STRATEGY
人材派遣業の本質に向き合いながら、テクノロジーで“はたらく”を変革する―パーソルテンプスタッフ社長木村×CIO朝比奈対談
パーソルテンプスタッフ株式会社
キャリア推進本部
東京第二キャリアコーディネート部 金融コーディネートセンター
マネージャー
2009年、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア)へ入社し、派遣コーディネーターとしてスタッフ登録や求人紹介に従事。2015年に法人営業部門へ異動し大手IT・大手証券やメガバンクグループを担当し人材派遣の提案に従事。2022年より金融コーディネートセンターへ異動、2023年よりマネージャーを務める。
パーソルテンプスタッフ株式会社
DX推進本部
アジャイル推進部 アジャイル企画室
2019年にパーソルテンプスタッフに新卒で入社。新宿オフィスにて新規開拓や深耕営業に4年間従事した。2023年4月よりDX推進本部に異動。現在はAIを活用したスキルシート自動生成システムの企画開発など、社内フロント部門のDX推進に携わっている。
パーソルホールディングス株式会社
グループAI・DX本部
グループAI推進部 データサイエンス室
リードデータアナリスト
SIerに新卒入社。データ分析PoCや、AIサービス/システムの企画・開発・プリセールスに従事。2023年パーソルホールディングスに入社。業務効率化、AIによるサービスの付加価値向上を目指して、業務のAI適用を推進中。
パーソルホールディングス株式会社
グループAI・DX本部
デジタル開発部 SBUデジタル開発室
エンジニア
新卒でSIerへ入社。CRM製品の導入・運用や、製造業でのソフト開発を経験し、2023年にパーソルホールディングスへ入社。CoEの一員として、グループ個社の支援を開発の面から行う。また、Tech Harborの一員として、開発標準化にも積極的に取り組み中。
2025年5月。パーソルテンプスタッフで内製ツールの本格運用がはじまりました。「スキシの達人」と呼ばれる派遣スタッフのスキルシート(スキシ)をAIで自動生成するパーソルオリジナルツールです。このツール導入により、スキルシート作成にかかわる派遣スタッフと派遣先企業のマッチングを行うコーディネーターの作業効率は大幅に向上しました。
今回はこの「スキシの達人」に携わった4名に集まってもらい、開発の舞台裏について聞きました。
「スキシの達人」とは?
派遣スタッフの職歴や能力、知識を派遣先企業の依頼内容とマッチングさせるための「スキルシート(スキシ)」を、生成AIを活用して効率的に作成するパーソルオリジナルのツール。
手作業だと30分以上かかっていた作成時間が、その後のチェックや修正時間を含めてもわずか数分で要約できるなど劇的な時間短縮を実現。「スキシの達人」は、2024年6月にver.1をリリース後、2025年1月よりver.2の開発に着手。2025年5月から本格運用がはじまりました。
現在、約350名のコーディネーターに利用され、求職者と派遣先企業のマッチングから提案までのリードタイム短縮に貢献しています。
清水
パーソルテンプスタッフのDX推進本部で、営業部門と派遣スタッフに仕事を紹介するコーディネーター部門向けに、デジタルツールによる業務改革を推進する仕事をしています。
今回のプロジェクトでは、現場のみなさんや開発スタッフのみなさんと相談しながら、どの機能を盛り込めばツールの価値を最大化できるかを考えたり、ステークホルダー間の調整役を務めたりしました。
新
私は、パーソルテンプスタッフのコーディネート部門所属で、営業部門と派遣スタッフの間を取り持つコーディネーターを統括しています。コーディネーターの主な仕事は、派遣スタッフと派遣先企業のマッチングです。派遣スタッフのこれまでの職歴や経験、就業先の希望をうかがって、お仕事をご紹介しています。
今回のプロジェクトでは、スキルシート作成の実務と課題をよく知る立場として、実装したい機能や活用推進に向けたアイデアを現場目線で提案し、システム開発に反映する役割を担いました。
藤
はい。私たちはパーソルホールディングスのCoE(Center of Excellence)で、グループ各社の業務改善やビジネスの成長を実現するDX施策を後押しする役割を担っています。今回のプロジェクトでは、データサイエンティストとして、データ環境の整備や分析、モデリングなどを担当しました。
大坪
私も普段は、パーソルホールディングスのSBUデジタル開発室のエンジニアとして、グループ各社で利用される業務システムの設計や開発、導入などを担当しています。今回は、フロントエンド開発からバックエンド開発、インフラ構築まで、開発業務全般に携わりました。
新
「スキルシート」とは、派遣スタッフの経験、保有資格などのスキルにまつわる情報を盛り込んだ基礎資料です。派遣スタッフの希望により実施される職場見学において、必要スキルや経験の確認を行う際にスキルシートが活用されます。
清水
その通りです。「スキシの達人」は、ビジネスの起点のひとつでもあるスキルシート作成プロセスの効率化を目指したプロジェクトです。その主な目的は、派遣スタッフのマッチングから派遣先企業へのご紹介に至るまでの全体的なリードタイムの短縮にありました。
清水
これまで、営業担当からコーディネーターに派遣の依頼が届いてから、スキルシートをまとめて提出するまでの時間は、最低でも30分から1時間半程度かかっていました。派遣先企業からも「丁寧な反面、提案までの時間が長い」といわれるケースも少なくなかったのが実情です。
この問題を解決するために、AIによるスキルシート生成・要約ツール「スキシの達人」開発プロジェクトが発足しました。
新
業務効率化を進めるため、入力業務と整形業務をグループ会社に委託していたのですが、数が増えるとどうしても依頼から納品までの時間がかかってしまいます。また、コーディネーターもスキルシートに自らのこだわりを込めようとするので、指示をまとめる時間や納品後の手直しが発生してしまう。こういった理由から、時間がかかっていました。
新
スキルシートの品質を落とさず、作成にかかる時間を減らすためにはどうしたらいいか、関係者で知恵を絞る過程で、成長著しいAIを組み込んでみてはどうかというアイデアが生まれました。
清水
デジタルツールに苦手意識を持っている人でも気軽に使えるよう、ひと目見て使えそうだと直感的に思ってもらえるUI/UXに加え、なるべくマウス操作だけで完結できるよう、操作性の高さにも配慮し、「スキシの達人」が誕生しました。
清水
2024年の2月に開発をスタートし、初期バージョンの「スキシの達人」を6月にリリースしました。その後、生成されたスキルシートをコーディネーター自身が手直しできるように、改良を加えたバージョンが2025年5月にリリースされ、現在利用拡大に努めているところです。
プロジェクトメンバーは、ここにいる4名を含め、総勢10名ほどで開発にあたりました。
清水
利用時にスタッフナンバーと受注番号を入れて検索すると、データベースから派遣スタッフの職歴の一覧が表示されます。コーディネーターはこの情報を見て、要約したい職歴をマウスで選択、ボタンをクリックすると業務内容が要約されるというのが基本的な流れです。
これまでは、入力オペレーターに依頼するために「何年何月から何年何月までのスキル・経験を要約する」といった指示を出していたのですが、マウス操作ひとつで簡単に依頼することができるようになりました。
清水
スキルシートの作成時間を、2分半から3分程度まで縮めることができました。最低でも30分間ときには数日かかっていたことを考えると劇的な時間短縮です。リードタイムの短縮を実現しただけでなく、進捗管理機能を実装したこともあり、現場のみなさんからも非常に好評です。
意外なところでは「スキシの達人」の噂を聞きつけた別のグループ会社から「ぜひ利用したい」といった声が届くなど、社外からも注目を集めています。
新
効果は効率化だけではありませんでした。「スキシの達人」導入をきっかけに、パーソル社内専用対話型AIツールの「CHASSU(PERSOL Chat Assistant)」と組み合わせて使いはじめるコーディネーターが出てくるなど、デジタルツール活用に前向きなメンバーが増えたのは、見た目以上に大きな変化だと感じています。スキルシート作成以外にも効率化できる業務があるのではないか。そんな視点を養うきっかけになったからです。
大坪
一番は時間との戦いでした。これまでスキルシート作成の委託先との契約終了が決まっており、開発期間が非常に短かったからです。
もうひとつ難しかったのは、現場の要望をどこまで実装するかの見極めでした。一つひとつの要望はもっともなものばかりで、技術的にはそこまで難しくはなかったのですが、時間的な制約と基幹システムの接続条件との兼ね合いで、考えるべき点がたくさんありました。
藤
難しかったのは、従来のスキルシートに使われる用語や表現をAIで再現することです。この言葉のあとにどんな言葉が続けば違和感がないのか、当初は判断がつきにくかったので、テストデータをなるべくたくさん用意していただき、生成されたスキルシートの一字一句をチェックするような泥臭い作業が欠かせませんでした。現場のみなさんの協力を得て、40名から50名分のスキルシートをチェックしたかと思います。
藤
そうですね。当初はスキルシート生成の過程でノイズが発生し、不要な情報を出力してしまったり、不自然なまとめ方で期待とは異なる出力結果になってしまったりすることが多々ありました。これに関しては、ひたすらフィードバックループを回すしかありません。従来のスキルシートと遜色ないクオリティにもっていくまでが一苦労でしたね。
新
もちろん、それなりのスキルシートが出てくるんです。出てくるんですが、些細な部分に違和感があったり、過剰な表現や要約し過ぎて意図とは異なる結果になることがあったりしたので、定性的な評価を加えながらチューニングしていく必要がありました。どこがちょうどいいラインなのか見極めるのが大変だったんです。
清水
生成されたスキルシートをチェックするコーディネーターの工数が増えてしまっては開発した意味がありません。とても手間のかかる作業でしたが、約4カ月かけてチューニングを繰り返した結果、満足できる要約ができるようになったと自負しています。
大坪
一般的な開発プロジェクトの場合、プロダクトオーナーが決めた仕様とスケジュールに沿って実装するケースが多いのですが、今回は「もしこの機能をつけるなら、こっちの機能にまとめた方がいいんじゃないか」とか「こういう見せ方をした方が、利用者にわかりやすいんじゃないか」とか、開発からも提案させてもらえたので、そういう意味でとてもやりやすかったですね。本当に全員で開発している感覚がありました。
藤
私も同感です。データを分析してモデルを開発するにしても、ざっくばらんに話し合いながら進めていけたので、壁を感じることはなかったですね。
とくに今回は、毎日顔を合わせながら綿密に連携しながら開発を進められたので、どんな課題であっても腹を割って話し合うことができました。全員で「本気で使いやすいツールにしよう」という同じ思いを共有していたので、開発していてとても楽しかったですね。
新
清水さんはじめ、アジャイル企画室のみなさんのサポートもあり、プロジェクト立ち上げの段階から「何を目指すのか」「どんなものをつくるのか」について、価値観の共有がしっかりできたのがよかったんでしょうね。そのおかげで、メンバーとの距離感がグッと縮まり「安心して発言していいんだ」という雰囲気がつくれたからこそ、フラットかつ、スピーディーに連携できたんだと思います。
清水
今回のプロジェクトは、単に業務を効率化するツールを導入して終わりではなく、今後のAI活用やDXプロジェクトに大きな影響を与える試金石という意味合いもありました。そういう意味でも一定の成果が出せてよかったと思っています。
清水
デジタルツールにしても、AIにしても「あなたの能力をさらに飛躍させるためのもの。デジタルはあなたの味方なんですよ」というメッセージを広げていきたいですね。そのためにも少しでも、デジタルツールのよさを体感してもらって普及につなげられたらと思っています。
新
デジタルツールとうまく付き合えば、人がやるべき仕事に時間を割けるようになりますからね。それが実感できたら、デジタルツールへの距離も縮まると思うんです。仕事環境の変化をきっかけに、「私はこれから何を追求していくべきなのか」「もっとこの部分を効率化できないか」と、発想を広げて、行動を起こせる人が増えてほしいと願っています。
大坪
現時点では「スキシの達人」が生成したスキルシートは、Excelファイルとして出力されるので、内容を確認したり、手を加えたりするには、Excelを立ち上げなければなりませんが、編集まで「スキシの達人」でできたら、もっと利便性が上がるはずなので、ぜひ実現したいですね。
もう少し技術的に踏み込めるのであれば、現在、オンプレで運用されている基幹システムをクラウドリフトし「スキシの達人」とAPI連携できるようになれば、いまよりも保守性が上がり、機能強化もしやすくなるはずです。これも、いずれ実現できたらと思っています。
藤
データサイエンティストとしては、生成するスキルシートをいまよりブラッシュアップしたいですね。できれば、ハイパフォーマーのコーディネーターが共通して心がけている暗黙知を、形式知化してAIに取り込み、よりレベルの高いスキルシートを生成できるようにしたいと思っています。
新
人間がつくるものと遜色ない洗練されたスキルシートが自動で生成できたら、めちゃめちゃスゴいですよね。AIによって派遣スタッフのポテンシャルを余すことなく、しかも素早く伝えられたら、人間はもっと別の工夫に力を割けるようになるはずです。そこまでできるようになったら、現場から、もっと「ああしたい、こうしたい」と、アイデアが上がってくるようになると思います。
そうなれば、新しいチャレンジもしやすくなるはずなので、ぜひ実現しましょう!
取材・文=武田敏則(グレタケ)/撮影=山口修司(ファーストブリッジ)
※所属組織および取材内容は2025年9月時点の情報です。
※略歴内の情報は2025年4月時点での内容です。