するほか、並走する関連プロジェクトのPMを兼務する。

データセンターの廃止とクラウドへの全面移行は、多くの企業にとって避けて通れないテーマとなりつつあります。一方で、基幹システムを含む大規模な環境において「止めずに移行する」こと自体、極めて難易度が高いのも事実です。

基幹システムとその接続先を含め70以上のシステムが複雑に絡み合うなか、業務への影響を出さずに移行を実現するともなれば、その難しさは容易に想像できます。

今回は、パーソルテンプスタッフが進める「アプリリフトプロジェクト」をリードする、プロジェクトマネージャーの時田と、グループ横断のCoE(Center of Excellence)として支援にあたる兒玉にプロジェクトの舞台裏を聞きました。

大規模基幹システムのアプリリフトに挑む

まず、本プロジェクトにおけるおふたりの役割を教えてください。

時田

パーソルテンプスタッフのシニアコンサルタントとして、データセンタークラウド移行プロジェクトのサブプロジェクトのひとつである「アプリリフト」のプロジェクトマネージャーを務めています。
プロジェクトの目的達成に向けて計画を立て、QCD(品質・コスト・納期)を管理しながら全体を統制しています。加えて、並行して走る関連プロジェクトのマネジメントおよび連携を行っています。

兒玉

私はパーソルホールディングス所属のCoEの一員として、アプリリフトプロジェクトの推進に携わっています。

具体的な業務としては、移行対象のシステムを管理している担当者やセキュリティ担当者とやりとりを重ね、アプリリフトに必要な調査や仕様策定、スケジュール管理を担うとともに、新任メンバーのオンボーディングなども担当しています。多忙を極めるシステム担当が動きやすくなるよう推進面・技術面で支援することが、われわれCoEの務めです。

時田

パーソルテンプスタッフはグループの売上の中核を担っており、膨大なデータを要するシステムを多数運用していることからグループ内でも注目される最重要プロジェクトとなっています。

本プロジェクトの準備をはじめたタイミングで、パーソルホールディングス内にグループ全体のテクノロジー活用を加速するCoEが立ち上がりました。兒玉さんをはじめとするCoEの力を借りることで、難易度の高い本プロジェクトを推進することができており、非常に感謝しています。

このプロジェクトの概要を解説してください。どんなプロジェクトなのでしょうか?

時田

パーソルグループは、2026年度中にこれまで利用してきたデータセンターを廃止し、クラウド化する取り組みを進めています。これまでオンプレミス環境下で運用されていたアプリケーションをクラウド環境に最適化させる「クラウドシフト」と、現行機能をそのままにクラウドに移行する「クラウドリフト」が併走しています。

われわれが携わっている「アプリリフトプロジェクト」は、文字通り後者に位置づけられるプロジェクトとして2023年に発足しました。

オンプレからクラウドへの移行は世の趨勢といえます。パーソルグループでは移行のメリットをどのように捉えていますか?

時田

グループ各社のシステムをデータセンター運用からクラウド運用に移行することによって、インフラリソースの追加や縮退を柔軟に行えるようになるほか、経年劣化していたデータベース性能を見直す契機にもなり、サービス品質の向上が期待できます。
さらに、モダンなスキルセットを持ったインフラ人材の確保が容易になり、継ぎ目のないシステムの安定稼働と改善サイクルの高速化にもつながると考えています。

このなかで、われわれが行っているアプリリフトにおいては、移行前と変わらない使い勝手と性能を維持することが期待されています。障害発生はおろか、業務への影響をゼロに留め「いつの間にか変わっていた」というくらいの”無風”状態でプロジェクトを完遂することが一番の目標です。

プロジェクトを進める上での難しさについて教えてください。

兒玉

「業務への影響をゼロでクラウドリフトする」こと自体、かなり高いハードルです。なぜなら今回のアプリリフトの対象になるシステムは30を超え、その先にある接続先を含めると70以上のシステムが関わるためです。

このアプリリフトを成功させるには、蜘蛛の巣のように複雑に入り組んだ状況を漏れなく理解した上で、クラウド固有の仕様に対応しなければなりません。しかも過去の変更履歴がすべてドキュメント化されているわけではありませんし、当時を知る担当者がいるとは限りません。

各システムのどの機能とどの機能がつながっているのか、一つひとつ解きほぐしていきながら、仕様を決めて移行作業を進めていくのは、かなり骨の折れる作業の連続です。

時田

各システムの運用を担当するパーソルテンプスタッフ側のメンバーにも通常業務がありますし、他のプロジェクトからも多くの依頼が届くため、一方的にこちらがお願いしたい内容を周知するだけで「あとはよろしく」では通用しません。さまざまなプロジェクトが並走するなか、われわれからの依頼に応えてもらうには、兒玉さんのようなスペシャリストによる伴走が非常に重要なのです。

兒玉

依頼内容を関係者に周知した上で担当者を集めた定例会議を開き、こちらの依頼事項に不明点がないかヒアリングをかけ、もし対処に迷うことがあれば直接サポートに当たります。もし、現場に対処できる人がいなかった場合などには、われわれがシステム担当者に代わって、外部パートナーへの連絡や作業を代行することもあります。

また、プロジェクトを推進する上では、関係者全員の意識を揃えることも大事なポイントです。そのため、定期的にシステム担当者を集めた交流会を企画し親睦を深めるなど、草の根運動も大切にしています。

仕様検証段階で見つかった大き過ぎる課題

プロジェクトの一番の山場はどのタイミングで訪れましたか?

時田

強いて挙げれば、このプロジェクトが立ち上がったときが一番の山場だったかもしれません。
クラウドリフトプロジェクトがスタートした当初は、新たなデータベース環境としてリフト先のクラウド向けリレーショナルデータベースサービスを選定する方針だったのですが、当時入社したばかりの兒玉さんに仕様を検証していただいた結果、移行前と同等の性能を出すには、かなり大規模なアプリケーション改修が必要だとわかったからです。

兒玉

工数も期間もコストも大幅に増えてしまうことがわかった以上、具体的な対応策が見つかるまでプロジェクトを進めるわけにはいきません。一時は移行先をほかのクラウドサービスに変えることも検討しましたが、知見や経験の乏しさは否めず見送ることになりました。
このときはじめて、パーソルテンプスタッフが運用する基幹システムの巨大さと複雑さを実感しましたね。有効な打開策が見つからず、一時は計画が頓挫しかけたほどでした。

どうやって状況を打開したのですか?

時田

2024年にリフト先のクラウドで、新たなデータベース・プラットフォームを正式にサポートすることを表明したことで、道が開けました。アプリケーションの改修がほぼ不要となり、同等の性能が期待することができ、移行の実現性が格段に高まりました。
このニュースが飛び込んできたタイミングでは、まだリリース時期は明らかになっていなかったのですが、リフト先との交渉の結果、2025年中のリリースを確約していただけたので、計画の進捗に大きな弾みがつきました。

もしあのタイミングで表明されなければ、アプリリフトの実現はもう少し先延ばしになっていたか、いまとはまったく異なった選択をしたかもしれません。

プロジェクトの進捗状況を聞かせてください。

時田

リリースは2026年度中を予定しており、これまでに刻んだマイルストーンは着実にクリアしています。
ただ、オンプレ上で稼働していたシステムをクラウド上で同じように稼働させるには、ただそのまま載せ替えるとはいきません。サーバ・ネットワーク構成の見直し、セキュリティ設計、クラウドサービスやライセンスの制約からくるリアーキなど設計面の変更や工夫が必要です。

また、新たなデータベース・プラットフォームが使えるようになってからまだ日が浅いため、今後、想定外の対応が必要になる可能性もあります。ただ、クラウドやデータベース技術に長けた協力会社からのサポートもあるので安心・着実に進められています。

兒玉

アプリリフトプロジェクトは、現場の担当者や外注先なども含めると、総勢100名を超えるプロジェクトでもあるため、十分に調査したつもりでも、後々システム担当者ですら把握していない運用が裏で回っていたことが明らかになったり、思いもよらないシステムとつながっていたりすることが少なくありません。関係するシステムが多いため、リリース直前になっても不確実性はどうしても残ってしまいます。

とはいえ、オンプレからクラウドへの移行が容易ではないからこそ、われわれがアサインされたわけですし、不確実性を乗り越えてプロジェクトを前に進めるのがCoEの務め。現時点では、リハーサルを複数回実施することで、不安要素を極力潰しつつ、できることとできないことを切り分け、できないことがあればどんな代替手段がありうるか知恵を出し合いながら本番に臨むつもりです。

次なる挑戦はアプリの「クラウドシフト」

プロジェクトが一段落した後の展望についても聞かせてください。

時田

今回のプロジェクトでは、オンプレ環境下で10年以上もの間運営されてきたモノリシックなシステムをクラウドリフトするので、解消し切れていない技術的負債や不要なデータも大量に残されます。
アプリリフトが無事完了したら、次はクラウドネイティブな環境への移行、つまりクラウドシフトに挑むことになります。具体的な計画はこれからですが、いずれ取り組むことになるのは確かです。いまからシステムのあるべき像を念頭に置いて作業を進めています。

兒玉

まだまだ乗り越えるべき課題が多いため、まだプロジェクトを終えたあとについて考える余裕がないのが正直なところですが、もしここでの経験を踏まえてクラウドシフトにアサインされるのであれば全力で取り組みたいですし、これまでに得たノウハウを形式知化し、CoEのレベル向上にも役立てられればと思っています。

今後に向けた意気込みをお願いします。

時田

パーソルグループは「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化を経営の方向性として定めています。アプリリフトが完了し、クラウドネイティブへの移行を終えれば、パーソルテンプスタッフのシステムはモダンな環境下で運用されることになります。

これまでは準備に時間がかかっていた施策にすぐ挑戦できるようになることから、現場の担当者はもちろん、われわれ自身の可能性も広がるため、今後が楽しみです。
そのために、まずはアプリリフトを完遂させたいと思います。

兒玉

このアプリリフトプロジェクトは、CoEが支援するプロジェクトのなかでも最大級の大きさを誇ります。移行の難易度は高いですが、CoEのメンバーとしてグループ各社のデジタル化推進を支えるエキスパート集団の誇りを持ち、引き続き取り組んでいきたいです。

取材・文=武田敏則(グレタケ)/撮影=山口修司(ファーストブリッジ)
※所属組織および取材内容は2026年1月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年1月時点での内容です。

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