人材派遣業の本質に向き合いながら、テクノロジーで“はたらく”を変革する―パーソルテンプスタッフ社長木村×CIO朝比奈対談

Profile

Kazunari Kimura

パーソルテンプスタッフ株式会社
代表取締役社長

1991年4月テンプスタッフ入社。2005年テンプスタッフ・キャリア取締役、06年同社代表取締役社長などを歴任、15年にパナソニック エクセルスタッフ代表取締役副社長、パナソニック エクセルアソシエイツ代表取締役副社長、18年にパーソル パナソニック HRパートナーズ代表取締役社長などを務めた後、21年パーソルテンプスタッフ代表取締役社長に就任。

Yuriko Asahina

パーソルテンプスタッフ株式会社
執行役員 CIO

外資系プロジェクトマネジメントソリューションベンダーにてプロダクト開発、導入を中心に担当。外資系ITセキュリティ会社2社でコーポレートIT部門のリーダーシップを執った後、2014年にパーソルキャリア(旧インテリジェンス)に入社。2021年よりパーソルホールディングス グループデジタル変革推進本部 本部長としてグループ全体のデジタル変革を推進。2025年より現職。
 
2024年度(第42回)IT賞(マネジメント領域)受賞、第9回HRテクノロジー大賞人的資本経営部門優秀賞、JAPAN HR DX AWARDS 2024特別賞 受賞。

“はたらく”の未来を切り拓く。テクノロジーで事業を再構築する意思決定

2025年4月に、テクノロジー体制を見直した背景について教えてください。

木村

今回の組織再編では、テクノロジー領域の変革を本格化させるため、執行役員 CIOとして朝比奈を新たに迎えました。彼女はこれまで、パーソルホールディングスでグループ全体のDXをけん引してきた実績があり、その知見を活かして、パーソルテンプスタッフでもデジタル戦略の再構築を進めています。

もともとパーソルテンプスタッフは、誠実な現場対応を積み重ね、信頼を築いてきた会社です。しかし、その同質性の高さゆえに、既存の価値観に基づいた“内向きの進化”にとどまっている感覚がありました。

これまでの延長線上ではなく、これからの時代に必要な変革を実現するために、あえて異なる視点を持つリーダーを迎え、組織の枠組みそのものを見直す決断をしました。単なる体制変更ではなく、本質的な変革に踏み出す一歩だと考えています。

このタイミングで変革に踏み切った背景を教えてください。

木村

私が社長に就任した2021年は、COVID-19の影響で、「雇用を守る」という一点に集中して事業を推進していました。しかし2023年以降、社会が正常化していく中で、「このままでは時代に取り残されるかもしれない」という感覚を覚えたんです。

もちろん、私たちは「求人に対して人材を届ける」という点では業界でも高い強みを持っていますし、これからも変わらずに価値を提供し続けられると考えています。

ただ、世の中の商流の変化や、個人の価値観の多様化、そして競合環境の変化など、外部環境は大きく動いています。求められる価値も高くなっている今、これまで以上に視野を広げなければ、数年後には周りの変化についていけなくなる可能性もあると、危機感を強く感じたんです。

派遣というはたらき方は、あくまで手段に過ぎません。「何を実現するために派遣を活用するのか」といった、本質的な価値を提供していくためには、私たち自身の“考え方の構造”そのものを見直す必要があると判断しました。

大きな変革を進めるにあたって、社内には戸惑いもあったのではないでしょうか?

木村

社内でハレーションが起きることは覚悟していました。人や組織が変わることに抵抗があるのは当然です。しかし、将来を見据えて進化していくためには、リスクを取ってでも、「変わること」を恐れずに前に進まなければなりません。

これまでの考え方を変え、100点の完成度を追い求めて立ち止まるのではなく、70点でもまずは実行し、試行錯誤を重ねながら前進していく。たとえ失敗しても、そこから学び、やり直せばいいんです。最終的な責任は、私がしっかりと引き受けます。だからこそ、一人ひとりが本気で変革に向き合ってほしいと思います。

変わる覚悟と、変えない信念。”CIO”として描くパーソルテンプスタッフの変革戦略

朝比奈さんは、今回の打診を受けた際、葛藤や迷いはありましたか?

朝比奈

グループ各社を支援する立場だったこともあり、事業の特性や現場の課題について、ある程度理解していました。ただ、実際に話を聞いた時は、正直、驚きました。というのも、パーソルホールディングスで自ら描いた中期経営計画が最終年度を迎えていた時期で、グループ全体の改革を完遂する責任があり、すぐに「やります」とは言えなかったんです。

しかし、木村と対話を重ねる中で、「人材派遣業そのもののあり方を根本から変えていく」という、強い覚悟とビジョンに心を動かされました。

「これは単なるテクノロジー導入ではない、本質的な事業変革だ」―そう感じて、今だからこそ、自分がこの変化を担う意味があると考え、覚悟をもって引き受ける決断をしました。

人材派遣というビジネスの構造は、他の業界と比べてどのような特徴があると感じますか?

朝比奈

改めてこの事業の「難しさ」と「奥深さ」の両方を実感しています。法人・個人を問わず、はたらくタイミングや背景にはさまざまな事情があり、一人ひとりに最適な関わり方や支援の形を見極める必要があります。

そのため、この領域には「これをやれば一気に解決する」といった逆転満塁ホームランのような打ち手はありません。むしろ、小さな仮説と検証を積み重ねながら、継続的に価値を届け続けることが求められます。

以前から「派遣事業は複雑だ」と耳にしてはいたものの、パーソルホールディングスとして支援するのではなく、実際に中に入ってみることで、その理由がはっきりと見えてきました。人材派遣業は就業前後も含めて企業・派遣スタッフとの関係が長く続く、いわば“ライフタイムバリューの長いサプライチェーン型の事業”です。だからこそ、その中に多くのテクノロジーを使った施策を打ち出せる余地があり、チャレンジの幅が非常に広いと感じています。

着任して最初に取り組んだのは、どのようなことでしたか?

朝比奈

まず、「テクノロジーを軸に進化できる組織」へとシフトしていきたいと考えました。パーソルテンプスタッフは、派遣法への対応をはじめ、リスクを限りなくゼロに抑えるカルチャーが根づいており、非常に堅実で安定性のある組織です。

一方で、「変えていくこと」や「挑戦すること」への心理的なハードルが高くなっている。加えて、システム面では、事業成長に応じた拡張や最適化の余地もあると感じました。

そこで私は、「自分たちが意思を持って、大きく変わっていく」ために、従来のマインドセットを一度フラットにしたかったんです。新体制を軸に、新たな視点でマーケットを見据えながら、テクノロジーをどのように活用して事業を進化させるかというビジョンを、丁寧に伝えていくことからスタートしました。

実際の現場を見て、どのような印象を受けましたか?

朝比奈

パーソルテンプスタッフには、企業やユーザーの声に対して全力で応えようとする誠実な姿勢があります。しかし、すべてに応えようとしすぎてしまうあまり、リソースが分散し、本当に届けたい価値が見えにくくなってしまうリスクもあると感じました。価値を最大化していくためにも、「何に応えるか」と同じくらい、「何に応えないか」を見極める視点が重要です。

私たち自身が、ユーザーにもっとも近い立場でマーケットを見据え、その視点から次の一手を考え抜くことが求められています。そのうえで、どのような体験を届けたいのかというストーリーを描き、プロダクトやサービスを戦略的に設計していく必要があるんです。

これまで築いてきた信頼と基盤を大切にしながらも、より洗練されたUI/UXを追求することで、次の進化へと踏み出せると考えています。

現場ではどのような変化が起き始めていますか?

朝比奈

少しずつですが、社員の意識が確実に変わってきています。「これはやりすぎているのでは?」「もっと別のやり方があるのでは?」と、既存のやり方を自ら問い直す動きが出てきています。

変革というと新しい何かを“足す”イメージが強いですが、実は“引く勇気”の方がはるかに難しいんです。そこに自発的に向き合う力を、さらに増やしていきたいですね。

価値を届ける仕組みとオペレーションを進化させる。テクノロジーが変える価値提供

具体的に、現在取り組んでいる施策について教えてください。

朝比奈

大きくは2つの領域に注力しています。

まず1つ目は、「最適なタイミングで価値を届ける仕組みづくり」です。人材派遣業は、マッチングして終わりではなく、就業された後も関係は続いていきます。だからこそ、いかに長く、安心してはたらいてもらえるかを重視しなければなりません。

そのために、仕事紹介やキャリアに関する相談などにデジタルの力を活用し、最適なタイミングで必要な価値を届けられる仕組みを構築していきます。

これは、企業に対しても同様です。ニーズや課題の変化をデータで捉え、先回りして適切な提案や支援を届けることで、つながり続ける関係をテクノロジーで支えていきます。

2つ目は、「オペレーションの最適化」です。人材派遣業は地域性が強く、属人的な業務が発生しやすい領域でもあります。そこにデジタルの力を活用し、オペレーションを数値化することで、より再現性のある業務モデルへと進化させていきます。

省力化を進めることで、私たちが提供するサービスは「より早く」「よりスマートに」進化していけるはずです。新しい派遣のあり方を実現するために、テクノロジーの力を最大限に活かしていきたいと考えています。

テクノロジーの力で、人材派遣業の価値はどのように変わっていくのでしょうか?

木村

これまで私たちは、企業やスタッフと丁寧なコミュニケーションを重ね、信頼関係を築くことを何より大切にしてきました。それは今後も、変わらない強みであり続けます。

そのうえで、これからの時代には、「人が向き合うべき部分」と「テクノロジーで効率化できる部分」を、明確に切り分けていく必要があると考えています。

情報収集やマッチング条件の整理といった工程は、AIやデータを活用することで、スピーディーかつ精度高く処理できます。そうすることで、人が担うべき本質的な支援に、より多くの時間とエネルギーを注ぐことができるようになるんです。

人とテクノロジー、それぞれの強みを掛け合わせながら、「いつでも相談できる」「いつでも紹介が受けられる」存在として、さらに多くの機会を届けていきたいですね。

人が介在する意味を問い直す―テクノロジーと人の力で届ける新しいはたらき方

次の中期経営計画では、どのようなテーマを描いているのでしょうか?

木村

私たちは、単に求人と人材のマッチングを提供する会社ではありません。多様なライフスタイルや価値観に応じて、自分に合った仕事を、スピーディーかつ自由に選べる社会を目指しています。

そのためには、定期的なフォローや情報提供、スキルアップ支援など、多面的に関わりながら、多くの選択肢と機会を届けていくことが不可欠です。

人の手で丁寧に取り組んできた支援をテクノロジーの力でさらに“進化”させ、一人ひとりに最適化された体験を届けることこそ、私たちが果たすべき役割だと考えています。

法人のお客様に対しても、ただ人材を提供するだけではなく、課題解決のパートナーとしてどんな付加価値を生み出せるかが問われる時代です。個人と法人、双方への支援をアップデートし続けることが、結果として事業の広がりにつながると考えています。

そして、こうした未来の姿をかたちにしていくために掲げるのが、次の中期経営計画です。テクノロジーを起点に、事業と現場を変革し、より多くの人に新しいはたらき方の可能性を届けていく―それが、私たちパーソルテンプスタッフが取り組んでいる「DXの本質」です。

テクノロジーが進化する中、「人」にはどんな価値があり、それをどのように活かしていこうと考えていますか?

木村

パーソルテンプスタッフは、人の力で価値を生み出してきた会社です。AIの進化によって、業務の一部は自動化されていきますが、「人が人に寄り添い、相談に乗り、背中を押す」といった支援には、変わらない価値があります。

だからこそ、テクノロジーの力は、そうした「人の介在価値」を高めることにこそ使っていきたいんです。また、人にしかできない本質的な支援に、しっかりと時間とエネルギーを注げる状態をつくることで、自然と仕事のやりがいや楽しさも感じられるようになります。

そうした前向きな空気は、きっとお客様にも伝わっていくはずです。この“好循環”を、テクノロジーを起点にさらに大きく育てていきたいと考えています。

最後に、現在の変革期において、パーソルテンプスタッフではたらく魅力を教えてください。

朝比奈

パーソルテンプスタッフは今、まさに大きな変革のタイミングを迎えています。特にDX領域では、これまで描いてきた構想を、実装していく段階に入りました。

そのため、これから加わる方も含め、「未来を描く力」と「自ら実行していく意志」の両方が強く求められます。実際に手を動かし、サービスや組織を本質から変えていけることが、今のパーソルテンプスタッフではたらく最大の魅力です。

木村

私たちには、長年にわたって築いてきた顧客基盤や社会からの信頼という、大きな資産があります。そして今、それらの強みを土台にしながら、新しい価値を生み出せる環境が整っている状態です。

会社としても、安定や現状維持を良しとするのではなく、変化に向き合い、自ら動き出す姿勢を強く後押ししています。決められたことをこなすのではなく、自ら問いを立て、行動し、既存の枠を超えていく―そのような前向きな姿勢を持つ方と、新しい未来を一緒につくっていきたいですね。

ありがとうございました!

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=PalmTree
※所属組織および取材内容は2025年8月時点の情報です。
※略歴内の情報は2025年4月時点での内容です。

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