参加者1,500人越え!パーソルグループの生成AI活用を推進し、「PERSOL生成AIマスター」輩出を目指す研修・イベントとは?
パーソルグループは、中期経営計画2026において事業成長のエンジンとしてテクノロジーを掲げています。中でも現在注力しているのが、生成AIの活用です。生成AIに携わる開発者のみならず、パーソルグループの全社員を対象に生成AIツールの利活用を推進し、獲得すべき知識やスキルの目安を定めています。
今回は、パーソルグループで生成AIの利活用を企画・推進する齊藤と田中に、AIの利活用を推進する取り組みや活動の成果、さらに今後の展開について聞きました。
社員の体験価値向上を目指し、生成AIの業務活用を推進する
ーパーソルグループ内で生成AIの利活用を推進することになったきっかけや、背景を教えてください。
齊藤:2023年より、パーソルグループ内で社員が生成AIを業務に活用できる体制を整えています。同年6月にはパーソルグループ専用環境のChatGPT「PERSOL Chat Assistant (通称: CHASSU)」が構築され、パーソルホールディングスの企画部門を中心に業務利用が開始されました。
その流れを受け、パーソルグループ全体の生成AI活用を推進し、「社員の体験価値を向上」というミッションのもと、2023年10月にデジタルEX推進室が立ち上がりました。「CHASSU」の認知度は、半年かけて徐々に拡大してきたものの、いざ業務に活用するとなると、まだまだ心理的ハードルがある人材が多い状況があり、私たちの室でパーソルグループ社員が抵抗なく業務に生成AIを活用できるようにするための企画を推進することになりました。
ーデジタルEX推進室の体制を教えてください。
齊藤:私たちが所属するデジタルEX推進室は9名が在籍しています。現在は、パーソルグループ内で生成AIの活用を強く推し進めるフェーズにあり、生成AIの利活用、および活用のための基盤やアプリ開発に取り組んでいます。室としては役割ごとに基盤構築チーム、アプリ開発チーム、それから私と田中さんが所属するイベント・研修企画チームの3つに分かれています。
生成AI業務活用までの道のりを「PERSOL 生成AI 学習MAP」で可視化
ーイベント・研修企画チームでは、ミッション達成に向けてまず何から始めたのでしょうか?
田中:パーソルグループとして「生成AIを活用していこう」という方針はあったものの、どうやって効果的に生成AIを活用していくのかといった具体的なことはまだ見えていませんでした。そのため、まず生成AIを業務活用していくために必要な情報の把握と整理から着手しましたね。
ー手探りのなか、どのように全体像を整理していったのですか?
齊藤:「CHASSU」を積極的に利用したいという方々がいる一方で、「生成AIって何?」というところから知りたい方々がいるなど、生成AIに対する知識量もモチベーションもさまざまでした。そういった意味で、どのようにすべての意向を汲み取り、認識を擦り合わせながら研修を組み立てていくか、経営層と社員の熱量と温度感のギャップを埋めていけるか、という点に最初は苦労しましたね。
―進めていく中でポイントになったのはどこでしょうか?
齊藤:業務活用するためには、まず生成AIの心理的ハードルを取り払うことがポイントになると考え、研修やイベントという形でアップスキリング施策を推進していくことを決めました。
その際に、研修の受講者に目的意識を持って生成AIについて学んでもらうこと、そしてどのような道筋を進むことでゴールに到達できるかを可視化したいと考えたんです。そこで、オリジナルの「PERSOL 生成AI 学習MAP」を制作し、研修の全体像を視覚的に表現して、ゴールとして目指すべき先に「PERSOL生成AIマスター」を定義しました。
さらに「PERSOL生成AIマスター」になったときの自分自身をより一層イメージしてもらうために、ゴールをさらに深掘りして具体化する作業もしました。生成AIの理解度・活用度に応じて、「理解」「業務導入」「業務活用と伝播」の3段階のステージに分けて整理し、パーソルグループ全体で生成AIの業務活用が波及している状態を最終目標として周知したんです。
楽しみながら学べる参加型の生成AI研修プログラム
ー「PERSOL 生成AI 学習MAP」について、詳しく教えてください。
齊藤:2023年度下期の研修・イベントは、生成AIの基礎をしっかりと学ぶことを目的として定めました。「研修」「イベント」「ビジネス活用」の3つの切り口でカリキュラムを組み、基礎を理解した「PERSOL生成AIマスター」になるための道筋を示しています。
未知のことを知るときのワクワク感をなぞらえて「宇宙旅行」をコンセプトに、ポップなデザインを施したのも工夫の1つです。研修といえば義務感を覚えがちですが、私たちは「楽しそう」「おもしろそう」と感じてもらえるような取っ付きやすさを大切に、プログラムを設計しました。
—内容を具体的に教えてください。
齊藤:2023年11月から2024年3月までの5カ月で15本のカリキュラムを用意し、展開しました。基本的に1時間、長くても90分のプログラムです。
「研修」では、外部講師に生成AIの基礎知識をインプットしてもらう基礎研修を行いました。「ビジネス活用」も同じく外部講師を招き、生成AIのビジネスへの活用事例を共有してもらうなどしました。
イベントでは田中さんに講師として登壇してもらい、私たちが企画したコンテンツを実施しました。
「入門編」「活用編」「実践編」「事例編」「開発編」「総集編」を経て「PERSOL生成AIマスター」にステップアップできる流れです。
まず「入門編」では、そもそも生成AIやChatGPTとは何かを学んでもらいます。「活用編」では、テンプレートを見ながら生成AIのビジネス活用事例を紹介し、「実践編」では「CHASSU」を使いながら受講者自身が手を動かします。ほかにも、「生成AIパスポート試験」をパーソルグループ全体で団体受験していたので、資格試験のサポートも行い、生成AIの基礎理解を促していきました。
ーなかでも、特に印象的だったカリキュラムを教えてください。
田中:パーソルグループの社員がチャットツールとして利用するTeams内に、生成AIについて発信するコミュニティを立ち上げているのですが、そこではいつも生成AIの業務活用事例を積極的に発信してくれる「社員インフルエンサー」のような存在の人材がいまして。「PERSOL生成AI学習MAP」内にある「事例編」の前半では、「生成AI活用事例会」と題して、社員インフルエンサー4名に声をかけて、生成AIの業務活用事例について発表・共有してもらう場を設定しました。私たちも、この回は受講者と同じ目線で参加したのですが、「このように活用すればいいんだ」と身近な事例として受け取れる、とても参考になる回だったと思いますね。
後半は「AI Prompt Cup 2023」と題して、プロンプトの上手な書き方とそれによって生成AIが出してきた成果物を共有するイベントを大会形式で開催しました。プロンプトは、生成AIへの指示文なのですが、このクオリティや指示の出し方により、業務効率がどれだけ上がるかに関わる重要なものなんです。
大会では、実際に受講者が作ったプロンプトをアップロードしてもらい、74件の事例が集まりました。そのなかで特に積極的に活用したいプロンプトを表彰して、入賞作品には景品を贈るなど、非常に盛り上がりましたよ。
ーワクワクするような参加型の研修ですね。「楽しんでもらう」という観点で、ほかに工夫したポイントがあれば教えてください。
田中:やはりオンラインで行う研修ですので、一方的に講師から受講者に説明するスタイルの研修では冗長になると思っていました。そのため、1時間ある研修のなかで、半分は講師から説明するターン、後半はその内容を踏まえて実際に手を動かしてもらう、参加型のカリキュラムとしました。
私は講師として話す側だったので、齊藤さんが研修中に盛り上げてくれるのがとてもありがたかったです。講義中にチャット欄で「これがポイントなんですね!」など、ポップなコメントを流してくれるので、受講者がコメントや質問するハードルが下がっていたと感じます。研修中の雰囲気づくりも工夫したポイントの一つでしょうか。
また、上長の上田さんからは「元々生成AIに精通していたわけではなかったからこそ、田中さん自身も生成AIについて学びながら、そしてイベント参加者とも一緒に学ぼうという雰囲気で講師として登壇していたのがよかった」というコメントをいただき、その点はとても嬉しかったです!
パーソルグループの人材にとって、AIが身近な存在に
ー最初は、研修やイベントを知ってもらう、参加してもらうのも大変だったのではないでしょうか。
齊藤:そうですね。基本的に研修の告知は、社内イントラとコミュニティといった2軸で情報発信を行っていました。堅苦しい案内というよりは、ポップなバナーを制作して気軽に参加してもらえるような形で広報していました。毎回反応は良く、告知すると100人ほどからリアクションをもらえることもありますよ。
ー社内コミュニティをうまく活用していますね。
齊藤:そうですね。パーソルグループの人材であれば誰でも入れるコミュニティで、社内のイベントや研修の広報のほかに、「CHASSU」のアップデート情報を共有する場としても活用しています。
10月当初は200人くらいしかいませんでしたが、イベント告知のたびに徐々に増えて半年で600人ほど増加し、現在は1,060人ほどが参加するコミュニティに成長しました。(2024年4月時点)
ー5カ月間にわたる研修の手応えはいかがでしたか。
齊藤:数字的には、研修・イベントの参加者は1,500人を超え、多くの「PERSOL生成AIマスター」を輩出できました。研修開始当初は、「生成AIって何?」という人材が肌感覚で多かったなか、取り組みを通して業務に生成AIを利活用できるレベルに至った人材が増えたと思いますね。
あと、「生成AIいつも勉強しています」「使っています」という文脈で、私自身社内で声をかけてもらうことが増えてきたこともあり、パーソルグループ全体にとって生成AIがより身近になった実感があります。
田中:そうですね。パーソルグループの社員が生成AIに対してどれくらい関心があり、どのような研修を求めているか手探りの状況で研修を組み立ててきましたが、「一から学べてわかりやすかった」「生成AIについて理解できていないのが自分だけじゃないんだ、と安心した」といった声をもらいました。
私たち自身が皆さんと同じ目線で研修を企画できたことが、結果的には功を奏したのだと思います。改めて生成AI初心者をターゲットにして、パーソルグループの生成AI利活用を盛り上げていくことも我々の使命だったのだな、と気付けましたね。
「CHASSU」のアップデートを軸に、エンジニア向け研修を拡充
ー今後の展望について教えてください。
田中:2023年度の下期は、生成AIに対する心の障壁をなくそうという目的でプログラムを組みました。2024年度は、生成AIで実際にどのように業務効率化が実現したか、どのような新たなプロダクトが開発できたかといった実例を共有する場づくりや、そういった事例を増やすためのプログラムを検討したいと思います。
私たちはChatGPTをベースにした「CHASSU」を業務活用のツールとして推進してきましたが、ほかのツールと連携しながら、さらなる生成AIの業務活用を盛り上げていきたい、とも考えています。
齊藤:そうですね。「CHASSU」は日々アップデートされています。今年度は生成AIを開発しやすくなる基盤のリリースもあり、もっとエンジニアの皆さんが開発のフェーズで生成AIを活用しやすくなると予想しています。2023年度はしっかり生成AIの基礎を固めてもらいましたので、今後は価値・成果を発揮できるようにイベントや研修、各種企画を増やしていきたいと考えています。
そのなかでやはり、楽しんでもらえる、ワクワクしてもらえるプログラムという軸はブレることなく、2024年度も進めたいと思っています。
ー最後に、パーソルグループの人材が生成AIを利活用することは、グループ各社にどのような影響をもたらすと考えていますか?
田中:日ごろ業務を進めるなかで、どうしても「この作業が苦手」「ここをもっと効率化できたら」といった思いは、皆さんそれぞれにあると思います。そういった作業を生成AIなどのツールを活用しながら、一つひとつ解決することで「楽しい」と思える業務を増やしたり、「やってみたい」と思うような新たな業務に気軽に挑戦できるようになることで、会社のビジョンである、「はたらいて、笑おう。」をさらに体現していってほしいです。
また、いち早く生成AIの業務活用をパーソルグループ全体で推し進めている、というポイントに社内外の皆さんに期待してもらいたいですし、社内の皆さんには、社内のデジタル環境が「パーソルグループではたらくことの価値」の一つとして捉えてもらえるようになることを目指していきたいですね!
取材・文=ファーストブリッジ 宮口佑香
(2024年4月時点の情報です。)
- 齊藤玖美子Kumiko Saito
- パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部
ワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室
リードコンサルタント - 金融系SIerでインフラSEを経験後、2018年にパーソルキャリアに入社。ITリサーチグループにて全社のIT高度化に向けた技術検証やIT関連プロジェクトの支援、コミュニケーションツールやチャットボットなどITツールの企画から導入・展開を担当。2023年より、パーソルホールディングス ワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室を兼務。パーソルグループ全体のはたらく環境の体験価値向上を目指し、現在は生成AIの利活用を推進する取り組みの企画実行を担当中。
- 田中杏花音Akane Tanaka
- パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部
ワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室 - 2022年4月パーソルホールディングス株式会社へ新卒入社し、サーバのセキュリティ運用を担当。「キャリアチャレンジ制度」を利用して、2023年10月よりワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室へ異動。現在は、社内用CharGPT「CHASSU」の利活用を担当中。企画の立案から実行するなか、自ら研修講師としても登壇している。