REPORT
【前編】パーソルホールディングス テクノロジー部門、初の海外選抜研修@ベトナムレポート―国境を越えた「はたらいて、笑おう。」を体感

テクノロジードリブンの人材サービス企業を目指す、パーソルグループ。今回は、新任室長の藤(とう)にキャリアの歩みやHR領域の奥深さ、そしてパーソルが挑むAI活用の現在地とこれからの挑戦について話を聞きました。
データサイエンスに出会ったのは、大学3年で研究室を選ぶ時期でした。将来のキャリアを考える中で読んだ本に、「データサイエンティストはもっともセクシーな仕事になる」という一文があり、当時の私にはとても刺さりました。データから価値を生み、社会に影響を与える仕事の可能性に強く惹かれたんです。
その後、この領域を扱う研究室に進み、大学院でも研究を深めながら専門性を磨きました。就職活動ではまだ「データサイエンティスト」という職種ポジションが一般的ではなかったので求人が全く見つからなかったものの、幸運にも「データサイエンティスト」というポストを設けていたSIerに出会って入社し、PoCやAIサービス開発に取り組みながら基礎を築いていきました。
SIerという立場では、クライアントの“本音”に触れられる機会が限られ、自分の仕事が事業の変革にどこまで寄与しているのかがなかなか確かめられないという、そんなもどかしさを常に感じていました。
さらに、当時勤めていた会社のITテクノロジー領域における方針の変更に伴い、「自分は何を実現したくてこの会社に入ったのか」と自問する瞬間が増え、環境の変化に背中を押されるようにして転職を真剣に考え始めました。
当時は、「自分の手で変革を起こせるデータサイエンティストになりたい」という思いが強く、「データサイエンスの能力」と「ビジネス理解」の両軸を伸ばし、コンサルタント的な役割を担える環境を求めていました。
ただ、現場に深く入り込み、同じ視点で課題を捉えられる環境でなければ、実際に変革を起こすことはできません。現場の理解こそが「変えるべき理由」を生み、行動の原動力になると考えていました。
こうしたアプローチが実現でき、かつテクノロジー活用を本気で推進する会社を探した結果、パーソルホールディングスへ入社を決めました。
主な理由は、「技術的な視点」と「個人としての関心」の2つです。
当時の技術では、画像・動画領域のAI精度が成熟しつつある一方、日本語テキストの処理は高度で、研究人材も少ない挑戦領域でした。特にHR領域のデータには、人の行動や思考がそのまま表れます。単なるテキストではなく、“人間らしさ”がにじむ複雑さに魅力を感じました。
個人の視点では、COVID-19の影響で多くの産業が揺れ動く中、“人がはたらく限り続くビジネス”に強く興味を持ちました。AIが進化しても、人の価値を高め、より良い選択肢につなげる仕事はなくならない。むしろ、AIによって人材の可能性を広げていける点に、深い意義を感じたんです。

HR領域ならではの“人の行動や思考がにじむデータ”に日々触れられ、求人動向の変化から社会背景までを立体的に読み取れる面白さがありましたね。複雑で奥行きのあるデータ構造は、まさに入社前に求めていた環境そのものです。
同時に、労働集約型のビジネスモデルだからこそ、AIを適用できる余地の広さも強く実感しています。たとえばパーソルテンプスタッフでは、スタッフへの接点づくりから就業契約の締結までを一人の専任担当者が担うため、非常に業務の幅が広いのが特徴です。そこには、大小さまざまな効率化できる工程が数多く存在すると感じています。
しかし、“人に寄り添う温かな対応”にこそ、パーソルテンプスタッフ独自の強みがあるとも思っています。AI活用によって効率化を実現しながらも、強みや価値を損なわずにどう共存させていくか――その両立の難しさと奥深さを感じました。
入社当初にデータサイエンス室が立ち上がり、パーソルテンプスタッフを対象に、データ分析からモデル開発、システム化までを一気通貫で担っていました。
今年4月には、グループ全体のAI活用を統括する「グループAI推進部」が発足し、データサイエンス室もその傘下へ移りました。これにより、パーソルテンプスタッフだけでなく、グループ各社の多様な課題にAIで価値を生み出す役割へと広がっています。
そして10月からはデータサイエンス室の室長に就任し、プロダクト開発と組織づくりの双方をリードしています。
まず重要なのは、AI特有の“高い不確実性”を適切にマネジメントすることです。AIには「必ずしも期待どおりに動かない」という前提があるため、その性質を織り込んだプロジェクト設計が欠かせません。
また、生成AIや機械学習の仕組みに基づく“説明責任”も大切です。生成AIがどのような根拠や癖をもとに回答を導くのかを分かりやすく伝えることで、現場は安心して判断できます。
技術の特性とリスクを正しく共有し、意思決定を支えることも、プロジェクトの成否を左右する大切な役割だと考えています。
データサイエンスのエキスパートとして進む道は非常にハイレベルで、そこに身を置き続けるイメージが持てませんでした。それなら、ビジネス理解やコミュニケーションを武器に、組織をけん引していく役割の方が、自分に合っていると感じていたんです。
加えて、マネジメントという“第二の武器”を持つことで、環境変化に左右されないキャリアを築けると考え、以前から管理職を意識していました。
管理職を担うチャンスは、どうしても運に左右される部分も大きくなります。ただ、機会が訪れたときにつかめる状態をつくっておくことはできます。経験を積み、準備を続け、いつでも動ける状態にしておく。これは今でも大切にしている姿勢です。

「スキシの達人」は、企業の依頼内容に合わせて、派遣スタッフの職歴・能力・知識を要約したスキルシート(通称:スキシ)を生成AIで自動作成するプロジェクトです。現場から「スキルシート作成の負荷を減らしたい」という声が強くあり、プロジェクト化前の検証からシステム開発までを担いました。
当時、生成AIをここまで本格的に組み込んだプロダクトは社内にはなく、パーソルホールディングスとしても非常にチャレンジングな取り組みでした。技術的な制約や実装面でのハードルも多く、毎日が試行錯誤の連続です。
それでも、「この難易度のプロダクトに正面から挑めるのか」という高揚感が強く、純粋に楽しみながら開発に向き合えました。
「マチアイ」は、スキルシート作成の前段階である、「企業に応じた候補者選定」をAIで効率化するプロジェクトです。
半年分の鮮度の高い登録データを用いて、「企業と派遣スタッフのマッチングをスコアリングする機械学習モデル」と「その採点理由を自動作成する生成AI」を組み合わせ、選定プロセスの高度化と効率化を実現しています。
このプロジェクトには、室長になってから本格的に関わるようになりました。
複数のプロダクトを“ひとつの体験”としてつなぎ、現場がストレスなく使える流れを設計する重要性を感じました。というのも、「マチアイ」の候補者選定と「スキシの達人」のスキルシート作成は、企業と候補者をつなげるコーディネーターにとっては“ひと続きの業務”です。
だからこそ、個々の最適ではなく「全体としてどう機能させるか」という視点で、優先順位と打ち手を判断する必要があるんです。
今年度から、個別に進めてきたプロダクトを統合し、全体最適化へ本格的に取り組むフェーズに入りました。その実現に向け、入口から出口まで一貫した体験を設計する姿勢をチーム全体で共有しながら、プロジェクトを推進しています。
まず、人の良さが際立っている点です。誰かを否定したり突き放したりする雰囲気がなく、むしろ「自分はそうはなりたくない」という前向きな価値観を持つ人が自然と集まっていると感じます。
さらに、「より良くするためにやり切る姿勢」が徹底していることも魅力です。組織上どうしても難しいケースを除けば、安易に「できない」で終わらせず、「どうすれば実現できるか」を本気で考え、時間も労力も惜しまず向き合う文化があります。
こうしたスタンスが根づいているからこそ、仕事をしていて気持ちよく、前向きな挑戦ができる環境だと思います。
AIエージェントが急速に進化する今、その領域をしっかりと強化し、現場の業務に自然に溶け込む形で価値を発揮できる状態をつくりたいと考えています。最終的に目指すのは、現場が「業務がラクになった!」「より良い紹介ができるようになった!」と実感できる、はたらく体験そのものの良化です。
そのためにも、まずは“検証しやすい環境”を整え、技術や知見を組織として蓄積していくことが欠かせません。グループ全体に大きなインパクトを届けるために、変化の早いAI領域を先回りしながら、組織力とプロダクト力の両面を高めていきます。
もっとも重要なのは、「ビジネスを正しく理解する力」です。高度な理論や洗練されたアルゴリズムが効果を発揮する場面もありますが、ビジネスが変わればデータも変わり、求められるアプローチも必ず変化します。
そのため、最適な形でプロダクトに落とし込めるよう、現場と対話しながらアルゴリズムを調整し、解決策をつくり上げていく――この一連のプロセスこそ、データサイエンティストの真価が試される場面です。
データサイエンス室はまだ立ち上げ期にあり、これから大きく伸びていく成長フェーズにあります。そのため、ビジネス理解とアーキテクト視点をあわせ持つ方であれば、力を存分に発揮できる環境だと感じています。
とはいえ扱うテーマは新しい領域が多いため、最初から完璧である必要はありません。大切なのは、変化を前向きに楽しみ、学びながら吸収していく姿勢です。私たちも、最先端の技術や知見をすべて備えているわけではなく、ルールをつくり、検証し、形にしながら組織を育てている段階にあります。
だからこそ、「形がないなら自分でつくる」「課題があるなら一緒に整える」といったマインドで、つくり上げていく過程を楽しめる方にとって、大きく成長できる場になるはずです。
パーソルホールディングスのAI活用は、これから本格的に加速していきます。多様な課題を“伸びしろ”として捉え、自分の成長につなげられる方と一緒に、より良い“はたらく体験”をつくっていきたいと思います。

ーありがとうございました!
取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=山本嵩(PalmTrees)
※所属組織および取材内容は2025年12月時点の情報です。
※略歴内の情報は2025年10月時点での内容です。

パーソルホールディングス株式会社
グループAI・DX本部 グループAI推進部
データサイエンス室
室長
大学院でデータサイエンスやAIを研究し、SIerに新卒入社。データ分析やPoC、AIサービス/システムの企画・開発・プリセールスに従事。2023年パーソルホールディングスに入社。業務効率化、AIによるサービスの付加価値向上を目指して、業務のAI適用を推進中。2025年10月より室長を務める。
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