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パーソルホールディングス株式会社 執行役員 CIO/CAIO

AIを起点に事業と組織を再構築――人材サービス事業における価値を進化させる

2023年にスタートした中期経営計画のもと、DXを軸に事業変革を推進してきたパーソルホールディングス。この3年間で取り組みは着実に前進した一方、AIの進展が想定を上回るスピードで進み、事業や経営を取り巻く前提にも変化が生まれています。

今回は、グループ全体のテクノロジー戦略を担う執行役員CIO/CAIOの柘植に、これまでの振り返りとともに、AIを起点に事業と組織をどう再構築していくのか、その具体像について話を聞きました。

計画を着実に推進しながらも、AIが成長の前提を問い直した3年間

まずは、中期経営計画2026を推進してきたこの3年間について、どのように振り返り、評価されていますか?

中期経営計画2026では、事業変革のテーマにDXを掲げ、「コア事業の価値向上」「新たな価値創造」「環境のデジタル化」「テクノロジー人材・組織の進化」という4つの軸で取り組みを進めてきました。

中期経営計画2026 テクノロジー戦略方針

特に「コア事業の価値向上」については、事業のDXを軸に人材強化を進め、さまざまな施策を推進してきました。また、「新たな価値創造」の領域では、従業員によるAI活用を起点に、ツールの導入だけでなく、社内コミュニティの形成や学習機会の提供を通じて、先進的な取り組みができたと捉えています。さらに、「環境のデジタル化」は財務、人事、総務領域における基幹システムの刷新を行い、「テクノロジー人材・組織の進化」においては、CoE(Center of Excellence)を約150名規模まで拡大し、変革を支える基盤を整備してきました。

全体としては、AIの進展により、当初想定していなかった見直しが求められる場面もありましたが、その都度、優先順位を見極めながら柔軟に軌道修正し、計画を着実に前進させられた3年間だと評価しています。

AIの進展は想定以上でしたか?

そうですね。中期経営計画の検討段階では、AIはまだ一部で議論され始めた程度の位置づけでした。しかし、開始から1年ほどで急速に注目が高まり、その後も進化のスピードが加速しています。特に2年目には、AIエージェントのような新しい概念も登場し、単なる業務効率化にとどまらず、業務の進め方や人の役割そのものに影響を与える段階に入っています。

結果として、中期経営計画2026の策定時と実行フェーズでは、テクノロジーに対する前提が大きく変わりました。環境変化を前提に、計画を柔軟に見直していく必要性を強く認識する契機になったと考えています。

柘植さん自身は、この3年間をどのように受け止めていますか?

非連続な環境変化に対応しながらも、計画通りに進められた一方、AIの進展によって前提となる環境が大きく変化している以上、その成果がすべて次につながるとは限らない難しさがあると捉えています。また、企業価値という観点では、テクノロジーの取り組みを通じてより大きな変革につなげていく必要がある中、現時点ではまだ道半ばであるという認識です。

とはいえ、これまで整備してきた基盤や組織、意思決定のあり方の変化は、今後の変革を加速させるための重要な土台になります。ここからそれらをどのように成果へと結びつけていくかが、次のフェーズにおける重要なテーマです。

AIを中核に据え、事業変革を加速させる

環境の不確実性が高まる中、具体的な取り組みはすでに動き始めていますか?

中期経営計画FY28では、従来のように3年後の目標を固定するのではなく、毎年目標を見直していくローリング方式へと移行します。背景にあるのは、この数年でテクノロジーの進化スピードが大きく変わったことです。特にAIの領域は変化が非常に速く、3年先の前提自体が短期間で変わってしまう状況にあります。

こうした状況を踏まえ、見直しを前提とした仕組みに切り替え、環境変化に応じて優先順位や投資配分を柔軟に調整していく経営へと転換します。これにより、中期的な視点で合理的な判断を積み重ねていけると考えています。

中期経営計画FY28では、どのようなテクノロジー戦略を掲げているのでしょうか?

中期経営計画FY28では、引き続き経営の方向性として「テクノロジードリブンの人材サービス企業」が掲げられています。その上での基本方針は、「AIを起点とした収益性向上と事業モデル転換」です。この達成に向け、テクノロジー戦略ではAIを中核とした事業・業務設計、すなわちAIファーストな事業モデルへの転換を中核として掲げています。

中期経営計画FY28 テクノロジー戦略

重要テーマとして「AI×Business」、「AI×Work」、「AI×Data」を重要テーマとして掲げ、テーマ推進に即した形でテクノロジー組織の再編を行いました。

具体的にはどの点を変更されたのでしょうか?

主な変更は3点で、いずれもAIを前提に実行力を高める観点で整理しています。

まず、グループAI・DX本部の名称を「グループAI本部」に変更しました。これは、「AIファーストな事業モデル転換」をリードする中核組織としての「AI×Business」領域を牽引するという位置づけを明確にするためのものです。

次に「AI×Work」の領域を担う組織として、「グループWorkStyle本部」を新設しました。グループ全体の共通業務のAI化を通じて、はたらき方そのものを変革していく役割を担います。

なぜこのタイミングだったのでしょうか?

このタイミングで組織体制を見直したのは、AIを前提とした経営へと本格的にシフトするためです。これまで事業変革のテーマとしてDXを掲げてきましたが、実態としてはすでにAIを中心とした動きへと変化していました。その結果、DXとAIの区分が曖昧になったため、実態に合わせて組織全体をAI前提で再定義しました。

また、単なる名称変更ではなく、会社としてどこにフォーカスし、どの領域に優先的に取り組むのかという経営の意思を明確にする狙いもあります。組織構造にその意思を反映させることで、変革の実行力を高めていきたいと考えています。

各組織に期待している役割と、全体として実現したいことを教えてください。

全体としては、AIを活用して事業と従業員のはたらき方を変革し、生産性と収益性を高めていくことが大きな方向性です。

その中でグループAI本部は、各事業の変革を具体的に推進する組織として、ビジネスモデルや業務プロセスを見直しながら、AIを前提とした形へ進化させていきます。また、グループWorkStyle本部は、共通業務のAI化を通じて業務の進め方を変え、生産性向上につなげます。そしてグループIT本部は、AIを迅速に活用できる環境整備と、セキュリティやガバナンスの強化を通じて、変革を支える基盤を担います。

これらが連動することで、AIを軸にした変革を実現し、グループ全体の競争力を高めていきたいと考えています。

人とAIの役割を再構築し、事業成果へと接続する人材サービス事業のモデル転換

組織変更にあわせて、CDOからCAIOに呼称を変更された意図についても教えてください。

AIを中核に据えた組織へと変更することで、従来のCDOという枠組みでは実態と整合しなくなります。また、グループ全体としてAIの取り組みがより重要になる中、誰がその推進に責任を持つのかを明確にする必要がありました。そうした背景からCAIOという呼称に変更し、会社としての方向性と責任の所在を明確にしています。

一方で、役割そのものが大きく変わるわけではありません。すでに取り組み自体はAIを中心とした動きへシフトしており、その実態に合わせて呼称と責任範囲を整理しました。

AIを活用しながら、どの領域を優先的に進めていく考えでしょうか?

まず優先すべきは「事業のAI化」です。人材派遣やアウトソーシング事業、BPO、海外事業も含め、人材サービス事業全体をAI前提で捉え直し、構造を見直していく必要があります。

これまで人が担ってきた業務にAIを組み合わせ、より高い付加価値を生み出せる事業へと進化させていく。結果として、生産性の向上だけでなく、提供できる価値の質そのものを引き上げることにつながると考えています。そのため、単なる業務改善にとどめるのではなく、事業成果にどう結びつけるかという観点でAI投資を行っていきます。

そうした変革を実現するために、何が重要だと捉えていますか?

これまでの人材サービス事業では、多くの業務を人が担い、その中で付加価値を生み出してきました。しかし、現在はAIの進化によって、業務の構造そのものが見直される局面に入っています。

その中で重要になるのは、人にしかできない領域にフォーカスし、その価値を高めていくことです。そのため、AIに任せる部分と、人が担うべき部分を切り分けた上で、それぞれを最適化していく必要があります。そのため、今年度はAIによって効率化されるシステマティックな領域と、人の強みを発揮する領域の両者をどう組み合わせることで、全体としての価値を最大化できるかが重要なテーマになります。

AIとともに進化する「はたらく」のかたち。価値を発揮し続けられる社会の実現へ

AIの進展によって、人材サービス事業の提供価値はどのように変わると考えていますか?

人材サービス事業の価値は、主に企業と人をつなぐことにありましたが、今後はその前提自体が変わっていきます。たとえば、これまで複数名の採用で対応していた業務も、人とAIを組み合わせることで、より効率的かつ質の高い形で実現できるケースも増えていくはずです。

そうした中では、課題や業務内容を起点に、AIの活用も組み合わせた最適な手段の提案が求められます。こうした変化に対応し、価値提供のあり方そのものを進化させていくことが、今後の事業成長を左右するテーマになると捉えています。

こうした変化の中で、人に求められる役割はどのように変わっていくのでしょうか?

今後は、人がどの領域で価値を発揮するのかが、これまで以上に問われる時代になっていきます。その中でも重要なのが、課題提起や意思決定といった領域です。課題提起は、それぞれの経験や価値観、文脈にもとづいて行われるものであり、一律の正解はないため人が担うべき役割になります。また、AIは選択肢を提示できますが、最終的にどれを選び、どの方向に進むのかを決めるのは人です。

だからこそ、こうした領域で価値を発揮できるかどうかが、個人としても組織としても競争力の源泉になっていくと考えています。

最後に、今後の「はたらく」のあり方を見据え、パーソルホールディングス、ひいてはパーソルグループとしてどのような価値提供を目指していくのか教えてください。

AIの進展によって、はたらくことのあり方が大きく変わっていきます。これまで当たり前とされてきたものが見直され、一人ひとりが自分の価値や役割を見つめ直す機会も増えていくでしょう。

その中で問われるのは、個人が価値を発揮できる機会をどのように生み出していくかです。AIを活用して生産性を高めると同時に、人が持つ強みを発揮できる領域を広げていくことが、これまで以上に求められます。また、多様な人がそれぞれの形で価値を発揮し続けていくために、学び直しや機会提供といった形で環境を整備していくことも必要です。

そのため私たちは、人材サービス事業を担う企業として、AIと人がそれぞれの特性を活かしながら共存し、多くの人が自分らしくはたらける社会の実現に向けて、テクノロジーを起点に価値提供のあり方そのものを進化させていきます。

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=PalmTree
※所属組織および取材内容は2026年6月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年6月時点での内容です。

Profile

柘植悠太 Yuta Tsuge

パーソルホールディングス株式会社
執行役員 CIO/CAIO

2006年同志社大学を卒業、パーソルキャリア(旧インテリジェンス)に新卒入社。法人営業を経て、事業企画部門にて人材紹介、dodaなどの主要事業の事業戦略を担当。その後、事業におけるデザイン活用・デジタル技術活用に積極的に取り組み、ビジネス・テクノロジー・クリエイティブの三位一体で事業開発に臨む新鋭的な組織編成に注力。時代に先駆けた体制で既存事業・新規事業の開発に挑む。現在はホールディングスで執行役員CIO/CAIOとして、グループ経営およびグループ全体のIT/デジタル化/AI利活用の推進を担当。