【前編】“身近にITが当たり前にある”状態になることが「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への第一歩
パーソルグループが中期経営計画2026で掲げた「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化に向け、グループ各社がテクノロジー活用に取り組んでいます。
そのスピード感をさらに高めるべくパーソルホールディングス内に組成されたのが、「グループテクノロジー推進本部」です。テクノロジー人材の増強とSBU※各社への支援やナレッジ横展開を推進し、グループ全体のDXやテクノロジー活用を加速させることを狙いとしています。
今回は、そんなグループテクノロジー推進本部で本部長を務める内田にインタビュー。
“テクノロジー人材の拡充”の観点から各社を支えるハブとなる新組織「CoE(Center of Excellence)」について、組成の背景から現時点での手応えまでを聞きました。
※SBU:Strategic Business Unitの略称。サービス事業領域ごとに分けた組織単位
【後編】はこちら→現場の挑戦に伴走する“身近なテクノロジー人材”を輩出し、テクノロジードリブンのさらなる加速を
クリエイティブで経営との距離が近いIT部門をつくりたい
―前半は、内田さんがグループテクノロジー推進本部 本部長の役割を担うまでにフォーカスしてお話を伺います。まずはこれまでの経歴からお聞かせいただけますか。
元々は編集職志望でしたが、就職氷河期だったこともあって“チームでものづくりができて社会影響を及ぼせる”をテーマにIT業界に軸をずらし、外資系のハードウェアベンダーからキャリアをスタートさせました。その後、SIベンダー、通信系ベンチャーで経験を積みました。
ここまではシステムを作って納めるベンダーとしてキャリアを歩みましたが、当初期待していたクリエイティブなイメージとは異なる過酷なはたらき方を強いられる業界構造を変えようと考え、ベンダーからユーザー側へ立場を移すことを決意。ネット業界の事業会社で9年半ほど、全社インフラ基盤のITプロジェクト担当や主要サービスのIT責任者を歴任した後、2016年にパーソルホールディングスに転職して今に至ります。
―前職からのキャリアチェンジを考えられたのはなぜですか?
前職では、システムを作ること自体がゴールではなく「作った後にユーザにどう使ってもらうか」「いかに磨いて使いやすい状態にするか」まで考える、ビジネスを主眼に置いた本質的なものづくりができており、充実感がありました。
しかし新しいものを立ち上げるのは得意だが、安定的に回す状態を作るのは苦手な人が多かった中で、立て直しのスキルを買われ、ITプロジェクトがギリギリ終了した後の「戦後処理」を任されることが増え、一部の同僚には「マッカーサー」と呼ばれたりしていました。
草木の生えない土地を耕し、種をまき、ようやく木が生えてきて「いよいよこれから収穫だ」というタイミングで、また新たに次の畑に出向かなければいけない。そんな状況に、腰を落ち着けて取り組みや組織づくりができる環境を求めて転職を考えるようになりました。
―転職先としてパーソルホールディングスを選んだ理由を教えてください。
それまでの経験をふまえて「企業や事業の中のIT部門をもっとクリエイティブなものにしたい」「経営とITをもっと近づけたい」「“背中をみて覚えろ”ではなく仕組みで人を育てていくことに挑戦したい」という思いがあり、パーソルホールディングスでならこれらが実現できそうだと思えたことが大きかったと思います。
特に、当時の副社長の「ここから経営統合を進めていく。ITをその武器にしたい」という言葉が印象的で、“経営を理解し、経営からも武器として理解されるIT組織”が作れるのではないかと感じました。
―パーソルホールディングスでは、どのような役割や業務を経験されてきたのでしょうか。
入社後はグループ共通のインフラやセキュリティを整備する、グループIT本部の本部長に着任しました。当時は経営統合が進む過程にあり、グループ各社それぞれにビジネスも思いも異なる中、スピーディに組織やシステムを束ねていこうとする中で、さまざまな課題が生じていました。
それらを一つひとつ整えていきながら、セキュリティ対策やコロナ禍のおけるリモートワーク環境整備などに7年間取り組んできました。2023年4月にグループのテクノロジー人材を強化し、各社のテクノロジー活用を支援するグループテクノロジー推進本部 本部長に着任したという流れです。
―それらの課題を、どのように乗り越えてこられたのですか?
前職でプロジェクトの立て直しを担っていた頃から変わらず大切にしていることですが、とにかく焦らずに目の前の課題を解決していくしかないと思います。グループ各社から理解が得られるように働きかけ、メンバーも着実に集めて、と一つひとつ順番にクリアしていく中で、少しずつみんなが楽しくはたらける状態が作れてきたのかなと思っています。
特効薬はありませんし、一気に整えようとすると、ワクチンを打つようなもので副作用が出てしまいますから。もう一度体を鍛え直して健康な生活を取り戻していく感覚ですね。
テクノロジー活用推進のカギは、ITを意識せざるを得ない状態をつくること
―後半は、新組織「CoE(Center of Excellence)」にフォーカスしてお聞きしていきます。まずこの組織の概要を改めてお聞かせください。
「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化を方針として掲げ、グループ全体でテクノロジー活用を推進している中で、避けて通れないのがテクノロジー人材を増やすことです。現在グループ全体で6万人をこえる社員が在籍するうち、社内でITに携わっているのは1,300名ほどだとされており、数が圧倒的に足りていません。
そこで、専門的なテクノロジー人材やノウハウを集約した組織を作り、ここを起点にグループ各社の事業・サービスでのテクノロジーの実装・活用をサポートしていこうと生まれたのがCoE組織です。
テクノロジー人材を増やして “身近にITが当たり前にある”状態になることで、社員みんながITをより意識するようになり、さらに「ITをいかにうまく使おうか」と考えるようになり、その結果テクノロジー人材がより高いレベルのテーマにチャレンジできる。テクノロジー活用がうまく進む組織では、こういった流れが生まれているのだと思うのです。
だからこそ、特定のIT部門だけが孤独に頑張るのではなく、協働するグループ各社にもテクノロジー人材を増やしていかなければいけないとの思いがあり、この新組織を組成するに至りました。
―テクノロジー人材を増やすにあたり、仕組みとして「CoE」を選んだのはなぜですか?
実は過去に、パーソルホールディングスで求人を出し、グループ各社に面接と採用を行ってもらう、という形でテクノロジー人材の一括採用にトライしたことがありました。ただこの形では、各社が求める人材像や報酬などの条件がそれぞれ異なるため、うまく採用を進めることができませんでした。
この経験をふまえて、パーソルホールディングスとして採用や人事制度、組織づくりまで一貫して行い、ここを起点として各社の支援を行っていく方が望ましいだろうと考えて、今回のCoE組織という形を選択しました。
―現段階で、CoEによる取り組みの進捗とその手応えはいかがですか?
パーソルホールディングスとして一括で人材を採用することは順調に進んでおり、また各社にも「テクノロジー人材によってテクノロジー活用の幅が広がっている」という実績作りをできているように思います。
これからCoEのメンバーが各事業で成果を出し、現場のテクノロジー活用の力を高めていくにはまだ時間がかかると思いますが、取り組みとして第一歩目は踏み出せたという感触です。
―テクノロジー人材を増やすという重要性をグループ各社にさらに実感してもらうために、これからどのようなアプローチが必要になるのでしょうか。今後の展望をお聞かせください。
何ごともまずは、体験してもらわなければいけないと思っています。
どんな取り組みであっても、言葉だけで説明するのでは「どうしてそうするのか」「こういう理由でうまくいかないのでは」と不安が先立つものです。まずは試してもらえさえすれば、「使えるテクノロジー人材の数や種類が多くなると、これだけできることが増えるのか」と実感してもらえるはずです。
今後も、事業のニーズを理解しながら、まずはさまざまな職種の方を活用してもらって成功事例を作ってもらい、その上で明確な成果を出すことでさらに支援の幅を広げていきたいと思います。
取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=合同会社ヒトグラム
(2023年9月時点の情報です。)
- 内田明徳 akinori uchida
- パーソルホールディングス株式会社
グループテクノロジー推進本部
本部長 - 1999年京都大学を卒業、外資系HWベンダ・独立系SIベンダ・外資系通信ベンチャーを経て、2007年からIT系サービス企業で旅行・結婚・住宅などのサービス開発・運用を担当。パーソルグループでは、2016年にグループIT本部 本部長に着任。2023年7月より新設したグループテクノロジー推進本部 本部長を担当。