サイバー攻撃から組織を守るためSOC体制を刷新。特命チームが取り組んだセキュリティ変革の全プロセス

Profile

Kairi Miyashita

パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部情報セキュリティ部
サイバーセキュリティ室
シニアコンサルタント

2017年にパーソルホールディングス(旧テンプホールディングス)の新卒採用一期生として入社。セキュリティサービスに関連する企画・導入・運用業務およびインシデントレスポンス全般に携わる。CISSP、CISA、情報処理安全確保支援士(RISS)資格を保有。

Kyusuke Kakamu

パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部情報セキュリティ部
サイバーセキュリティ室
リードコンサルタント

新卒で自動車メーカー系列の情報会社に入社し、セキュリティインフラの運用や構築に従事。2024年、パーソルホールディングスに入社し、SOC(Security Operation Center)の再編や運用改善、XDRの導入を推進する。ネットワークスペシャリスト、情報処理安全確保支援士(RISS)資格を保有。

デジタル化の進展とともに、企業を取り巻くサイバーリスクは年々高度化・巧妙化しています。とりわけ大規模な企業グループにおいては、システム構成の複雑さや組織の分散が、セキュリティ対策の難易度を一層高めているのが実情です。


パーソルグループでは、こうした課題を背景に、グループ全体のサイバーセキュリティを担うSOC(Security Operation Center)の体制を抜本的に見直し、再編に踏み切りました。

本記事では、プロジェクトを率いた宮下と実務を担った各務(かかむ)に、SOC再編の背景やプロジェクトの舞台裏、そして新体制がもたらした変化について聞きました。

CSIRT機能を併せ持ったパーソルのSOC

まずは本プロジェクトでプロジェクトマネージャーを務めた宮下さんにうかがいます。パーソルグループのサイバーセキュリティを担うSOCが再編されたと聞きました。再編に至った経緯を聞かせてください。

宮下

旧SOCの母体はもともとグループのインフラを保守・運用していたメンバーで構成されていた組織でした。つまりメンバーの本職はあくまでもインフラ保守・運用であり、ますます高度化するサイバーセキュリティ対策に関しては、どうしても知見や経験が専門外の部分が生じていました。

さらに、パーソルグループのIT基盤がゼロトラストネットワークを前提とした構成へ移行することになり、これを機に外注先の入れ替えを含めたSOC体制の強化に取り組むことになりました。

パーソルグループにおけるSOCの位置づけには、何か特徴がありますか?

宮下

24時間、365日体制でネットワークを監視しサイバー攻撃の検知に努める、SOC本来の機能に加え、インシデント発生後の対応に特化したCSIRT(Computer Security Incident Response Team)の機能を併せ持っている点が挙げられます。

ふたつの機能を持っているのは、組織の縦割りによる弊害を防ぐためです。SOC再編以降もこの方針を堅持し、SOCとCSIRTの両機能を強化した新体制を目指しました。

プロジェクトで実務を担った各務さんにうかがいます。SOC再編前は具体的にどのような課題があったのでしょうか?

各務

旧SOCが長年にわたりインフラの保守・運用と兼務した結果、ドキュメントの不備や一部業務が属人化、ブラックボックス化という問題が顕在化していました。また、サイバー攻撃が高度化、巧妙化するなか、SOC再編の必要性や費用対効果を経営陣に正しく理解してもらうのも大きな課題でした。セキュリティ対策は問題が生じてはじめてその真価が問われるものだからです。

現場でも知見や対応力の不足によるリスクを認識しつつも、打開に向けた動きが十分に取り切れていなかったのが実情でした。

そうした課題に対し、プロジェクトではどのように対処されたのでしょう?

各務

セキュリティ対応の属人化、ブラックボックス化については、業務の棚卸しからはじめてから、最新のセキュリティ知見に基づいた業務フローの再構築に着手し、仕様の取りまとめや新たな協力会社の選定しながら、対応を進めていきました。

宮下

経営陣にSOC再編を価値ある投資と認めてもらうための試みとしては、直近の国内大手企業に対するサイバー攻撃事例を参考に、同等の攻撃がパーソルグループに行われた場合の被害想定を割り出しました。株価への影響は160億円を超えるなどの実数字と共に投資対効果を可視化し、理解を求めました。ここ数年、大企業を対象にした大規模なサイバー攻撃が続いています。

こうした環境の変化もプロジェクト立ち上げの後押しになりました。

▲経営層への説明時、被害想定額などを明示した資料

わずか3カ月間で旧SOCの課題を一掃

プロジェクトはどのようなスケジュールで進行しましたか?

宮下

2024年度の上期から構想を開始し、そこから上場企業のSOCにふさわしいケイパビリティを割り出し、要件定義や体制設計を進める傍ら、ベンダーやグループ各社へのヒアリングやベンダー選定を行い、予算審議を経て、2025年度の4月に旧SOCから新SOCへの引き継ぎをはじめました。新体制への移行を終えたのが6月末なので、ゴーサインが出てから新SOC体制がスタートするまでの期間は、実質3カ月ほどです。

プロジェクトの難所はどこでしたか?

宮下

冒頭にもお伝えした通り、一般的なSOCは、脅威の監視・検知・分析を通じてインシデントの予防に注力するのに対し、弊社のSOCは、インシデント発生後の対応、復旧、再発防止にまで踏み込みます。そのためカバーすべき領域がかなり広く、プロジェクトの立ち上げから実質3カ月間で、新体制を築くのは簡単ではありませんでした。

各務

実際、属人化、ブラックボックス化したプロセスを解きほぐすのにかなり時間と手間を要しました。移行に向けた下準備が一段落し、いよいよ旧SOCから新SOCへの引き継ぎをはじめるという段階で、把握し切れていなかった業務プロセスが明らかになり、急ぎ状況把握に努め、対応に動いたこともありました。

急ぎ対応すべき項目と、運用がはじまってからでも間に合う項目を分け、対応に濃淡をつけることでなんとか立て直しましたが、プロジェクトに費やせる期間は限られています。本当に間に合うかどうかギリギリまで確信が持てず、かなり肝を冷やしました。移行後、さらに精度を上げて取り組まなければならない課題がまだまだ残されていますから、その点については今後の課題です。

プロジェクトを前に進めるためにどんな工夫をされましたか?

各務

現状をいち早く把握するため、アラートやセキュリティ対策の状況や進捗を表示するダッシュボードの内製を通じて、情報の「見える化」に取り組みました。また、SOC再編に当たって調査した内容やナレッジは、ドキュメント化して残すだけでなく、AIに情報を読み込ませ、いつでも必要なタイミングで引き出せる仕組みづくりにも取り組んでいます。

特定のメンバーにしか分からない情報を極力なくし、誰でも一定以上の水準で対応できる体制を整備するためです。

宮下

定期的にグループ各社の関係者にアンケートを取るようになったのも、新SOC体制に移行してからはじめた取り組みです。攻撃の手口もますます巧妙化しているので、現場の声を踏まえて継続的に対策の高度化に取り組んでいきたいと考えています。

新SOCの体制について教えてください。

宮下

現行の組織は、統括するわれわれサイバーセキュリティ室のメンバーに加え、サイバーセキュリティへの知見を持つ社外パートナーのエンジニアを合わせ、10名ほどの体制で対応に当たっています。この新SOC体制により、サイバー攻撃が疑われるアラートが検知された場合の対応力はかなり向上したと自負しています。

プロジェクトの成果を受け、社内外で表彰の対象に

プロジェクトの効果についても聞かせてください。

宮下

アンケートを取ったところ、以前よりも対応すべきポイントが分かりやすくなったなど、前向きな評価をいただいています。また当初目標として初動対応時間の40%削減を掲げていたのですが、実際には目標を上回る60%向上を実現するなど、幸先のよいスタートが切れました。

各務 旧SOCから新SOC体制に代わって、インシデント対応力の強化が実現し、ゼロトラストネットワークやクラウド上で稼働するコンテナ環境への対応も可能になりました。

以前よりも、われわれはもちろん、グループ各社のシステム担当者のみなさんも新しい知見に触れる機会が増えたこともあり、着実にサービス品質が上がっているという話をよく耳にするようになりました。協力会社のみなさんもパーソルグループの状況や事情に通じていただいているので、以前にも増して先進的な提案が増えてきました。SOCの存在価値がますます高まっているのを感じます。

このプロジェクトを通じて賞を取られたそうですね。

宮下

はい。日本デジタルトランスフォーメーション推進協会が選定する日本セキュリティ大賞2025において「セキュリティ対策・運用部門 奨励賞」を受賞しました。さらに社内でも25年度の上期優秀案件に選出されています。

どちらも、効果が見えづらいサイバーセキュリティ領域において説明責任を果たし、定量的な成果を残した点や、短期間でレポーティングやモニタリング体制を整備し「見える化」したことを評価していただきました。

われわれの仕事は、普段なかなか光が当たらない領域なので、受賞の知らせを聞いたときはとても嬉しかったですね。

各務

そうですね。普段スポットが当たりづらい領域なので、努力と成果をきちんと評価していただき、とても励みになりました。新SOCの一員である協力会社のみなさんはもちろん、グループ各社のセキュリティ担当者も喜んでくださっています。

最後にこのプロジェクトの成果を踏まえ、今後の目標を聞かせてください。

宮下

すでに上場企業として、一定のセキュリティ対策はできているものの、運用面で改善の余地がありました。今回の体制刷新によって、より高度な取り組みに乗り出す土台が整いました。来年度はより高度な分析と対応が可能になるよう運用品質を高めるとともに、ランサムウェア対策のさらなる強化など、サイバーセキュリティ対策の深化に取り組みたいと思っています。

各務

個人的には生成AIを活用した横断的なログ解析を実施する体制を整え、対策や対応の高度化と効率化を両立させたいと思っています。
これからも、PDCAサイクルをしっかり回しながら、みなさんにパーソルグループが提供する各種サービスを安心して利用していただくのはもちろん、社員や取引先、株主のみなさんのご期待に応えられるよう、攻めの姿勢で守りを固める所存です。

取材・文=武田敏則(グレタケ)/撮影=山口修司(ファーストブリッジ)
※所属組織および取材内容は2026年1月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年1月時点での内容です。

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