AIエージェントを用いて非定型対応を効率化―KRaFTチームの「負担軽減」を目指した挑戦

Profile

Koki Maeda

パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部 IT企画部
サービス統括室
リードコンサルタント

2017年にパーソルホールディングスに新卒入社。IT投資に関する審議会の運用/改善を経験してサービス運用に興味を持ち、ITサービスマネジメント領域へ異動。アジャイルパイロットチーム「KRaFTチーム」にて開発業務を担当、スキルを磨いた後にプロダクトオーナーとなり現在に至る。

Koichi Nishikawa

パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部 IT企画部
IT戦略室
リードコンサルタント

2020年 パーソルホールディングスに新卒入社。KRaFTチームにて開発メンバーとして運用業務および機能エンハンスを担当。併せてスクラムマスターとしてチームコンディションの改善に取り組み、健全な開発体制の構築を推進。2025年10月より現職。

パーソルグループ全体のITプラットフォームを支えるKRaFTチーム。「問い合わせ/申請対応」における対応工数の削減と自動化を目指し、AIエージェントを活用するプロジェクトが発足しました。


結果、短期間で人力対応を7%減らす成果を上げたその戦略や今後の展望について、プロジェクトを担った前田と西川に話を聞きました。

KRaFTとは?

ITサービスマネジメントの高度化を実現するべく誕生した、社内向けプラットフォーム。

Atlassian社が提供するSaaSと、社内で利用可能なAWSサービスなどを組み合わせ、目的を達成するための独自のプロダクト(ソリューションパッケージ)として社内サービス化。データ管理、集計・分析を支援するレポート作成機能や、公開ナレッジとチーム内ナレッジの管理機能などを備え、ITサービスマネジメント従事者の業務支援を可能にしている。

KRaFTという名称は、「Sharing Knowledge(知識の共有)」、「Request&Response(要求と応答)」、「augment meaning(意味の拡張)」、「Request Fulfillment(要求実現)」、「Ticket management(チケット管理)」の頭文字を取って名付けられ、クラフト紙のようなぬくもりを大切にするプロダクトにしたいという願いが込められている。

属人化を解消したい――問い合わせ対応の負荷から生まれた、AIエージェント活用プロジェクト

まず、今回のプロジェクトの概要を教えてください。

西川

私たちがグループ全体に提供する「KRaFT」は、パーソルグループの中でも非常に多くの部門・社員に利用されている社内サービスです。KRaFTの利用方法に関する問い合わせや機能拡張の相談が増えており、問い合わせの一次対応、解決までの総時間が長期化してしまうことが課題になっていました。
そこで、AIを用いることで問い合わせ対応時間を短縮できないか、と考えました。

この取り組みを後押ししたのが、ちょうど社内で、ノーコードでAIエージェントを構築できるツール「CHASSU CRE8(クリエイト)」が利用できるようになったことでした。「これを使えば、問い合わせ対応の工数削減につながるのでは」と考え、AIエージェント活用へと舵を切りました。

なるほど。問い合わせ対応に時間がかかるようになってしまっていたのですね?

西川

はい。初歩的な質問から高度な内容まで質問内容は幅広く、件数としては直近3年でほぼ2倍に達していました。

一方で、対応するKRaFTチームの人数は変わらず5人体制でした。増え続ける問い合わせに加え、一つの回答に要する時間も長くなっていたため、限られたメンバーで多くの案件を対応し続けるには負荷が大きくなっていたんです。また、問い合わせの中で非定型の内容は、返答に個人の経験や知見、データが必要となり、対応そのものが属人化しやすいという課題も抱えていました。

この状況を打開するため、「どうすれば誰でも対応できる仕組みをつくれるか」「そもそも非定型対応をAIの力で自動化できないか」――そんな強い思いから、AIエージェントを活用するという発想に至ったんです。

どのようなステップでAIエージェントを活用する計画を立てたのでしょうか?

西川

第一フェーズとして、定型的な対応を自動化する仕組みづくりからスタートしました。KRaFTチームが発足した約6年間で蓄積した問い合わせデータをもとに、自動化の優先順位を付け、リターンが大きい定型作業から徹底的に自動化を進めました。この自動化にはAIを介在させず、既存の自動化機能を最大限に活用することで、定型作業依頼の約7割を人力から解放することができました。

第二フェーズでは、非定型の問い合わせ対応をAIエージェントで削減できないかと考え、このフェーズでCHASSU CRE8を用いた開発を進めました。

先述した通り、非定型の問い合わせは内容が多岐にわたり、対応には担当者の知見や経験への依存が続いていました。多様な問い合わせの中で、よくある問い合わせ内容を特定し、さらにKRaFTチームが持つ知見をいかに暗黙知から形式知へと変換するか――これが第二フェーズにおける大きな課題となりました。

スピード重視でフィードバックと改善を繰り返し、想定を上回る工数削減に成功

「CHASSU CRE8」を使用してのAIエージェント開発は、どのようなものでしたか?

西川

まず、開発のしやすさに驚きました。

4月に要件定義から検証までを完了し、5月からはCHASSU CRE8で開発を始め、6月にはリリースするという、わずか2カ月ほどのスパンで実装することに成功しました。「とにかくリリース」「フィードバックを受けて即座に改善する」という高速サイクルを大切にして、現場の温度感や課題をリアルタイムに反映できたところが、このプロジェクトの最も大きな強みにもなりました。

どのような点がポイントになったのでしょうか?

西川

「回答精度をどのようにして向上させるか」が肝だったと思います。
KRaFTに関するナレッジデータは数千件ありましたが、AIエージェントのフロー設定や指示の仕方、いわゆるプロンプトの違いで回答の質が変わる点は大きな学びでしたし、今後AI利活用を進めるうえで意識すべきポイントだと感じています。

前田

私は管理者という立場で関わっていましたが、ユーザーとして求めるレベルの6~8割程度の回答が返ってくる印象でした。このコスト感でこの品質なら、実務でも十分利用できると判断することができました。

AIエージェント試行の結果が数値にも表れたそうですね。

西川

非定型の問い合わせ対応を「第2四半期で4%削減」と目標設定していましたが、実際は7%削減できました。軽微な非定型の問い合わせは、AIエージェントに聞けば回答してくれるよう実装できたのが非常に大きかったですね。

これまでは僕だけでなく他のメンバーにも、「この申請はどこに投げれば良いんだっけ?」「この件ってどうだったっけ?」といった軽い確認チャットが毎日のように届いていました。そうしたやり取りをAIエージェントが代わりに対応してくれるようになったことで、単に工数を削減できただけでなく、メンバーの心理的な負担も軽くなりました。

“困ったときはAIに聞けば良い”という仕組みを構築できたことが工数削減という数字以上に、チーム全体の余裕を生み出す大きな変化をもたらしたと実感しています。

成果を出せた要因は何だと考えていますか?

西川

スピード重視でリリースし、利用していただきながら改善したことが、結果につながったと感じています。

このプロジェクトは4月に要件定義から検証までを完了し、5月からはCHASSU CRE8で開発を始め、6月にはリリースするという、わずか2カ月ほどのスパンで実装することに成功しました。

「とにかくまずはリリースする」「フィードバックを受けて即座に改善する」という高速サイクルを大切にして、何度もブラッシュアップを重ねました。このスピード感を持って動いたことで、現場の温度感や課題をリアルタイムに反映できたところが、このプロジェクトの最も大きな強みにもなりました。

新たに見えた課題も。ユーザー動線設計とナレッジの差にどう対応していくか

逆に、改善できなかった部分や新たに発生した課題はありましたか?

西川

はい。定量的な成果が出た一方で、ユーザー目線で見ると、問い合わせ導線の設計には改善の余地があると感じました。現状では問い合わせフォームの「送信」ボタンの直前にAIエージェントへの導線を設けて、「送信前に一度AIに聞いてみてください」と促す形にしています。

しかし、AIに遷移して質問しても解決できなければ、ユーザーは元の画面に戻って再度送信する必要があり、この一手間がユーザーにとって問い合わせ解決までの体験が悪く、利用率の伸び悩みにつながりました。

理想は、最初にAIに相談し、解決できなければそのままKRaFTチームへエスカレーションできる仕組みです。この点を次の改善ポイントとして捉えています。

その導線で、7%減を達成したのは素晴らしいと思います。導線の設計以外ではいかがでしょうか?

西川

そうですね。導線設計と並ぶもう一つの大きな課題は、ナレッジの質でした。AIが正確に回答を生成するためには、ナレッジが十分に整備されていることが大前提です。

しかしKRaFTを利用しているチームや部署ごとに設定や運用が少しずつ異なっており、現状の標準的なナレッジでは対応できない複雑な非定型の問い合わせが増加していました。つまり、今までのナレッジを読み込んだAIであっても、こうした複雑な非定型の問い合わせには回答を生成できず、人力で対応せざるを得ないという課題が残り、第二フェーズは依然としてその対応が続いています。

その課題に対しては、どのような改善策を考えていますか?

前田

結局のところ、AIが答えられない難しい問い合わせでも、人は対応できる「暗黙知」を持っています。この人とAIの知識の差をどう埋めていくかが、今後の重要なポイントだと考えています。

現状では、個々のメンバーが持つ専門的な知識や判断が「暗黙知」として存在しているため、それらを「形式知」として整理し、AIが学習・活用できる形にしていくことが重要だと感じています。

たとえば難しい問い合わせに人が対応した際、その一連のやり取りをAIエージェントに読み込み、ナレッジ記事として自動的に整理・蓄積する仕組みが実現できれば、AIがその知見をもとに類似ケースへより的確に対応できるようになります。これは、AI自身が学び続け、対応範囲が広がる――いわば「AIが自ら成長し、ナレッジを最新化する仕組み」の構築への挑戦となります。

最適なツールで、常にアップデートを。KRaFTチームが挑むAI活用の未来

今後のKRaFTチームの展望を教えてください。

前田

現在のKRaFTチームは少数精鋭で活動しています。そのため、「新しい価値を次々と生み出す」というより、今ある仕組みにAIをうまく取り入れて提供価値を引き上げ、さらにロスも削減することで価値を最大化して届ける段階にあると感じています。今後もAIを積極的に取り入れ、業務の利便性を高めていくことを重視したいと考えています。

例としては、AIエージェントを用いて、問い合わせ対応をより効率化することを検討しています。たとえば問い合わせが来た際にAIがナレッジを検索し、回答案を自動で作成・提案する。担当者がその回答案を確認し、問題がなければそのまま返信する。複雑なケースは人が対応し、その内容を再びAIが学習していく。こうした“人とAIの協働サイクル”をつくることで、よりスムーズで質の高い対応を実現できると考えています。

また、ナレッジが増えるほど課題となる「情報の鮮度」についても、AIを活用した改善を進めたいですね。閲覧されていない記事や古くなった情報をAIが検知し、削除や更新を自動で行うことで、ナレッジを常に最新の状態に保ち、検索妨害を防ぐ仕組みづくりにも取り組んでいく予定です。

西川

KRaFTは特定の部署だけでなく、さまざまな組織の問い合わせを受け付けるようになっており、今後ますます多くの社員と関わる“タッチポイント”になると思います。日々の問い合わせ対応は一見小さな接点ですが、年間を通して見ると、社員と最も大きな接点の一つになるでしょう。だからこそ「スムーズに問い合わせができる」「スピーディーに解決ができる」と感じられるような体験良化が大切だと思います。

今回作成したAIエージェントの仕組みは、グループIT本部内で横展開され、同様に問い合わせ対応AIエージェントを構築するチームも現れています。KRaFT以上に利用者が多いITインフラサービスにも応用していけることが分かり、グループIT本部全体の問い合わせ対応工数削減と体験良化に向けた第一歩となったと考えています。

AIエージェント構築に関する知見を本部内で共有し、構築ナレッジを蓄積することで、精度を高めながら取り組みの輪を広げていく。この「AIを自分たちで育て、使いこなしていく」という新しいはたらき方を、今後も継続していきたいと考えています。

前田

KRaFTチームの強みは、ツールそのものに固執せず、状況や目的に応じて最適な選択をしていく姿勢にあります。CHASSU CRE8にこだわらず、さまざまな製品の親和性や運用面での優位性を見極めつつ、よりよいサービスを提供していきたいです。

取材・文=いしげまやこ(ファーストブリッジ)/撮影=山口修司(ファーストブリッジ)
※所属組織および取材内容は2025年12月時点の情報です。
※略歴内の情報は2025年10月時点での内容です。

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