PROJECT
30を超える基幹システムを“無風”でクラウドに。パーソルテンプスタッフが挑むアプリリフト

パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部 ビジネスコアインフラ部
ネットワークインフラ室
兼 セキュアアクセスインフラ部
拠点ネットワーク室
クロスディビジョンマネージャー
2001年よりインフラエンジニアとして金融、ゲーム、モバイル、広告、教育など多様な事業ドメインを経験。その後、インフラ企画や運用改善に加え、エンジニア組織の活性化、人事制度の立案にも携わる。2022年にパーソルホールディングスへ入社し、ネットワーク基盤の再設計およびクラウドシフトを推進。2026年より管掌範囲を拡大しネットワーク組織を横断的に統括。
パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部 ビジネスコアインフラ部
ネットワークインフラ室
シニアコンサルタント
2011年から飲食業・小売業の経営マネジメントに従事し、2018年よりIT業界へ転身。インフラエンジニアとして提案から設計・構築・保守・運用まで幅広く経験する。その後は運用コンサルタントとして課題分析や改善設計を担い、現在はパーソルホールディングスでプロダクトオーナーとして運用の高度化をリードしている。
パーソルホールディングスでは現在、グループ全体の基盤構造を見直す「クラウドシフト」を推進しています。それは単なるインフラ刷新ではなく、複雑化してきた構造を再設計し、価値創出のスピードを引き上げる取り組みです。
2年前の菱のインタビューでは、クラウドシフト推進とデータセンター維持の両立という難しさと手応え、さらにはエラーバジェットという新たな運用思想についても語られました。当時描いていた「進化」は、いまどのような姿を見せているのでしょうか――。
今回の前後編インタビューでは、グループIT本部でネットワーク領域を統括する菱と、運用改善をリードする藤原に、基盤再設計の現在地と運用の高度化の取り組み、その先に見据える未来について語っていただきます。 前編となる今回は、お二人のキャリアや思想を紐解きながら、クラウドシフトの進捗とAI時代におけるネットワーク領域の展望に迫ります。
菱
これまで一貫して、ネットワークやインフラ領域のエンジニアとしてキャリアを重ねてきました。20代は金融業界で堅牢性と可用性が最優先される環境を経験し、30代はソーシャルゲームや広告基盤のインフラ構築・運用に携わってきました。
そうした経験を積む中で、40歳を迎えた頃から、技術そのものだけでなく「人の可能性をどう広げるか」というテーマに向き合いたいと考え、人材領域に強い関心を持つようになったんです。
現在は、これまで培ってきたマネジメント経験を軸に、エンジニアリングと人材の力を掛け合わせながら、組織としての価値を最大化することに取り組んでいます。
藤原
もともと飲食業界や小売業界にいましたが、専門性を持ったコンサルタントになりたいという思いから、2018年にIT業界へ転身しました。
最初はインフラエンジニアとして、官公庁や自治体、通信キャリア向けのネットワーク提案や設計を担当しました。その後は新規事業の立ち上げにも携わり、運用コンサルタントとして次世代ネットワーク運用の設計や課題分析、改善提案を行ってきました。
さらに運用領域での専門性を高めたいと考え、2024年にパーソルホールディングスへ入社しました。現在はインフラ領域の運用改善をリードし、可視化と標準化を軸に、持続可能な運用モデルの構築に取り組んでいます。
藤原
菱さんのインタビュー記事を読んで、「エラーバジェット」という考え方に出会いました。エラーバジェットはGoogleが提唱するフレームワークの一つで、理論として広く知られています。とはいえ、国内で本格的に推進している方は、まだほとんどいません。
しかし、書籍や資料などで学びを深めていくうちに、「運用を価値に変える」という考え方に強く惹かれていったんです。そうした思想を掲げている菱さんのもとで、これまで運用領域で培ったスキルを活かし、プレイヤーとしてエラーバジェット運用を実現させたい。そう考えパーソルホールディングスへの転職を決めました。

菱
クラウドシフトは、グループ各社がこれまで運用してきたオンプレミス環境をクラウドへ移行し、基盤構造そのものを再設計する全社横断の取り組みです。グループIT本部が中核となり、段階的に推進しています。
パーソルグループはこれまで、新規事業の創出やM&Aを通じて事業を拡大してきました。その結果、多様なシステムが積み重なり、システム間の依存関係も複雑化していました。そのため、メンテナンスや障害対応に時間とコストがかかり、新たなサービスを迅速に立ち上げるうえで制約が生まれていたんです。
クラウドシフトは、そうした構造的な課題を解消し、基盤をシンプルかつ柔軟に再構築するための取り組みになります。単なるインフラの移行ではなく、「より速く、より安定して価値を届けられる状態」をつくることが目的です。
現在は、2026年度中の完了を見据え、全体像の整理と最終的な移行調整を進めている段階にあります。
菱
クラウドシフトは、グループ各社がそれぞれの事業特性に合わせて構築・運用してきた環境を横断的に再設計するプロジェクトです。
各サービスには固有の事情や優先順位があり、現場には日々守るべきKPIや責任があります。そのため、調整や合意形成にはどうしても時間がかかるんです。ただ、自社サービスを守る責任がある以上、それは自然な反応だと受け止めています。
そのうえで大きかったのは、パーソルホールディングスに根付いている「自分ごとで考える」文化です。現場の担当者一人ひとりが強い責任感と使命感を持ち、各サービスやシステム担当者の納得感を得られるように、根気強く対話を重ねてくれました。
また、ネットワークは道路のような存在です。上を走る車、つまりサーバーやアプリケーションが移行して初めて動けるため、そうした各所の協力があったおかげでもあります。多くの関係者と継続的な対話を重ねたことが、大きなトラブルなく進められている理由だと思います。
菱
もっとも意識しているのは、一人ひとりの評価を正当に高めることです。評価が上がるということは、その人の取り組みや挑戦が、組織にきちんと価値として認められたという証でもあります。
マネジメントで陥りやすいのは、「まず組織への貢献を求める」ことです。もちろん組織成果は重要ですが、正論を先に掲げるだけでは、人は主体的に動けません。一方で、個人の成長や評価を起点にすると、「自分がどの挑戦をすれば価値を出せるのか」を考えるようになります。
私は「システムは全体最適、マネジメントは個別最適」というポリシーを掲げています。システムは全体で整合性を取る必要がありますが、人はそれぞれ強みも志向も異なります。だからこそ、一人ひとりに合わせてかかわり方を変えながら、その人らしい価値発揮の形を設計することを大切にしているのです。

藤原
菱さんのマネジメントは、誰かと比較して評価するのではなく、その人自身の強みや可能性を深く見ようとします。
短所を補うことよりも、長所をどう伸ばすかに焦点を当てるため、私のように特定の領域に強みがあるタイプでも輝かせてくれるんです。そうしたかかわり方だからこそ、一緒に挑戦したいと感じさせてくれるのだと思います。
菱
これまでは、データセンター内の基幹機器やクラウド基盤を担う「ネットワークインフラ室」を管掌していましたが、今年1月からは、パーソルグループの各拠点のネットワークを担う「拠点ネットワーク室」もあわせて管掌する体制へと変わりました。
両組織はいずれも、複数の拠点や環境をつなぐ広域ネットワーク(WAN)を管理しています。しかし、管理主体が分かれていたことで、採用する製品や設計思想、運用プロセスに違いが生まれていました。
室同士で連携は図っていたものの、組織が分かれている以上、判断基準や優先順位に微妙な差が生じます。その差は、障害対応時の切り分けや意思決定のスピードにも影響していました。また、組織の責任範囲の中で最適化を進める構造では、どうしても全体最適への視点が持ちにくくなります。
こうした背景から、両組織を横断的に統括することで、ネットワーク基盤を一つの構想として再設計できる体制へと移行したんです。
菱
もっとも大きいのは、判断の軸が「個別最適」から「全体最適」へと自然に切り替わることです。同じ責任範囲のもと一体とすることで、課題も成果も自分ごととして捉えやすくなります。
また、設計思想と運用方針を一本化できることで、ネットワーク構成そのものがシンプルになります。構造が整理されると、管理のしやすさだけでなく、改善のスピードも高まります。
さらに、現在構想を進めている「ゼロトラスト」アーキテクチャも、両領域を一体で設計できるようになったことで、より一貫性を持って推進できると考えています。

菱
まず前提として重要なのは、標準化と共通化を徹底し、土台を強固にすることです。そのうえで、サービスの特性に応じて特化し、差別化することで競争力を高めていきます。
AI時代においてもっとも重要なのは、「速度」だと捉えています。ここでいう速度は、単なる通信速度だけでなく、データの取得や処理なども含めた全体の応答性です。
これまでのコンテンツ系のインフラでは、キャッシュによる最適化が中心でした。しかし、AI活用が進むと、リアルタイム性の高いデータ処理や、大量データの整合性・信頼性を保ちながら処理する設計が求められます。
さらに、ウェブコンテンツやマッチングサービス、業務システムなど、サービスごとに負荷の特性やデータフローは大きく異なります。そのため、事前に利用パターンやトラフィック特性を想定し、制約にならない基盤を準備しておく必要があります。
現在はまだ構想段階ではありますが、AI時代に適応できるネットワークの在り方は、少しずつ具体性を帯びてきています。
菱
インフラには、既存の固定費用や利用量に応じた変動費が継続的に発生します。そのため、まずはコスト構造を正しく把握し、どこに最適化の余地があるのかを明確にすることが重要です。
加えて、リスクやセキュリティも本来は定量的に捉えるべき領域だと考えています。たとえば障害が発生した場合、復旧対応にかかる人件費だけでなく、システム停止による機会損失も含めて影響を算出できます。そうした影響を数値として示せれば、「予防や改善への投資が、将来的な損失をどれだけ抑制するのか」を説明できるようになります。
この構造を経営と共有できれば、基盤整備や運用改善は単なるコスト削減ではなく、利益の最大化につながる取り組みとして位置づけられるんです。
もちろん、リスクを精密に数値化するのは容易ではありません。その前提として、監視データや運用ログ、障害履歴といった基礎情報が整備されている必要があります。現在は、そのデータ取得と分析基盤の強化に注力しています。
菱
クラウドシフトによって、これまで分断されていた設計思想や役割を一つの枠組みで整理できるようになります。その結果、可視化や標準化といった運用プロセスの整備にも着手しやすくなり、品質やスピードの向上にもつながります。
そして、インフラの価値を最大化するのは「運用の在り方」だと考えています。基盤を整えることはあくまでスタート地点であり、そのうえでどれだけ改善を積み重ね、価値へと転換していけるかが重要です。
構造が整理されつつある今、次の段階として運用の高度化に向けた取り組みを本格化させています。(後編へ続く)

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=長坂佳宣(PalmTrees)
※所属組織および取材内容は2026年3月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年3月時点での内容です。
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STRATEGY
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