STRATEGY
【前編】生成AIで変革を加速せよ——パーソル各社の事業をアップデートするグループAI・DX本部の挑戦
「はたらいて、笑おう。」の実現に向け、従業員体験の向上と業務基盤の構築を軸にIT戦略を推進しているグループIT本部。2023年のインタビューでは、「社員にとって使いやすい環境」を設計する重要性や、「攻めと守りのガバナンス」の視点が語られました。
それから2年、取り組みはどこまで進化したのか。今回はグループIT本部長の渡辺に、現在地と次のステージを見据えた戦略を聞きました。
現行の中期経営計画におけるグループIT本部の役割は、「従業員体験の良化」と「セキュアな業務基盤構築」という2つを軸に、グループ全体のデジタル環境を進化させることです。
従業員体験の良化では、ワークスタイルの変革を通じて、社員一人ひとりが自分らしいはたらき方を選べる環境の実現に取り組んでいます。
一方、セキュアな業務基盤構築については2つの重点領域があります。一つは、既存システムをクラウドに移行し、柔軟かつ持続可能なインフラを整備すること。もう一つは、全社規模でのITガバナンスやセキュリティ体制を強化し、「安心してはたらける」前提をつくることです。
当初の計画は順調に推移しており、着実な手応えを感じています。
まず、従業員体験の良化に関しては、デジタルワークプレイスの環境整備に向け、ChatGPTを活用した社内GPTやMicrosoft 365 Copilotを導入しました。さらに、主要会社でのコラボレーション基盤の統一もほぼ完了し、情報活用や迅速な意思決定ができる環境が整備されつつあります。こうした取り組みによって、社員のはたらく体験にも確かな変化が生まれています。
インフラの整備では、グループ全体でクラウド移行率84%を目指しており、従来型のデータセンターで稼働していたシステムを、順調にクラウド環境へと移行できています。これにより老朽化のリスクから解放され、柔軟なシステム運用や最新技術の迅速な導入が可能になりました。
さらに、CAPEX(資本的支出)の最適化も進み、財務面での健全性向上という経営インパクトも表れ始めています。
この領域は伝わりにくい部分もありますが、一つの成果として、経営層と視座を合わせながら、順調に浸透させられていることが挙げられます。
象徴的なのが経営層を巻き込んだトレーニングサイクルの実行です。今年1月には、経営層向けにランサムウェアをテーマとした対策訓練を実施し、その結果を踏まえ、「ランサムウェア対応方針」を正式に策定・導入しました。
単なる制度設計やルール策定にとどまらず、「どうすれば経営の意思決定に資するか」という観点で、ガバナンスやセキュリティを機能させる体制が整いつつあります。
もっとも重視しているのは、「コミュニティとしての広がり」です。経営層が方針を示すことは必要ですが、一方的に押し付けても行動変容は起きません。大切なのは、社員の「やってみたい」と感じる熱量を、どのように引き出すかです。
特に若い世代には、生成AIに親しみのある「AIネイティブ」が増えています。社内のあちこちに点在する、「これを使えば、もっとはたらきやすくなる」といったエネルギーをいかに拾い上げ、組織全体に広げていくかが重要になります。
そのためにも「どうすれば人が自然に動きたくなるか」を読み解く、「マーケティング的な視点」が、ますます重要になると感じています。
現在は、他社との連携で得た知見を活かし、生成AIに関する社内勉強会や、画像生成AIを活用した資料作成チャレンジ、Microsoft 365 Copilotの活用方法を紹介する社内向けラジオなど、社員が自ら参加したくなるような施策を多数展開しています。
こうした取り組みを通じて社員同士の熱量が高まり、「自分たちで何かやってみよう」と新たな動きにつながる。この自発的な循環こそが、変化を持続可能にする原動力なんです。
私が重視しているのは「計画」そのものではなく、その先にある「ビジョン」です。「パーソルにとって、どんな未来が最善か」という理想の状態を描き、そこから逆算して、今何をなすべきかを常に考えています。
こうしたビジョンは、技術の進化とともに絶えず変化します。例えば、5年前には、生成AIがここまで日常業務に浸透するとは、多くの人が想像していなかったはずです。しかし、今ではさまざまな場面で当たり前のように使われています。
こうした変化に素早く対応するためにも、「どうありたいか」という状態目標を持ち、それを基に柔軟に行動することが大切なんです。中期経営計画は、あくまで未来を実現するための手段に過ぎません。その先にある未来の姿を見据え、進捗や環境変化に合わせてチューニングし続けています。
インフラやセキュリティの領域では、どれだけ準備を重ねていても、予期せぬ障害やトラブルは発生します。そのため、「いつか必ず起きるもの」として捉え、迅速に対応できる体制を整えておく必要があります。
特にグループIT本部は、グループ全体の事業を支える“前提条件”とも言える領域です。ネットワークやインフラに不具合が生じれば、全社的な業務に深刻な影響を及ぼします。信頼の根幹に関わる領域だからこそ、インシデント対応は最優先で取り組んでいます。
将来を見据えて進める「計画性」と、足元の予期せぬ事象に対応する「即応性」。この両輪をバランスよく回すことが、私たちに求められる本質的な役割だと捉えています。
特にインフラやセキュリティ領域において、社内の理解が着実に深まってきました。その一例が、グループ横断の会議体「リスクマネジメント委員会」における変化です。
先日行われた会議では、「この対策はどのような状況か」「どう進化していくのか」といった質問が多く寄せられ、他の経営リスクと同様に重要議題として扱われるようになりました。
このような関心の高まりは、私たちが地道に啓発や対話を積み重ねてきた成果だと感じています。
「ストーリーで伝える」ことを意識してきました。例えば、情報漏えいのようなインシデントが発生した際、その場限りのタスクとして対応すると、時間が経てば関心が薄れてしまいます。
重要なのは、過去に起きた事象にどのように向き合ってきたのか、そして未来にどのようなリスクが待ち受けているのかを示すことです。単なる課題としてではなく、「未来に備える戦略」として位置づけ、先を見据えた視点で伝えていくことが不可欠だと考えています。
こうした積み重ねによって、インフラやセキュリティの重要性が経営層にも正しく伝わるようになり、それに伴い期待の声も着実に高まってきています。
今後は、テクノロジーを「いかに使いこなしていくか」が重要になります。生成AIをはじめとする技術革新により、私たちが提供できる価値の幅は急速に広がってきました。しかし、どれほど優れたツールであっても、現場で活用されなければ意味がありません。
これまでは、DXを支える基盤環境の整備に注力してきましたが、次の中期経営計画では、「活用の深化」を進めるフェーズに移行します。ワークスタイルの領域では、例えば社員一人ひとりに「AIエージェント」が存在するようになるなど、はたらき方が抜本的に変わっていくと考えています。
スケジュール調整や資料作成、情報の要約といった業務を、個人に最適化されたAIが支援する。そんなはたらき方に向けて、社員のリテラシーや活用スキルを高めていく取り組みをしながら、日常的にAIを使いこなす世界を目指します。
インフラの領域では、「業務の圧倒的な自動化」を実現したいと思っています。具体的には、現在の半分の人員でも安定したシステム運用が可能な状態です。また、常に検証を行うゼロトラストの概念を取り入れることで、システム全体の安定性をさらに高め、安定性と効率性を両立した基盤運用を目指します。
さらに、ITガバナンス・セキュリティ領域では、「攻撃を前提にした設計と即応性の向上」です。どれだけサイバー攻撃に備えても、突破されるリスクは常に存在します。だからこそ、攻撃を受けた瞬間に即座に検知・遮断し、被害を最小限に抑える体制づくりが重要です。
こうした対応力を高めることで、正確な情報を経営層にいち早く届け、迅速な意思決定を支える土台を築いていきます。
「自ら舵を取れるリーダー」を増やすことを重視して、部長体制は従来の5名から6名に拡充し、室長クラスの増員も進めています。
特にインフラやセキュリティ領域では、進めるべきタスクが多岐にわたるため、長期的な戦略と日々の運用・改善を両立できるよう、組織体制の強化を図っています。
グループIT本部の大きな魅力は、「自らの手で、はたらく未来を創り出せる」環境です。
例えば、ワークスタイルの領域では、最新のテクノロジーを活用しつつ、マーケティング的な視点を取り入れることで、社員一人ひとりの「はたらきやすさ」を直接変えていけます。
また、インフラ領域では、ゼロトラストやクラウドの分野を通じて、圧倒的な業務の自動化を目指しています。この領域でトップランナーを目指す技術者にとって、非常に面白い環境です。
そして、ITガバナンス・セキュリティ領域は、パーソルグループ全体の安心と信頼を守る最前線です。グループ全体を見渡して正しい方向へ導いていく―この領域ならではのスケール感と醍醐味があります。
それぞれ、「変化を仕掛けられる立場」にあり、そのような挑戦に意欲のある方と、ぜひ一緒に未来を創っていきたいですね。
取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=PalmTree
※所属組織および取材内容は2025年7月時点の情報です。
※略歴内の情報は2025年4月時点での内容です。
パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部
本部長
2000年早稲田大学大学院を卒業、米系投資銀行のIT部門でキャリアをスタート。日系の証券会社を経て、2017年11月にパーソルホールディングスに入社。IT戦略やIT予算、海外子会社を含むグループ全体のITガバナンスの設計など幅広く担当。2020年より、システム・スキル軸の組織から価値ドリブンの組織への変革を目指し、アジャイルマインドの浸透や、アジャイル組織運営を実現するためのプロセスの構築に取り組んでいる。2023年7月より現職。