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【登壇レポート】ITmedia デジタル戦略EXPO 2024冬「伊藤羊一氏×パーソルHD朝比奈ゆり子氏×ベネッセHD水上宙士氏と語る“ワンチーム”で挑むデジタル変革」

2024年1月30日~2月25日に開催の、各企業が抱える“デジタル戦略課題” を職種・業種・ITトレンド――さまざまな角度から解決するオンライン展示会「ITmedia デジタル戦略EXPO 2024冬」に、パーソルホールディングス株式会社 グループデジタル変革推進本部 本部長 朝比奈 ゆり子が登壇しました。 

「伊藤羊一氏×パーソルHD朝比奈ゆり子氏×ベネッセHD水上宙士氏と語る“ワンチーム”で挑むデジタル変革」と題し、DX実現に向けて経営層・IT部門・事業部門が協調し、部門横断でデジタル変革を推進する方法を議論しました。パーソル、ベネッセ様からは各社における具体的なデジタル戦略と取り組み内容を、伊藤様はリーダーシップやチーム作りの有識者として広く意見を発表しました。モデレーターはITmediaビジネスオンライン編集部の西田様が務めました。 

今回は、イベントでお話しした内容を一部抜粋・編集の上でご紹介します。 

「ITmedia デジタル戦略EXPO 2024冬」は2024年1月30日~2月25日の期間中、オンラインにて開催しています。視聴には事前登録(無料)が必要です。詳細はこちらをご覧ください。 

パーソルグループ概要 https://www.persol-group.co.jp/
パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。

人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、BPOや設計・開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開するほか、新領域における事業の探索・創造にも取り組み、アセスメントリクルーティングプラットフォーム「ミイダス」や、スキマバイトアプリ「シェアフル」などのサービスも提供しています。これらサービスを社員数約6万7千人、国内グループ会社38社、海外グループ会社106社(※2024年2月時点)が支え、はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」 を実感できる社会を創造します。

ベネッセ会社概要 https://www.benesse.co.jp/
ベネッセグループは、1955年福武書店の創業に始まり、国内教育、グローバル教育、介護・保育、生活といった分野で人のライフステージに沿った事業を展開しています。その根幹に共通してあるのは、企業哲学「Benesse(=よく生きる)」です。

夢や理想の実現に向かって歩み続けるお客さまに寄りそい、一人ひとりの成長や課題解決を生涯にわたって応援していくことが「Benesse=よく生きる(well-being)」であり、ベネッセが時代を超えてずっと大切にし、追求し続けてきた不変の企業哲学です。

この企業哲学に共感する社員が高い志を持ち、商品サービスのご提供に取り組んでいます。

伊藤羊一氏×パーソルHD朝比奈ゆり子氏×ベネッセHD水上宙士氏と語る“ワンチーム”で挑むデジタル変革

―まずはDXとは何か、改めてご説明をお願いします。

伊藤:DXの流れには3ステップあり、最初は自動化/効率化と呼ばれる「デジタイゼーション」です。これはDXとは呼ばず、デジタル化です。デジタイゼーションによって蓄積したデータを活用してビジネスモデルを変革すると「デジタルトランスフォーメーション(DX)」となります。これは経営課題そのものですので、IT部門に任せて済む取り組みではありません。

―そこで、DX先進企業であるパーソルさんベネッセさんにまず伺いたいテーマは「デジタル変革は誰がどこから手を付けるのか?」です。朝比奈さんも水上さんもおふたりご自身が音頭を取るお立場で活動されているかと思いますので、取り組みをお話しください。

朝比奈:パーソルグループは2023年度に中期経営計画2026を発表し、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を達成するために「“はたらくWell-being”創造カンパニー」になることを掲げました。また、経営の方向性として「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化と定め、経営も一体となってコミットすることを定めています。

私たちはまずはテクノロジー、デジタルに関わる人・組織を増強し、それによってパーソルではたらく社員体験「EX」を向上、並行して法人・個人のお客さまの体験をテクノロジーによってよくする「CX」の向上という順番で取り組んでいます。

パーソルグループを支えるさまざまな事業のDXは、グループ各社ごとのDX・IT部門が担っています。その横ぐしを通す取り組み、またグループ全体で活用する共通システムの開発はホールディングスがリードする形で、グループ各社と密にコミュニケーションを取りながら、一緒に進めるという推進体制をとっています。

横ぐしを通す組織については、ホールディングス内にテクノロジー人材を集めたCoE(Center of Excellence)組織を作りグループ各社の事業にアサインしています。

DXには正解がありません。たった一つの施策で一発逆転ホームランは打てませんので、ホールディングスからテクノロジー人材をアサインすることで、まずは打席に立つ回数を増やす、現場が持つアイデアを具体化する数を増やすことで小さな成功を積み重ねていこうと考えています。

水上:ベネッセグループには、妊娠出産幼児~シニアまで幅広いステークホルダーがいます。現代は生徒が一人一台のタブレット端末を持つ時代なので、「たまひよ」、「こどもちゃれんじ」、「進研ゼミ」などの既存サービスに加え、新たにソフトウェアを提供するサービスなども提供しています。

以前は各サービスが事業部として活動し、デジタル組織も事業部内にありました。しかしサイロ化という課題があったので、私が所属しているDigital Innovation Partnersに機能を統合する再編成に着手しました。現在は、Digital Innovation Partnersに所属する800人ほどのテクノロジー人材が各事業現場に入り込み、DX案件やデジタル化をリードする形で事業部と一緒に変革を進める体制をとっています。DXの進み具合や課題は、事業部門によって全く異なっているというのがベネッセグループの特徴です。

組織立ち上げまでの経緯をお話ししますと、2018年に外からテクノロジー人材を招聘し、また中途採用によって出島的な「グループデジタル本部」を発足しました。しかし、事業ごとにDXの課題が全然違う中で、事業に入り込むことができず、入り込めていない人がDXを推進しようとしてもうまく進めることができませんでした。

そこで2019年に「人材育成に特化する」組織を作り1年かけてDXを推進するテクノロジー人材を育成し、組織を立て直していきました。教育・介護・生活、海外事業など事業ごとにビジネスモデルが異なりますので、各事業フェーズに合わせてDX推進を実施することになりました。DX推進部門の人たちは社内コンサル的に事業部門の中に入り、事業部門の人たちと一緒に課題解決に取り組みます。事業部門の組織状況によって人数やスキルセットを変えていきながら、事業フェーズに合わせてDX推進しています。

並行して、たとえばテクノロジー人材の採用・育成、IT戦略、ガバナンス、インフラ刷新、セキュリティ対策など横断でやらなければならない「組織のDX能力向上」にも取り組みました。「事業フェーズに合わせたDX推進」と「組織のDX能力向上」という2軸を同時並行で進めることで、スパイラルアップしてベネッセグループの事業変革を加速させています。

―ここから次のテーマ「部門間における軋轢や衝突をどのように解消して行ったらいいのか?」についてお話ししていきます。

伊藤:ひとつの企業の取り組みではなく、大きな話をします。この図は過去40年間のGDPの遷移図です。

青がアメリカ、赤の点線が中国、日本はグレーです。日本は1995年まではアメリカと同じペースで成長していました。1995年にWindows 95が出た後、アメリカはそのまま成長を続けていますが、日本は成長が止まっています。1995年以降もさまざまな会社が生まれているアメリカと日本の間にあるのは「アントレプレナーシップ」の差です。自分の思いを自由に表現し形にしていったのがアメリカの会社で、そうでなかったのが日本の会社なのではないかと思います。

1995年を境に、モノづくりの時代から、サービスも作る時代になりました。WhatからWhyへ。大量生産(量)から意味(質)へ。それまでは車、冷蔵庫、クーラーなどは、正解の商品を大量に作ることが大事でしたが、今は全く新しいものを創造する、抜本的に変革することが求められるようになったのです。

その中で、マネジメントも変化しました。これまでは正解があるので教えて育てる、上意下達のコミュニケーションの中、メンバー一人ひとりはいろいろな意見を持つことよりも「早く正確に」を求められていました。それが、フラットな組織でそれぞれが異なる意見を持つことを求められるようになりました。一人ひとりが自分の思いを表現することを重視されるため、コンフリクトは当然起きます。ではどのように解決するか――それが問題です。

水上:私のチームでは、反対意見も含めて発言しやすい環境を作っています。コンフリクトはある方が健全だと思います。自分たちがこれまでやってきた仕事とは違うやり方をする人たちが入って来た時に、建設的に議論ができるか、そういう環境を作ることができるか、ということが大事だと思います。私たちの組織が社内コンサルを行うときもそうですが、小さくても自分たちの仕事が良くなったという実感を現場の人が持てればどんどん変わっていくものです。小さくても成功体験を作るのが大事だと思います。

朝比奈:おふたりのおっしゃる通りだと思います。小さな成功体験から思いに共感をしてもらうことで仲間を増やします。それを積み重ねて大きなうねりにしていきます。さまざまな考え方がある中で一つの道を選び取っていく体験を繰り返すうちに仲間が増えますよね。

伊藤:おふたりの話を聞いていると、両社ではフラットにディスカッションする雰囲気がしっかり醸成できていると感じました。それこそがコンフリクトの解消には大事です。ヒエラルキー対ヒエラルキーの構図になったら腹を割って話せないですよね。現場と本部の推進組織が一体となるためには言いたいことを言い合えないとダメです。

―現在ご両社は現場において“よそ者”感はないんですか?

水上:私たちの組織は現在800人くらいの規模になり、事業に入っていってもよそ者感はほぼなくなりました。立ち上げた2020年当時は6人くらいでスタートしていて、事業メンバーに信頼してもらうには成果を出すしかありませんでした。成果を出しているからこちらの意見も聞いてくれるし、いい関係になりました。

朝比奈:弊社のIT・DX部門では、よそ者感というのは一部まだ残っているところはあるかもしれませんが、ほぼなくなってきていると思います。2020年にホールディングスからアジャイル化を進めてきました。成果を出す組織にする手前にフラットな組織を作り、社員一人ひとりが自分ゴト化できることを促しています。マーケットをわかっているのは現場なので、現場が主体となってチームを活性化することを大切にしています。

―それでは最後のテーマです。「ワンチームになるためにどうしたらいいか?」チーム作りに重要な視点を教えてください。

伊藤:マネジメントやリーダーシップとは、「チームをゴールに導くこと」です。ゴール設定、プロセスを明確にする、心理的安全性の高い環境を作る、その上で、個人の才能と情熱を解き放つ。そうすればチームは一つになり、ゴールへ向かって進みます。

これは難しいことですが、チームは人の集団なのでコミュニケーションで解決できますし、コミュニケーションでこそ解決しなければならないんです。

コミュニケーションの取り方は2種類あり、「1:N」と「1:1×N」です。「1:N」はリーダーとして進むべき方向性をプレゼンテーションすること。「1:1×N」は1on1ミーティング(以下1on1)など1:1のコミュニケーションをN人分することで、個人の思いをチューニングすることです。課題を解決するためにも、個人のモチベーションを上げるためにも、現場の声を聞くしかないんです。聞く姿勢はものすごく大事です。

朝比奈:「1:N」も「1:1」も両方大事です。特に「1:1」の重要度が高いと考えていますので、1on1を頻繁にやっています。直属の上司とやるケースが多いですが、私は「1skip1」も歓迎と言っています。新入社員や子会社のメンバーとの1on1ですね。直属の上司のみとのコミュニケーションだと行き詰まるときが出てくるので、多角的にパスを出せるようにして、直属の上司には言いにくいことも発散できる場を作っています。

水上:私も1on1は頻繁に行います。直属の部下ともやりますし、より現場に近いメンバーも含めて定期的に実施しています。メンバーから1on1をしたいと言ってもらえるのが理想です。1つポイントとして思っているのは「相談してよかった」とプラスに思ってもらえる時間を必ず提供することです。1on1が無駄だったと思われないように、その人が困っていることは何か、どうしたらいいかというフィードバックを明確にするようにしています。

伊藤:DXの場合、デジタルという要素が今までの仕事のスタイルと違っていて新しいので、変革をしていく上でのハードルは結構高いです。また、既存の完成しているものをある意味で壊して進んでいかなければならないという恐怖感もあります。その中で求められるのはリーダーシップ、マネジメントそのものだと思います。マネージャーはよく管理職と言われますが、違います。「マネージする」とは「何とかする」ということです。話を聞いてその人にとっての解決策を提示することなんです。

もう一つ、おふたりが1skip1と言っていましたが、2段階下のレイヤーの人と話すと、中間のマネージャーが嫌がることがあります。しかし、その感覚は絶対になくした方がいいです。コミュニケーションはぐちゃぐちゃ、でも意思決定は飛ばさずにライン通りにすることが大事です。

朝比奈:私は最初に、「私もやるので皆さんも毎回私を通さずに自由にやっていいよ」と宣言をしています。小さくてもいいから仲間を増やし、越境して広げていくことは重要です。決められたチームだけでは解決ができないならば解決できるチームを作る。そのために仲間を増やす。また、自分たちの役割をここだと限定せず、もっと染み出ていく、非連続進んでいくことも大切です。

水上:自分たちの範囲を決めないようにしています。DXは手段であり、目的は事業の売り上げを伸ばすことです。そのための手段としてデジタルを活用していこう、とうことなので、これはちょっとDXっぽくないからやらない、などと決めるのではなく、制限を持たずに目的のためにできることはなんでもやりますという風土や前向きに取り組むことが大事だと思います。

―本日はデジタル変革とは経営をどう進化させ発展させるか考えることである、というおさらいから始まり、全社でワンチームになるには小さくてもいいので同じ目標に共感できる仲間を増やし、さらに越境していくことが重要であるという視点が得られました。

伊藤さん、朝比奈さん、水上さん、ありがとうございました。

(2024年1月時点の情報です。)

伊藤羊一Yoichi Ito
武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部
学部長
Musashino Valley 代表
LINEヤフーアカデミア 学長
Voicyパーソナリティ
アントレプレナーシップを抱いて活動する次世代リーダーを育成するスペシャリスト。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長、スタートアップスタジオ「Musashino Valley」代表のほか、LINEヤフーアカデミアの学長も務める。代表著作に「1分で話せ」。
朝比奈ゆり子Yuriko Asahina
パーソルホールディングス株式会社
グループデジタル変革推進本部
本部長
外資系プロジェクトマネジメントソリューションベンダーやITセキュリティ会社を経て、2014年、パーソルキャリア入社。2018年、パーソルホールディングスへ転籍し、新会社の法人設立に従事。2020年、グループデジタル変革推進本部 ビジネスITアーキテクト部 部長としてコーポレートIT部門の組織変革を推進。2021年より現職。
水上宙士Hiroshi Mizukami
株式会社ベネッセホールディングス
Digital Innovation Partners
副本部長
進研ゼミのデジタルマーケ、学校向けデジタル商品開発、進研ゼミのブランドマーケティングを経て、2020年からグループデジタル本部(現Digital Innovation Partners)に 異動し、社内のDXを推進するDXコンサルティング部にて部長を担当。 2023年10月より現職。株式会社beBitの社外取締役も担当。
モデレーター:ITmediaビジネスオンライン編集部 西田 めぐみ 氏

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