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「パーソルの本気を示したい」。IT人材に特化した新人事制度に託された思いとは? 

パーソルホールディングスは、2023年5月14日に発表した「グループ中期経営計画2026」において、経営の方向性を「テクノロジードリブンな人材サービス企業への進化」と明言。その実現に向けた環境整備を着々と進めています。 

2023年4月からスタートさせたIT人材を市場価値に即した評価、報酬で処遇するPE(プロダクトエンジニア)制度もそのひとつです。今回はエンジニアリング組織を統括するグループIT本部の立場から制度策定に携わった時田が、PE制度の概要や注意を払ったポイント、さらに将来への展望などについて語ります。 

PE(プロダクトエンジニア)制度概要
プロダクト開発に携わるIT人材を市場価値に即した評価基準で処遇し、社員自らが設定したチャレンジングな目標やその成果を報酬に反映させることを目的に、2023年4月からスタートした人事制度。将来的にはパーソルグループ共通のIT人材の人事制度として定着させ、優秀な人材の獲得や社員のモチベーション向上、グループ内での人材交流の活性化などに活かす構え。

PE制度の対象となるIT職種

データ/
テクノロジー
データ設計・解析などを通じて、事業課題の発見・改善提案や、各種サービスおよびプロダクト開発を行う
エンジニア エンジニアリングスキル(データ・アプリケーション・インフラなど)を活用し、各種サービスおよびプロダクト開発を行う
ITコンサルタント 事業課題の解決から各種サービスおよびプロダクト開発において、ITの観点からソリューションの提案を行い、その実行に向けたプロジェクト・タスクを企画・推進する
ディレクター/
プロデューサー
各種サービスやプロダクト開発において、UX・カスタマーコミュニケーションなどの観点から課題解決の方向性・施策を選定し、その実行に向けたサービス・プロジェクトを企画・推進する
デザイナー 各種サービスやプロダクト開発において、デザイン(UX/UI)の観点から課題解決の方向性・施策を策定し、設計を行う
デジタルマーケター デジタルテクノロジーの活用を主体とし、各種サービスやプロダクトの認知・集客などのマーケティング活動を行う

PE制度はIT人材のポテンシャルを最大限に引き出す取り組み

——PE(プロダクトエンジジニア)制度とは、いったいどんな制度なのでしょうか? 

PE制度は、エンジニアやデータサイエンティスト、ITコンサルタントなど、テクノロジー領域に携わるIT人材のために新設した評価・人事制度です。 

具体的には、従来の業績連動型ボーナスを廃し、職種や職位グレードごとに明文化した役割や能力、そして社員が自ら設定した目標の達成度合いや、身につけたスキルによって報酬が決まるなど、個人の成長や市場価値を意識した制度になっています。

——PE制度制定の背景について聞かせてください。 

いまやテクノロジーの活用を抜きにビジネスの将来は描けない時代です。われわれパーソルホールディングスは2023年5月14日に公表した「グループ中期経営計画2026」において、今後の経営方針を「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化と明確に打ち出しています。この方針をまっとうするには、優秀なIT人材を本気で集め、処遇するんだという意志を内外に示さなければなりません。そのため大手IT企業と比較しても見劣りしない評価体系や報酬制度が必要でした。 

——手当やボーナスの支給などで処遇することもできそうです。なぜ新たに制度をつくる必要があったのでしょうか? 

当初は既存の人事・評価制度はそのままに、能力や実績、資格取得などに応じてボーナスや手当を支給することも検討しました。しかし、高まり続けるIT人材の関心を惹きつけ、キャリアの選択肢に加えてもらい、入社後も能力やモチベーションを高め続けていただくには、やはりIT人材に最適化した人事・評価制度をつくるべきとの判断で新設に踏み切りました。 

そもそも既存の人事・評価制度は、さまざまな業務を担う総合職に向けたものでした。しかし、IT人材を評価するという点において、目標や会社の成長にどれだけ貢献しているのかを適切に評価しきれないという課題があり、この課題を解消したいという意図もありました。 

——具体的にどんな課題があったのでしょうか? 

IT人材でもさまざまな仕事・役割がありますが、なかには、半年、1年、時には数年にわたる長期プロジェクトにアサインされる人が珍しくありません。また、以前の人事・評価制度では、世間の耳目を集める華のあるプロジェクトや事業貢献が明確なプロジェクトと、リファクタリングや運用改善など、成果が出るまでに時間がかかるプロジェクトや直接利益を生み出さないプロジェクトを同列で扱いづらい面がありました。 

IT人材に託される仕事は、必ずしも月次で成果が出るわけでも、定量的に計れる成果ばかりではないからです。こうした状況を解消するためには、どうしてもIT人材の仕事の特質や働き方に最適化した人事・評価制度が必要でした。 

IT人材を適切に処遇するためにどんな点に配慮したか? 

——改めてPE制度の概要を教えてください。 

テクノロジー領域に携わるIT人材を職種と職位、グレードで分類し、それぞれに求める能力やスキルを定めた上で、市場価値に準じた報酬を設定しています。同じ職種、職位、グレード内であっても、幅広い報酬レンジを設けているので、能力が高くチャレンジングな目標を達成した社員には、より高い待遇で報いることができる設計になっています。 

また、従来の制度から継承している要素でもありますが、PE4以上の社員には自らの専門性を突き詰めるエキスパートコースと、技術的知見を生かしIT人材を束ねるマネジメントコースを設け、キャリアパスの複線化も実現しました。 

この点は企業によって、上位グレードに行くにはマネジメント職に行かなければならないとか、逆に専門性のみを高く評価するなど、考えが分かれる点になります。

しかし我々としては、高度化するIT領域における専門性はしっかりと評価したいと考えているほか、そういった人材を束ね、組織としての価値発揮をするマネジメントも同じく重要と考え、ともに処遇できる形態としています。 

PE制度グレードの図

——PE制度策定にあたってどんな苦労がありましたか? とくに腐心されたポイントを紹介してください。 

実はこのPE制度、パーソルグループの中核企業の1つであるパーソルキャリアが、2019年から運用しているPE制度を下敷きにして再設計したものなのです。

ただ転用するにあたって、パーソルホールディングス1社としての個別状況の考慮と、全体最適を設計に取り込むバランスが重要でした。 

——「個別状況の考慮と全体最適のバランス」というのは、どういう意味でしょう? 

中期経営計画で謳っている「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化のためには、IT人材向けの人事制度の整備が非常に重要です。これはパーソルグループ内の1~2社に導入したからといって実現できるものではないと考えています。 

パーソルのグループ会社のIT人材へ制度の適用領域を拡げることができれば、人材の流動性が高まり、グループ内で活躍できる機会提供や中計で謳っている目指すべき姿への実現にも近付くと考えています。そのため、個社ごとの個別最適で制度を設計してしまうと、将来グループ内で制度を展開しても、個別の制度が存在するような形となる可能性があります。そうすると、人材流動性に寄与する可能性も減ってしまうのです。 

例えば、パーソルグループ内であっても、会社によって在籍割合が高い職種は異なります。そのため、在籍割合が高い職種にきちんと焦点が合うように制度設計しなければ、運用面で課題が生じやすくなる懸念があります。また、IT人材の評価の基となる価値観の定義は、会社ごとに特徴があったりもします。 

個社の特性は捉えつつ、全体としてはPE制度に合流できるようなバランスを取ることが、今後他のグループ会社へ展開する際の肝になると思っています。 

IT人材の適切な処遇とともに、将来構想と全体感をもって制度設計を行うことが、重要である一方で難しさを感じた点でもありますね。 

今後は目標設定のレベル感を揃え、制度に磨きをかけていく段階へ

——制度策定に関わられた立場として、PE制度をどのように評価されていますか? 

過去、報酬面でのアンマッチによりIT人材が離職してしまったり、キャリア採用においても報酬面で折り合わず優秀な人材を逃してしまったという残念な状況がありましたが、この制度がスタートしたことで、不幸な状況を減らすために必要な条件が整いました。 

次は、優秀なIT人材のためにどれだけ面白くやりがいのある仕事を提供できるか、またどれだけ適切な目標設定を行えるかが運用面での焦点になりそうです。 

——現時点で、どのような課題が顕在化しつつあるのでしょうか? 

まだ制度が始まって日が浅いため、評価者である管理職や評価されるメンバーからも「目標の設定が難しい」という声を耳にしています。 

従来の制度では、現状のスキルや経験をベースに達成可能な目標を立て、それをクリアしたかどうかを評価する制度でした。PE制度は現状のスキルや能力では達成困難なチャレンジングな目標を立て、どれだけ自らをストレッチさせ達成に近づけたかが問われます。そのため、評価する側もされる側も意識変革を求められることになるわけです。 

当然、難しい要素ではあるのですが、このチャレンジングな目標を設定するのは今回のPE制度の肝ともいえる部分。目標設定や中間時点でのメンバーとの対話をしっかりと行いながら、適切な目標設定のあり方を模索していく必要性を感じます。 

——PE制度を設計通り機能させるには、何が重要だと思いますか? 

“メンバー本人が望む理想のキャリアの姿”、“現時点の自身の能力でできること”、“会社として期待する役割”、この3つの要素の間には少なからずギャップがあるものですが、このギャップをいかに縮めていくかがカギになると考えています。 

現時点の能力と理想のキャリアの姿で必要とされる能力のギャップを埋めていくことは、思い描くキャリアパスに向けた自身の成長に繋がります。また、会社から期待される役割を担うために現状とのギャップを埋めていくことも、価値発揮しながら組織へ貢献することにつながっていきます。 

このような成長につながる要素をしっかりと目標設定し、評価していくプロセスがとても重要になると感じています。 

また、特に管理職の果たす役割は重要です。

PE制度に限らずどの人事制度もつくって終わりではなく、むしろ運用段階に入ってからが本番です。PE制度は評価されるIT人材だけでなく、管理職の見識やマネジメント能力が問われる制度でもあるので、評価研修やマネジメント研修などを通じて、マネジメント力のさらなる向上にも取り組んでいかなければと考えています。 

——今後の展望を聞かせてください。 

能力や成長意欲、目標達成意欲が高いIT人材をしっかり処遇できる環境がようやく整いました。今後はPE制度に込めた精神や思いをパーソルグループ全体の文化として定着させ、制度制定の目的である「テクノロジードリブンな人材サービス企業への進化」を現実のものとしたいですね。 

評価運用が一巡した段階で新たに見えてくる課題があるでしょうが、PE制度はパーソルグループが名実ともにテクノロジードリブンな人材企業となるために必要不可欠な取り組みです。これから直面する課題に対しても真摯に向き合い、運用段階においてさらに磨きをかけていけたらと思っています。 

取材・文=グレタケ 武田敏則
(2023年7月時点の情報です。)

時田健嗣Kenji Tokita
パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部 IT企画部 IT戦略室 室長 兼
グループテクノロジー変革推進本部 テクノロジー企画部 テクノロジー戦略企画室 シニアコンサルタント
大手製造業の情報システム部門にて、インフラ・システム開発・IT企画領域を幅広く経験。システム開発では販売物流業務のグローバル標準システムの企画・開発・導入、IT企画領域ではITガバナンス強化や働き方改革、組織管理職などを経て、2022年1月にパーソルホールディングスへ入社。以降はグループIT本部 IT企画部にて、組織開発に携わりながらPE制度の検討導入に従事。

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