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パーソルテンプスタッフ株式会社 執行役員
AIは「派遣ビジネス」をどう変えるのか?パーソルテンプスタッフが新たな中期経営計画で描く「事業変革」の全容

パーソルグループでは、2026年度から新たな中期経営計画が始動しました。これに伴い、グループの中核を担うパーソルテンプスタッフでは組織を再編。企画部門として複数の組織が点在していた状況を見直し、一丸となって戦略立案する体制が整っています。
その事業企画全体を管掌する執行役員の戸澤にインタビューを行い、AI戦略を中心にパーソルテンプスタッフのこれからを聞きました。
「変革の土台はそろった」大胆な組織変更で全方位の戦略を立案する部門が誕生
パーソルテンプスタッフのDX推進本部の本部長に2025年度に着任し、2026年度には執行役員に就任されました。あらためて現在の業務内容についてお聞かせください。
もともとDX推進本部は、テクノロジーで事業変革をするという大きな目的のもと、具体的な戦略を立案することをミッションとして生まれた組織でした。同じ時期には、その戦略をテクノロジーとして実装するテクノロジー本部なども誕生しています。そこからさらに2026年4月の組織再編によって、DX推進本部は発展的解消し、デジタル管掌から事業企画管掌へその一部を移管。強力な戦略立案を実行する組織へと生まれ変わりました。
具体的には、これまで「営業企画」「ビジネス企画」「DX企画」というようにさまざまな企画系部署があったのですが、これらをひとまとめにする形で刷新しています。事業企画管掌という全体の中に9つの部があり、メンバー規模で言うと、DX推進本部単体では80人ほどだったところから一気に600人ほど、子会社も含めると1,000人超まで拡大しました。
かなり大胆な組織変更ですね。
そうですね。今振り返ると、2025年度はデジタルのことだけを考えてしまっていたなと反省しています。もちろんそういうミッションを拝命していたのもありますが、とにかく「ここまではデジタルでできるよね」という未来指向のマインドになりがちで、足元の事業理解について甘い部分がありました。
パーソルテンプスタッフとしてのDX戦略も策定したのですが、よく考えるとDX戦略が単体で存在するのもおかしな話だよなと。本来的には事業戦略の一環として、DX戦略があるべきなんです。あくまでITはビジネスに資するものとしてあるべきで、その意味で今回の組織再編はかなりクリティカルなものだと感じています。
その分、期待感も大きいですね。
つい最近、メンバー採用の資料を作っていたんです。そこで事業企画管掌という枠の中に、さまざまな組織が存在しており、何かの変化を起こそうと思った際には、必要な組織やケイパビリティが揃っていると感じたんです。木村社長からも「戦略のハブとして期待している」という言葉をかけられました。戦略の立案はもちろん、変革を促すための実現まで踏み込んでいきたいなと思いますね。他組織をいかに巻き込むかを含めて、何をやろうかとワクワクしています。
派遣ビジネスは大きな過渡期を迎えている
戸澤さん自身では、どんな役割の変化がありましたか。
大きな変化としては、執行役員に就任しました。また、本部長と兼任していたパーソルホールディングスのCoe(Center of Excellence)組織である、グループAI・DX本部 Staffing部の部長を卒業しました。
立ち位置が変わって意識しているのは、いかに「あるべき姿」を描き、浸透させるかです。
今、私たちが向き合っている派遣というビジネスは大きな過渡期を迎えています。そんな中で勝ち続けるには、全社的に「どうあるべきか」を定めて一丸となり戦っていく必要があると考えています。
とはいえ、もちろん全社員が100%納得して合意する、というのはあまり現実的ではないのも事実です。むしろその方が、多様な意見も出て望ましいくらいかもしれません。であるならば、まずは経営層だけでも同じ方向を向く必要があるだろうという考えで、4月からは役員同士で積極的にコミュニケーションをとるようにしていますね。
テクノロジー本部との役割分担、という点では2025年度から何か変化がありましたか。
もともとの住み分けは、冒頭で触れた通り私たちが企画を行って、テクノロジー本部が開発・運用するという座組でした。この大枠は変わらず、2026年4月以降は「実装」という意味で変化がありました。
DX文脈で何かを始める際、これまでパイロット版のようなものはDX推進本部で作っていたのですが、4月以降はこれを最初から新たな組織となったテクノロジー管掌で作るようにしています。
というのも、言葉を選ばず表現すれば、テクノロジー本部からすると「DX推進本部が中途半端に作ったものの運用を押し付けてくる」という構図になるリスクがあったんです。一方で私たちからすれば、合意形成を終えていざ何か作ろうとしたときに「それは現実的には難しい」と言われると手戻りになってしまうので、上記のような運用をしていました。
これが、場合によっては溝を生んでしまうリスクがあるぞ、と。だったら、こちら側でIT企画のような立ち回りをしていたメンバーをテクノロジー管掌に移管して、もっと早い段階から議論できた方がいいよねということで、役割を一部見直しました。

運用は変わったものの、基本的にやっていることの変化はないと。
そうですね。2025年度にテクノロジー本部と密接に動いたことで、私たちがどんなことを言ってもきっと実現してくれるし、本当に危ないものがあったら止めてくれるという信頼関係も構築できたと勝手ながら考えています。
特に、1年間にわたってテクノロジー本部の本部長として伴走してくださって、私と同じタイミングで執行役員になられた中桐さんとは「同じ世界を見ることができている」感覚があります。中桐さんがテクノロジー本部にいてくれるから、安心して戦略を立てられるなと。
「全体最適」を進め、事業変革を実現していく
2026年度からは新たな中期経営計画が走り出しました。まずは2025年度までに得た手応えなどについてお聞かせください。
前期間は、グループ全体の“戦略的ITリソース”であるCoEとパーソルテンプスタッフの信頼関係を深める時期だったという認識です。
パーソルテンプスタッフとしては、グループの中核として、そして派遣業界のトップランナーという意識もあったはずです。そこから見ると、CoEというのはやっぱり「外部の人」なわけで、警戒感もあったでしょう。その警戒感を解くために、私を含めてCoEが意識していたのはとにかく「現場の困りごと」を解消することでした。
何か困っているようなことがあれば、突入して解決していく。そんな取り組みを地道に重ねたことで、手前味噌ながらCoEに対する信頼感も生まれたなと感じています。一方で、トラブルシューティング的に現場へと入ったことで個別最適が進んでしまった側面もあります。
例えば、派遣スタッフの紹介文をAIによって自動生成する機能を作ったり、コーディネーターと呼ばれるお仕事を紹介するメンバーと派遣スタッフの日程調整を自動化するツールを作ったりしたんです。これらはタスクの効率化という点では大きな効果を発揮しました。しかし、あくまでタスク単位の効率化にとどまっており、本来はプロセスごと変える必要があると考えています。
確かに、タスクだけ置き換えただけでは使っても使わなくても同じですしね。
そうなんです。こうなった背景には、パーソルテンプスタッフならではの文化もあるなと考えていて。
パーソルテンプスタッフが50年以上も派遣ビジネスを手掛けてきた中で、何より重視しているのはお客さまの要望に応えること、そしてそれを人のあたたかみを持って行うことでした。すると、デジタル化には大きく「人間の仕事を代替する」と「人間の仕事をサポートする」の2種類があるのですが、どうしても後者ありきで考えてしまうんですよね。どこまで行っても業務改善や効率化にとどまってしまう。
だからこそ、2026年度からの中期経営計画期間では、改善から変革へ踏み込みビジョンを描く必要があると感じています。
その上で、AIは欠かせない要素です。戸澤さんとしてAIの現在地についてはどうお考えでしょうか。
あくまで私の理解ですが、AIで何ができるか、できないかが見えてきた段階ではないでしょうか。ここからは、そうした「AIにできること」のレベルがどんどん高まっていくようなイメージなのかなと。
重要なのはどの機能を組み合わせればどんなことができるのかを考えることです。ビジネスにおいて“筋が良い組み合わせ”をいかに見つけ、ユースケースを量産できるか。ここに注力していきたいですね。

キーワードは“ワンプラットフォーム”と“半歩先”
テクノロジー活用という点で、現時点のアイデアや既に始まっているプロジェクトがあればお聞かせください。
AIによるマッチングの最適化やエンゲージメントの強化は大きなテーマですね。例えば、今温めているのが“デジタルワンプラットフォーム構想”です。具体的には、派遣スタッフ向けの「テンプアプリ」、派遣先企業向けのプラットフォーム「T-PLA
」、そして社内の営業管理に用いているSFAツールなどを統合できないかと。
現在、派遣スタッフは基本的に案件ベースで、複数社に登録しておいて条件が良いところに就業する形だと思います。要は「どこの派遣サービスでも同じ」状態です。ここから、プラットフォームを統合すれば「パーソルテンプスタッフを使うことにメリットがある」状態に変えられるのではないかと考えていて。
例えば、就業先からのフィードバックが蓄積されることで、派遣スタッフの強みや評価も蓄積されていく。さらに、「チームではたらくのが得意」、「自律的に動くと大きな成果を出す」といった個人の志向性が明確になっていく。そうなるとより希望や強みにフィットしたマッチングはもちろん、派遣スタッフの自己理解とキャリア構築にも寄与できるはずです。
その他、事業変革という点ではいかがでしょうか。
私たちの強みである「事務職」が、AIなどによって過渡期を迎えているのは大きなポイントですね。事務職の派遣ニーズが減るのではという意見もあるでしょうが、逆にチャンスだと考えています。
昨今は企業が対応すべき課題がたくさんあり、例えば経済成長とともに脱炭素へのシフトも進めるGX(グリーントランスフォーメーション)はその1つでしょう。多くの企業ではその対応を進めており、一部ではコンサルタントの力を借りたり、自社の状況をモニタリングするSaaSを導入するなどをしています。
ここに派遣としての商機があります。というのも、ツールは導入するだけで終わりません。必ず、その後にオペレーションが必要です。
こうした領域に専門知識を持った派遣スタッフをご紹介できれば、企業としては、業務の立ち上げにかかる説明や教育の負担を抑えられるというメリットがあります。一般の人から見るとニッチな専門用語を理解していたり、業務の一般的な流れが分かる人に仕事の指示を出す方がストレスは間違いなく少ないですから。派遣スタッフとしても、スキルを習得して高い賃金を得られるでしょうし、私たちとしても売り上げが伸びる三方よしのモデルです。
企業の変革を2歩も3歩も大きく進めるというよりも、“半歩”の部分、いわば”かゆいところに手が届く”。そんなニーズが必ずあるはずだと考えています。

新たな「寄り添い」の形を見つけていきたい
以前、一度パーソルグループの外に出たことで、テクノロジーに投資するマインドや体力のすごさをあらためて感じたとお話しされていました。
特に派遣に関する意気込みは感じますね。競合を見渡しても、ここまで投資して変革する覚悟を示しているところはないのではないでしょうか。
先ほどお話したプラットフォームの統合は、正直かなりのコストが必要になるでしょう。それでも、もともとパーソルグループは派遣が祖業のようなもので売り上げの構成比も大きいです。派遣業界のリーダーという自負もあります。コストの多寡に関係なく、勝てると思えるロジックがあればしっかり投資するマインドがあるのは間違いないです。
成熟市場にも見えますが、まだまだ新たなチャンスは眠っていると。
AIがたくさんの仕事をこなせるようになって「派遣ビジネスの雲行きはどうなの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、世の中にとって必要なはたらき方ですしこれからも残っていくべきだと思います。改善の余地もたくさんありますしね。
パーソルテンプスタッフが50年以上もビジネスをやってきて大事にしているのが「寄り添い」の精神です。今まではこの寄り添いが人にしかできないことでしたが、テクノロジーやAIならではの新しい寄り添いの形もあるはずだと考えています。マッチングもそうですし、キャリアの悩み相談や習得すべきスキルのレコメンデーションも、AIが得意とする領域です。しかも、これを24時間365日やってくれるわけですから。
こうしたテクノロジーによる寄り添いと、人間ならではの寄り添いを組み合わせて派遣ビジネスのトップランナーであり続けるとともに、パーソルグループの中でも目立つ存在になっていきたいです。
ありがとうございました!
取材・文・撮影=合同会社ヒトグラム
※所属組織および取材内容は2026年9月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年9月時点での内容です。
Profile
戸澤和俊 Kazutoshi Tozawa
パーソルテンプスタッフ株式会社
執行役員
柔道整復師からのキャリアチェンジの後、コンサルティングファームや事業会社でシステム導入や組織の立ち上げ、サービス企画などを幅広く経験。2015〜2021年には現パーソルキャリアで基幹システム刷新とDX企画組織の立ち上げを担う。その後、コンサルティングファームにおける経営コンサルティング業務の経験を経て、2024年10月にパーソルホールディングスへ入社。2025年4月にパーソルテンプスタッフのDX推進本部本部長に着任。
2026年4月よりパーソルテンプスタッフに転籍し、同社における中期事業戦略、新規・周辺事業、事業オペレーション、データ・デジタルを活用した事業変革を管掌。