グループ社員のアップスキリングに向けた新たな学びの場―「TECH UP CAMPUS」に込める思い
パーソルグループでは中期経営計画2026で掲げる「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化の実現に向け、2024年10月にグループ社員向けアップスキリング講座「TECH UP CAMPUS」を開講しました。
今回は、取り組みを牽引するパーソルホールディングス グループテクノロジー推進本部 本部長の内田にインタビュー。「TECH UP CAMPUS」立ち上げの背景から、学びを後押しする工夫の凝らされた講座内容、そして今後の展望まで詳しく話を聞きました。
「テクノロジードリブンの人材サービス企業」の種となるアイデアを試し、世に問うために“作り手”の育成が喫緊の課題に
―まずは「TECH UP CAMPUS」の概要からお聞かせください。
「TECH UP CAMPUS」は、DX人材育成を手がけるパーソルイノベーション株式会社 TECH PLAY Companyとともに開発した、テクノロジー活用スキルを学び身につけるアップスキリング講座です。国内グループ全社・社員約19,000人を対象として、2024年10月から開講しています。
―どのような背景から、こうした人材育成の取り組みを始めたのでしょうか。
パーソルグループは中期経営計画2026において、経営の方向性として「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化を掲げています。その実現に向けた挑戦の種となるアイデアは数多くありますが、その中でどれが成功に繋がるかはさまざまなものを試してみなければわかりません。そしてそれを試すには、“作り手”の存在が必要ですよね。
現在ではテクノロジーの民主化が進みノーコード・ローコードツールなども登場していますが、それらは誰でも簡単に使いこなせるわけではないため、まずはテクノロジーを理解しアイデアの具現化をリードするテクノロジー人材が求められます。
また効率的にものづくりを進めるには、そのテクノロジー人材とともに取り組むパートナー、つまり現場社員が高いITリテラシーを持つことも欠かせません。
こうした需要に対し、もちろんCoE(Center of Excellence)戦略を軸とした採用にも注力しますが、採用競争の激化や労働人口の減少などを考えれば、採用だけに頼るのはリスクだと言えます。そこで前者を育成する「リスキル」と後者のITリテラシー向上を後押しする「アップスキリング」に取り組んでいこうと舵を切りました。
―内田さんはどのような思いでこの取り組みを牽引されていますか?
実は、私自身は文系からIT業界に入り、先輩の背中を見て、また現場経験を積みながら技術を身につける過程で、IT業界に体系的に人材を育成する仕組みがあまりないことに危機感を覚えていました。そうした課題意識を背景に、“仕組みで人を育てること”に挑戦したいという思いからパーソルグループに入社したこともあり、このプロジェクトを通じてやりたかったことが実現できるのではと期待を感じながら取り組んでいます。
―“リスキルとアップスキリングの2軸からなる人材育成”のテーマのもと、どのように取り組みを進められたのでしょうか。「TECH UP CAMPUS」開講に至る経緯について教えてください。
まずはリスキルから着手し、2023年度に未経験ITテクノロジー人材向けの養成講座を実施しました。テクノロジースキルの獲得、そしてIT部署への配属をゴールとして、配属先の業務を経験するOJTも含めたプログラムを作成。社内公募制度を活用して募った参加者に、半年間このプログラムに則った学びに専念してもらいました。
結果として2年間で20名のITテクノロジー人材を育て、IT部署に配属することができたのですが、ここで課題として浮かび上がったのがこの養成講座のグロースの難しさでした。ITリテラシーも意欲も異なるメンバーを1つの集合研修で育成するには課題も多く、これ以上対象者を増やすにはコストと時間がかかりすぎると思われたのです。
そこで効率的かつ効果的なリスキルを行うために、“一定のITリテラシーや学びに対する素養を持つ人材”を育てるべく、アップスキリング講座の準備を始めました。
勇気を持って手を挙げてくれた社員を置いていかないために―学びを後押しする工夫が凝らされた講座の仕組み
―「TECH UP CAMPUS」の仕組みや講座の内容について詳しく教えてください。
「TECH UP CAMPUS」で目指すのは、“経験し、それを通じて得た知識やスキルを実践し、内省する”という学習プロセスを身につけてもらうことです。この目標のもと、講座で知識をインプットし、講座の成果物となる課題でそれを実践(アウトプット)する仕組みを作りました。
講座については、普段の業務で活かしてもらうことを念頭に
- データアナリティクス
- UI/UX
- プログラミング
- デジタルマーケティング
- プロジェクトマネジメント
の5つのテーマを設け、各スキルの専門家による90分×10回の講義を半年かけて実施する構成にしています。
受講者は希望する講座を好きに組み合わせて選択でき、またそれぞれのテーマの中で基礎から応用と段階的に理解を深めていくことも可能です。そして講座の最後に課題を設け、合格した受講者には修了を証明するバッジを付与します。
さまざまな講座があり、最後の課題をクリアして修了するという2つの特徴から、自分自身の大学生活を思い起こしてこの講座を「TECH UP CAMPUS」と名付けました。
―受講者の学びを後押しするために込められた工夫や狙いはありますか?
まず、人は誰かに「勉強しろ」と言われても勉強しない、学びを促すなら意欲を伸ばさなければいけない、という考えから自主性を重要視し、「TECH UP CAMPUS」の受講は本人の立候補を必要条件としています。
そして勇気を持って手を挙げてくれた社員を置いていかないために、受講者に伴走しモチベートする仕組みづくりにも重点を置いています。受講者同志でグループを作り、「私はここまで進んでいるものの、この辺りで苦戦しています」「皆さんはどうやって勉強していますか」といった対話を通じて協力しながら学ぶ「ピア・ラーニング」の手法を取り入れました。学生時代のように、「周りのみんなも勉強しているから自分も頑張ろう!」と動機付けし合って学びに臨める環境を目指しました。
そして特に大きなポイントは、実践(アウトプット)を重視していることです。課題の内容は初回の講義で提示しますから、自学自習で課題を進められる人は講義に出席しなくてもいいことにしています。もちろん、課題を仕上げるために周りの仲間と教え合ってもいい。とにかく価値があるのは「インプットすること」ではなく「できるようになること」であり、受講はそのための手段であるということを強調しています。
これは、実践の場を用意することで、「知っているけれど経験がない」「経験がないから学びを業務やキャリアに活かせない」という“ペーパードライバー”の問題の払拭に繋げる期待があります。
―開講に向けた準備段階として、プレ開講を実施されたと聞きました。
7月から9月までの3カ月間にわたって、対象をパーソルホールディングスに、テーマをデータアナリティクスのみに限定してプレ開講を行いました。課題内容は実際の30%程度のボリュームではありますが、講義から課題までの流れを実施し、私たちの思い描く仕組みや講義内容・レベル感を受け入れてもらえた感触がありましたね。
またプレ開講と並行してグループ各社の人事担当者に告知を行った結果、「ぜひやってほしい」と好意的な反応が得られたことも、本開講に向けて弾みがつく嬉しいできごとでした。
「学ぶ」と「成果を挙げ、評価される」を結びつける仕掛けづくりを
―2024年10月に本開講して2カ月ほどが経ちますが、手応えとしてはいかがですか?
所属する会社も年齢も偏りなく、営業からバックオフィス、さらにはITまでさまざまな領域の社員が自ら手を挙げ参加してくれて、受講者数は約300名に及びます。
テクノロジーの進化やその活用の必要性について日々耳にする中で「自分もやっておけばよかった」「今からでも遅くないなら学びたい」という思いを抱く人がたくさんいるのだなと実感できましたね。また、IT関連の業務に就いていても、専門外の領域の知見を身につける機会は意外と少ないもので、「最近発展しているデータの領域についても学びたい」といったニーズがあることも見えてきました。
そういった意欲はあるものの「社外研修に参加するのはハードルが高く、eラーニングを一人で続けるのは厳しい」という社員に対して、「TECH UP CAMPUS」が一つのきっかけを提供できているのではないでしょうか。
講義が数回終わった現段階で出席率も満足度も高く、「外部講師から客観的に教えてもらえる」「何となくわかっていたことをしっかり学べてよかった」とポジティブな声が多く届いています。今のところは順調に進んでいる手応えがありますね。
―現時点で見えている課題があれば教えてください。
ここから後半の講義に入り、最後の課題提出に向けて実践型となるため、周りについていくのが難しくなってしまった人やアウトプットで躓いてしまう人が少なからず出てくるでしょう。そういう人をいかにサポートしていくかがポイントになると思いますね。
運営の視点では、受講者一人ひとりが所属部署において設定する個人目標と「TECH UP CAMPUS」での学びをリンクさせられるよう、募集時期を工夫するなど細かな調整をしていきたいですね。また講師を務められる人材をグループ内で育成することも次の課題の一つです。
―「TECH UP CAMPUS」という学びの場やその仕組みをどのように育てていきたいと考えていますか?今後の展望について聞かせてください。
プログラムが世の中のトレンドに追随できなければ「意味がなかった」と、この学びの場自体が廃れてしまいかねません。特にテクノロジーの領域は変化が速いため、トレンドや現場の感覚を講座に反映し、常にアップデートを続けていきたいと思っています。
また目指したいのは、努力の末に取得したバッジが、その個人のキャリアデザインに活かされる世界です。たとえば公募型異動制度「キャリアチャレンジ」やグループ内の他部署からスカウトを受け異動できる「キャリアスカウト」といった社内人事制度において、応募条件や採用可否の検討材料の一つにするなど、学びの原動力となるような仕組みを作っていきたいところです。
そして、ゆくゆくは現在グループ内にさまざまある勉強会との統合によって「TECH UP CAMPUS」をパーソルグループの大きな学びのプラットフォームにすることを思い描いています。この「TECH UP CAMPUS」という仕組みを使ってさまざまな講座が開かれ、また集客をはじめとした各講座の運営の後押しができるようになれば嬉しいですね。
―より大きな視点で、パーソルグループにおける「“学び”の文化」をどのように醸成していきたいと思われますか?
まずは「TECH UP CAMPUSを受講してよかった」という声を発信し、「学びが業務やキャリアに活かせるんだ」という感覚を着実に浸透させていくことが必要なのかなと思っています。
もう少し広い視点で見れば、“学んだことを活用でき、それが評価される”状態を作っていかなければいけないなと。今は「学ぶこと」と「成果を挙げること」「評価されること」がうまく接続されていないように感じます。「TECH UP CAMPUS」で取得したバッジがキャリアを変える一歩になる、というのは一例ですが、両者が統合されていくような仕掛けを作っていけたらと思います。
―ありがとうございました!
(取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=永田遥奈/撮影=合同会社ヒトグラム)
(2024年12月時点の情報です。)
- 内田明徳Akinori Uchida
- パーソルホールディングス株式会社
グループテクノロジー推進本部
本部長 - 外資系ハードウェアベンダー、SIベンダー、通信系ベンチャーを経て、2007年リクルートへ入社。主要サービス、全社インフラ基盤のITプロジェクトを歴任後、住宅情報サービスのIT企画開発部、事業推進部の部長を務める。2016年7月よりパーソルホールディングス(旧テンプホールディングス)グループIT本部 本部長に着任し、グループ全体のIT戦略を推進中。