PROJECT
【前編】“止めない”から“価値を生む”へ——エラーバジェットがつなぐ、次世代ネットワーク戦略と運用変革

パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部 ビジネスコアインフラ部
ネットワークインフラ室
兼 セキュアアクセスインフラ部
拠点ネットワーク室
クロスディビジョンマネージャー
2001年よりインフラエンジニアとして金融、ゲーム、モバイル、広告、教育など多様な事業ドメインを経験。その後、インフラ企画や運用改善に加え、エンジニア組織の活性化、人事制度の立案にも携わる。2022年にパーソルホールディングスへ入社し、ネットワーク基盤の再設計およびクラウドシフトを推進。2026年より管掌範囲を拡大しネットワーク組織を横断的に統括。
パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部 ビジネスコアインフラ部
ネットワークインフラ室
シニアコンサルタント
2011年から飲食業・小売業の経営マネジメントに従事し、2018年よりIT業界へ転身。インフラエンジニアとして提案から設計・構築・保守・運用まで幅広く経験する。その後は運用コンサルタントとして課題分析や改善設計を担い、現在はパーソルホールディングスでプロダクトオーナーとして運用の高度化をリードしている。
前編では、グループIT本部でネットワーク領域を統括する菱と、運用改善をリードする藤原に、クラウドシフトの現在地とネットワーク再設計の背景にある思想について語っていただきました。
後編となる今回は、その土台のうえで進む「運用」の変革に焦点を当てます。属人の脱却、徹底的な可視化、そして意思決定を変えるエラーバジェットという考え方を通して、運用を単なる維持活動ではなく、価値を生み出す活動へと転換するための具体的な挑戦に迫ります。
藤原
私の役割は、運用の見直しと改善、そして将来を見据えたプロジェクトの立案です。
入社当時のネットワークインフラ室では、旧来のネットワーク環境やDNSなど、環境ごとに運用が分断されていました。さらに、外部パートナーとの連携や専門領域ごとの分業によって、どうしても知識や判断が個人に蓄積され、属人化しやすい状況にあったんです。
そこでまず掲げたのが、「属人の脱却」です。個人に紐づく運用を減らすことを目的としたプロジェクトを立ち上げ、ポリシーや手順の標準化を進めました。このプロジェクトは1月に完了し、新しい運用モデルとして稼働しています。
藤原
現在は、昨年10月に立ち上げたDNSマネジメントチームのプロダクトオーナーを務めています。このチームは、私が主導してきた運用改善プロジェクトの成果をもとに立ち上げた、いわば新しい運用モデルの実装部隊です。
その中でも特に注力しているのは、運用モデルの横展開です。ただ手順を共有するのではなく、背景や考え方から伝えることを重視しています。その一環として勉強会を開催し、成功事例や改善プロセスなども展開しながら、再現可能な形で組織全体へと広げています。
藤原
もっとも大切なのは、ヒト・モノ・カネといった経営資源の徹底的な可視化です。実態が見えていなければ、最適な判断はできません。誰がどの業務にどれだけの時間を使っているのか、どこにコストがかかっているのかを一つひとつ洗い出す必要があります。
この工程は非常に手間がかかるため、多くの人が後回しにしてしまいがちです。しかし、ここを曖昧にしたままでは、改善の優先順位も投資判断も感覚的になってしまいます。また、限られたリソースの中で、すべてを必要だと捉えてしまえば、無限に人員とコストが必要になります。
全体を俯瞰し、何に集中し、何を手放すのかを決める。可視化はそのための土台であり、全体最適を実現するための第一歩だと考えています。

菱
以前のインタビューでもお話した、Googleが提唱するシステム運用の方法論「SRE(Site Reliability Engineering)」の中にあるエラーバジェットを取り入れた運用を目指しています。
日本では「システムは止めてはいけないもの」という前提が強くあります。しかし、エラーバジェット運用は、視点を少しだけ変えます。システムの稼働率を99.9%保証する代わりに、残りの0.1%を技術的負債の解消や新たな施策の時間に充てるという発想です。
私は、この考え方を単なる運用手法ではなく、組織の意思決定を変える文化として根づかせたいと思っています。そして、パーソルホールディングスなら、それを実現できると感じています。
菱
技術を単なるコストではなく、「将来の競争力を形づくる資産」として捉える経営の姿勢があるからです。短期的な収支だけを追うのではなく、中長期でどのような価値を生み出すのかを見据えた意思決定ができる。その柔軟さと覚悟がある組織だからこそ、エラーバジェットのような考え方も実践に移せると感じています。
藤原
私も、菱さんのエラーバジェットに関する発信を見て、「この会社なら挑戦できる」という可能性を強く感じました。自由に思想を語れるということは、それを受け止め、議論できる環境があるということでもあります。
運用に長く携わってきた私にとって、エラーバジェット運用の実現は夢でもあります。ただ安定を守るのではなく、組織の競争力を高める活動へと変えていく。その価値が正しく評価される世界を実現したいと、本気で思っています。
藤原
運用は安定していることが当たり前で、評価されにくい領域だと思われがちです。その背景には、日々の改善や未然防止の努力が数字として表に出にくく、成果が見えにくいという構造があります。その結果、運用はコストセンターとして認識されやすくなってしまうのです。
しかし、すべてのデータを可視化し、経営側が見ている指標と運用側の指標が一致すれば、コストセンターからプロフィットセンターになり得ると考えています。
菱
その背景には、「運用」と「保守」が混同されていることもあると思います。実際には、保守は約束された水準を守り、品質を落とさないこと。運用はより良い状態へと改善を積み重ねていくことに価値があります。
運用は単なる維持活動ではなく、組織の競争力を高めるための取り組みなんです。私はそこに大きな可能性を感じています。

藤原
現場の実感と経営の意思決定のあいだには、どうしてもギャップがあります。現場は日々の負荷や課題を肌で感じていますが、そのままでは経営判断の材料にはなりません。
そこで、どの業務にどれだけの工数がかかっているのか、それが年間でどれだけのコストになるのかを算出し、改善した場合の効果もあわせて整理します。単に「大変です」と伝えるのではなく、「この施策に投資すれば、これだけのリターンが見込める」と示す。その構造を整えることが重要なんです。
実際の運用改善プロジェクトでは、改善効果をQCD(品質・コスト・納期)の観点で整理することに徹底的にこだわりました。そうした積み重ねがあって初めて、運用はコストではなく投資対象として議論できるようになります。
可視化は目的ではありません。経営と現場が同じ地図を持ち、同じ基準で意思決定できる状態をつくるための「土台」なんです。
藤原
今回の取り組みは、既存の運用を部分的に手直しするものではなく、前提から再設計するものでした。
これまで現場で積み重ねてきた工夫や努力は、間違いなく組織を支えてきました。だからこそ、それを見直すという提案は、ときに「これまでを否定された」と受け止められても不思議ではありません。その重みは、常に意識していました。
しかし、個別最適の積み重ねは、時間とともに複雑さを増していきます。一度立ち止まり、構造から整理し直すことで、結果的に持続可能な運用になり、将来的な負荷も下げられると考えました。
変化にはエネルギーが必要ですし、摩擦も生まれます。それでも最後までやり切れたのは、上層部が短期的な負担だけでなく、中長期の価値を見据えて判断してくれたからです。その意思決定の積み重ねこそが、パーソルホールディングスの強さだと感じています。

藤原
これまで運用は、何か問題が起きれば減点されるという評価構造の中に置かれがちでした。しかし、本来の運用は、改善の積み重ねであり、価値を生み出す活動です。
可視化によって改善の効果を数字で示し、運用の努力が経営指標とつながる構造を整えれば、評価の軸は必ず変わります。そして、この転換は特別な人だけが実現できるものではなく、正しいプロセスを踏めば誰でも再現できるものです。
具体的な成功事例やプロセスを発信し続けることで、気軽に改善の一歩を踏める環境をつくりたいと考えています。その積み重ねの先に、運用を担う一人ひとりが自らの仕事に誇りを持てる未来があると信じています。
菱
私の人生のテーマは「運用価値向上」と「組織活性」の二つです。運用の価値をエンジニアリングの力で高めること。そして、その価値を生み出している人たちに正当な評価として還元することです。これらは私が揺るぎなく抱き続けている信念です。
運用の価値を上げるためには、これまでお伝えしてきた「変化」が伴います。ただ、変化は起きているだけでは意味を持ちません。そのため、「変化を魅せる」という言葉を掲げ、運用の変化を楽しみながら、きちんと価値に結びつけられる環境を提供していきます。
そして、その変化の先にこそ、目指しているエラーバジェット運用があります。既存の常識に疑問を持ち、より良い構造に変えていく。固定観念に抗いながら、個人の価値を高め、結果として組織全体の価値も引き上げていきたいと思います。
菱
私たちがいま担っているのは、いわばインフラを通じて組織の価値を高めるコンサルティングです。仮説を立て、データを集め、構造を読み解き、課題を言語化する。そして改善策を設計し、その成果を数字で示す。その一連のプロセスを通じて、構造化力や企画力といった、エンジニアとしての付加価値も磨かれていきます。
運用は守りの仕事ではありません。改善を積み重ねることで、事業のスピードを上げ、挑戦の余白を生み出す「攻め」の活動です。そして、その価値を正当に評価される構造をつくることも、私の役割だと捉えています。
運用の可能性を本気で広げたい方、エンジニアとして付加価値を手にしたい方と、これまでにない価値をつくっていきたいと思います。
取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=長坂佳宣(PalmTrees)
※所属組織および取材内容は2026年3月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年3月時点での内容です。
1
STRATEGY
【後編】未来の“はたらく”を変革する——パーソルホールディングス×パーソルクロステクノロジー 両本部長が語る、AI戦略と共創の最前線
2
PROJECT
わずか10カ月で開発・導入を実現。データドリブンなタレントマネジメント基盤を形にした舞台裏
3
PROJECT
課題の本質をとらえ、伴走型の支援を―コンサルティング×テクノロジーで拓く、地域共創の最前線
4
PROJECT
生成AIによって「女性のはたらき方」が変わり始めた―クラフター小島氏×パーソルテンプスタッフ朝比奈対談
5
PROJECT
30を超える基幹システムを“無風”でクラウドに。パーソルテンプスタッフが挑むアプリリフト