推進とガバナンスの両輪で加速。パーソルグループにおけるAI活用のいま

パーソルグループは、中期経営計画FY28において「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化を掲げています。 その実現に向けた中核となるのが、「AIファーストな事業モデルへの転換」を推進するテクノロジー戦略です。
人材ビジネスに根付く労働集約型のプロセスをAIによってどう変えるのか、さらにAI活用を止めないためのガバナンスをどう設計・運用するかについて、グループAI本部で、AI推進部とAIガバナンス部を統括する鰐部に聞きました。
AI推進部とAIガバナンス部。それぞれの守備範囲
まず、AI推進部とAIガバナンス部、それぞれのミッションを教えてください。
AI推進部は、グループ各社の事業変革に必要なAI施策を企画・実装する部署です。グループ各社が抱える事業課題を捉え、解決に向けた施策を立案し、AIプロダクト開発やプロダクトの活用通じて事業全体の生産性向上や業務プロセスの変革を推進することをミッションとしています。
一方のAIガバナンス部は、グループ全体でAI施策が同時多発的に進む中、パーソルグループ共通のAI利活用方針やガイドラインの整備を担っています。定めたルールに基づき、AIシステムが適切に開発・運用されているかを確認するリスク監査に加え、グループ各社におけるガバナンス体制の構築支援を行うこともAIガバナンス部の使命です。
パーソルグループでは、AIによるビジネス推進をどのように位置づけていますか?
人材ビジネスはこれまで、法人営業によるヒアリングや提案、求職者とのマッチングなど、多くの業務プロセスを人手を介して成り立たせてきました。この「労働集約モデルからの脱却」を重要テーマに掲げ、AIの利活用による業務プロセスの抜本的な効率化を目指しています。
社内の生産性向上に取り組み、顧客価値の向上につながる施策へと展開していく計画です。
AI推進とAIガバナンス、いうなれば「アクセル」役と「ブレーキ」役を兼務されている意味はどこにありますか?
IT分野のセキュリティは、ともすると「守りを固めること」に意識が向きがちですが、実際には、いかに利便性を損なうことなく安全に新たな技術を積極活用できるかが本質だと考えています。
そのため、AIガバナンスを「ブレーキ」と捉えず取組を進めています。
とりわけにAIは、技術進化のスピードが非常に速く、利活用の領域も急速に広がっています。そのため、AIガバナンスにもAI推進と同様、受け身ではなく、想定されるリスクポイントを先回りして把握し、対策を講じていく能動的な姿勢が求められます。攻めと守りを同じスピード感で進めるには、両部を兼務することには大きな意義があると感じています。

AI推進部は、具体的にどのような形でグループ各社にAIプロダクトを提供しているのですか?
特定の1社に向けたシステム開発だけではなく、営業領域やマッチング領域など、業態を問わず広くグループ各社で利用可能な共通のAIプロダクトに重点を置いて開発・提供しています。
部署が発足した2025年度には十数件の企画を立て、そのうち5件をPoCとして実行し、最終的に4件が開発フェーズへと進みました。「営業ロープレAI」「CAロープレAI」はすでにリリース済みで、「Interview AI」「商談自動記録AI」に関しては、現在開発を進めているところです。
利用と開発が進んでいるAIプロダクト
営業領域
・商談自動記録AI 営業商談データの要約・蓄積(26年8月リリース)
・営業ロープレAI 営業商談トレーニング(26年2月リリース)
マッチング領域
・CAロープレAI キャリアカウンセリングトレーニング(26年4月リリース)
・Interview AI 求職者カウンセリング面談のAI化(開発中)
すでにリリース済みの「営業ロープレAI」「CAロープレAI」の活用状況を聞かせてください。
現在、パーソルテンプスタッフやパーソルキャリアをはじめ、パーソルマーケティング、パーソルイノベーション、パーソルビジネスプロセスデザインなどで活用が進んでおり、グループ全体で約2,000名が利用できる環境を整えています。
現場からは、若手の育成や中堅、ベテランのスキル向上にも役立っているとの声が寄せられており、概ね高い評価を得ています。
次にAIガバナンス部としての活動について聞かせてください。これまでにどのような取り組みを進めましたか?
まず、グループ各社でAIガバナンスを担当する責任者や実務担当者を集めて横断的な体制を構築しました。その上で、グループ全体の「AI基本方針」の策定や、共通ガイドラインの整備、AIシステム監査の運用体制を整えることからはじめました。
今後は、AIエージェントの活用拡大に伴うリスクテーマへの対策を進めていきます。例えば、AI活用による人材マッチングや採用における公平性・透明性の確保や、AIエージェントの安全な運用を実現するための権限管理・モニタリングの高度化を推進していく方針です。
パーソルグループならではの難しさとは?
もしグループ各社で、固有の要件が出てきた場合はどのように対処しますか?
私たちが提供するAIプロダクトを各社のビジネスに適用するには、各社固有の基幹システムやデータ基盤との接続が欠かせません。
先ほど、広くグループ各社で利用可能なAIプロダクトを提供するとお話しましたが、AIプロダクトと基幹システムやデータ基盤との連携に関しては各社固有の要件が発生します。そのため、グループ各社の開発部門とも連携しながら必要な技術サポートを提供する形で対応を進めています。
ところでパーソルグループでは、AI活用の効果をどのように測定・評価しているのでしょう?
AIの導入効果を「単に楽になった」という感覚的な評価だけで終わらせてしまうと、真の生産性向上にはつながりません。そのため、期待通りに業務時間が削減されているか、AI導入で創出された時間を使って新しい業務や付加価値の高い業務に着手できているかなど、開発に踏み切る前段階で決めた指標と実績値を継続的にモニタリングしています。
取り組みを進めるなかで、パーソルグループならではの難しさを感じる場面はありますか?
ひとつは、汎用性と個別化最適化のバランスです。各社要件に合わせて作り込むとグループ全体で活用できる汎用性が失われてしまいます。そのため、どこまでをホールディングス側で共通化し、どこからを各社との開発で対応するのかという線引きには頭を悩ませることがあります。
もうひとつはデータの取り扱いです。情報管理に関する基本ルールは、すでにグループ全体で定められてはいるものの、運用基準や管理方法については各社で考え方や実態が異なる場合があるからです。
AIを活用する上では、お客さまとの商談記録や顧客管理情報、場合によっては個人情報のような機微なデータと連携しなければならないケースもあるため、各社の違いを丁寧に整理しながら合意形成を図っていく必要があり、取り組みを前に進めるには相応の時間と労力を要しています。

技術面での難しさについてはいかがですか?
私たちが開発するAIプロダクトでは、様々なAI モデルを活用しています。そのためモデルのバージョンアップに合わせて、アウトプットの検証や問題点の改善、さらに高いプロダクト品質を実現するためのモデルの入れ替え等を行う必要があります。
また、モデルの利用コストコントロールにも注意を払わなければなりません。AIプロダクトは開発して展開すれば終わりではなく、技術トレンドを継続的に注視しながら、検証と改善を続けていく姿勢が欠かせないと考えています。
今後の活動方針
今後はAI推進部としてはどのような取り組みを進めていく予定ですか?
大きく2つの軸があります。
ひとつは、展開済みのプロダクトに加え、現在開発中のプロダクトをいち早くリリースし、利用拡大を通じてビジネス成果を出していくこと。もうひとつは、来期以降の成果インパクトをさらに高めるために、新しいAIプロダクトの企画・開発を進めることです。既存プロダクトの利用率の向上と新たなAIプロダクトを生み出す準備を並行して進めています。
具体的に、今後はどのようなAIプロダクトを構想していますか?
まず、求職者への仕事紹介をAIとの対話を通じて行うプロダクトを今期中にリリースする予定です。また、法人のお客さま向けには、AIが顧客理解をもとに適切な提案シナリオを作成し、営業提案の品質を標準化・向上させるプロダクトを予定しています。社内向けにはパーソルグループの社員を対象した、AIによるキャリアカウンセリングを提供するプロダクトも構想中です。
将来的には、この仕組みを外部の求職者向けサービスへと応用することも視野に入れています。
現在計画中のAIプロダクト
営業領域
・顧客カルテAI 商談準備・シナリオ作成
マッチング領域
・面接練習AI 求職者の面接トレーニング
HR領域
・社員カウンセリングAI キャリア相談/面談のAI化
AIガバナンス部としての今後の重点テーマについてはいかがですか?
2025年から2026年前半にかけては、企画や開発段階でのリスク洗い出しと監査が中心でしたが、リリース後も引き続き、AIの出力が倫理に反していないか、期待通りの挙動をしているかなど、継続的なモニタリングの必要性を感じています。
今後はその実現に向けて、グループ各社とホールディングスが連携し、どのような運用体制を構築すべきか協議を進めつつ、採用やマッチング業務の各プロセスにおいて、AIと人の役割分担についても議論を深めていきます。とくに、求職者への求人紹介など、人材を評価・選考するプロセスでAIを用いるにあたっては、バイアスや評価の偏りなど倫理面のリスクの洗い出しと対応策の検討、ガイドライン設計が欠かせません。
またAIエージェント活用が広がることで、扱う業務やアクセスするデータの範囲も拡大しています。そのため、データ漏洩や誤処理を防ぐためにエージェントの権限やライフサイクル管理も重要なテーマだと認識しています。

現場で磨く手触り感が魅力。AI実装に必要な人材とは?
現状と今後の取り組みを踏まえ、AI推進部とAIガバナンス部ではどのような人材を必要としていますか?
ビジネス課題を捉えてAI施策を立案する人材、システム企画やプロジェクトマネジメントを担える人材、データサイエンティストやエンジニア、ガバナンス専門人材など、機能ごとに専門人材を必要としています。
共通して求められるのは、新しい取り組みが多いなかで「この企画をやるべきだ」「この技術を試すべきだ」といった主体的発想を持ち、フットワーク軽くチャレンジできることです。技術力はもちろん大切ですし、新しい技術の選択肢は武器として持っておきたい機能である一方、AI活用のHow(どう作るか)と同時に施策の目的や提供価値を大事にする視点が欠かせません。課題解決の最前線に立ってビジネスを変えていこうという強い意思と実行力のある人材を求めています。
パーソルホールディングスではたらく魅力を教えてください。
何よりも、自ら当事者として携わったプロジェクトの成果が、実際の事業のなかで生まれる様子を目の当たりにでき、そこに責任を持てることだと思います。企画立案だけでなく、プロダクトそのものを作り、現場に入り込み、さらにはユーザーにフィットさせていく過程まで経験できる「手触り感」が得られるのは、コンサルティングや受託開発では得られない大きな魅力です。
またパーソルグループは、AI活用やテクノロジー活用への投資を積極的に行っているので、新しい施策の実現を通じてビジネスに大きなインパクトを残したい方にとって、とても魅力的な環境だと思います。
最後に、パーソルにおけるAI活用に関心をお持ちの読者へメッセージをお願いします。
AI推進部、AIガバナンス部のメンバーは、いずれも各事業の現場に深く入り込み、企画立案から実装を進める役割を担っています。プロダクトや施策の成否に対して責任を負う、挑戦的なミッションをもつ面もありますが、それだけに得られるものも大きいと考えています。
今後は、企画プロセスや企画設計の妥当性のレビュー、システム仕様設計、技術検証やプロトタイプ作成など、エンジニアが張り付かなくてもAIを使って高速に企画・開発を回せるような仕組みづくりにも注力していくので、いままで以上にスピーディーに動けるようになるでしょう。AIのビジネス実装に興味がある方、各領域でまだ誰も実現したことがない取り組みに主体的に関わってみたい方からの応募を心からお待ちしています。

取材・文=武田敏則(グレタケ)/撮影=山口修司(ファーストブリッジ)
※所属組織および取材内容は2026年8月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年8月時点での内容です。
Profile
鰐部直生 Naoki Wanibe
パーソルホールディングス株式会社
グループAI本部 AI推進部
兼 AIガバナンス部
部長
新卒で広告会社へ入社し企画営業を経験したのち、大手通信会社においてデジタル広告メディア事業統括やマーケティングサービスの企画を担当。エンターテインメント企業でマーケティング全般に携わったのち再び大手通信会社へ入社し、法人事業部門で新規ビジネス企画やマーケティング領域の組織マネジメントを担う。2023年5月、パーソルホールディングスに入社。SBUビジネス企画室室長を経て、2025年4月より現職。