データをつなぎ、意思決定の精度を高める。3つのシステムを同時開発したファイナンス高度化プロジェクト

パーソルグループでは、事業成長に伴い、データが組織ごとに分散し、経営判断に必要な情報を同じ前提で捉えることが難しくなっていました。

こうした構造を変えるために進められたのが、ファイナンス高度化プロジェクトです。稟議ワークフロー・財務会計・管理会計という3つのシステムを、連携を前提に同時並行で構築し、データが一貫してつながる基盤を整備しました。

本記事では、ワークフローと管理会計領域の導入を担った岩佐にインタビュー。なぜ3つのシステムを同時に見直す必要があったのか、そして、多くの関係者が関わる中でどのように合意形成と設計を進めていったのか、その実態に迫ります。

分散したデータが意思決定を鈍らせる。事業拡大の中で顕在化した、経営管理を阻む構造的課題

まずは、岩佐さんの現在の業務内容と、本プロジェクトでの役割について教えてください。

現在は、グループ全体のはたらき方の変革に向けたAI活用を推進する部門の企画チームに所属しています。ファイナンス領域を担当しており、主に経理や管理会計の業務に対して、AIやテクノロジーを活用していく企画を推進しています。

ファイナンス高度化プロジェクトの前半では、稟議や支払いに関する情報をデータとして扱えるようにするワークフロー領域、後半からは管理会計領域を担当しました。プロジェクトマネージャー(PM)として、現場の業務内容を踏まえて要件を整理し、それをシステムとしてどのように実現するかを具体化していく役割を担っていました。

ファイナンス高度化プロジェクトは、どのような背景から始まったのでしょうか?

背景にあったのは、グループの事業成長に伴い、業績予想の仕組みを見直す必要があったことです。パーソルグループでは、事業や組織の拡大により、予算・見込・実績データの管理が分散し、意思決定に必要な情報を迅速かつ正確に把握しにくい状況が生じていました。そこで、グループ全体の意思決定を支えるデータ基盤を整備する取り組みとしてプロジェクトが立ち上がりました。

当時の予算管理や業績管理では、どのような点を見直す必要があったのでしょうか?

大きな課題は、業績予測や予算管理の方法が組織ごとに異なっていたことです。どのデータをもとに、どの粒度で見込みを立てるのかが統一されていませんでした。

予算は本部単位で管理されている一方で、支出は部署やプロジェクト単位で発生します。それぞれを個別に管理していたため、本部の予算と現場で積み上げた数値が整合しないケースもありました。

そのため、分散していた情報をシステム上でつなぎ、より精緻な業績予測を行える状態にすることが求められていました。

そうした課題に対して、プロジェクトではどのような状態を目指したのでしょうか?

目指したのは、予算・見込・実績データの情報が一つの流れとしてつなげて、同じデータをもとに経営や業務判断ができるデータ基盤の構築です。
データを活用するためには、業務プロセスから考え直す必要がありました。グループ各社で異なっていた稟議や支払いの流れを見直し、共通のプロセスとして整えることで、データの精度を高めながら、ガバナンス強化にもつなげていくことを目指しました。

個別最適を超えるために、三つのシステムを連携前提で進めた異例のプロジェクト

具体的にどのような取り組みを進めたのでしょうか?

今回のプロジェクトでは、稟議や支払いを扱うワークフローシステム、財務会計を担う会計システム、予算や見込みを管理する管理会計システムの三つを、並行して構築しました。
稟議には、今後どのような支出が発生するのか、どの予算に紐づくのかといった情報が含まれています。そこを予算や見込みの管理とつなげることで、支出の見通しを早い段階から把握しやすくできます。

特徴的だったのは、個別最適で導入するのではなく、最初からデータ連携を前提に設計したことです。稟議や支払いの情報が会計処理につながり、その情報がさらに管理会計に活用されるように、業務の流れとデータの流れをあわせて整理していきました。

三つのシステムを並行して進めるうえで、難しかった点を教えてください。

難しかったのは、3つのシステムを同時に構築しながら、一貫した業務プロセスとして成立させることです。
個別開発なら難しくない開発でも、今回はシステム連携を前提としていたため、データの意味や粒度を揃える必要があり、認識のずれが整合性に影響する難しさがありました。

そこで、開発を進める中でも、「このデータはどの処理で使われるのか」「後続の業務にどのような影響があるのか」を都度確認しながら設計を進めていました。

複数のシステム開発を同時に進めるうえで、意思決定はどのように進めていたのでしょうか?

3つのシステムを並行して進める以上、判断の遅れはそのまま全体の遅延につながります。そのため、判断のスピードを保つために、論点ごとに決める場を整理していました。

日々の仕様や運用に関する内容は各プロジェクトチームで整理し、全体方針に関わる論点については、CFO(最高財務責任者)や本部長に判断してもらう会議体に上げる形です。どの論点をどこで決めるのかを明確にしておくことで、判断が滞らないようにしていました。

多くの関係者と協働する中で、どのように連携を担保していったのでしょうか?

重要だったのは、システムや担当領域をまたいで、定期的に話し合う場を持つことです。一般的なプロジェクトでは、別々のシステムを担当する開発チームやベンダー同士が、細かい仕様を直接話し合う機会はそれほど多くないと思います。ただ今回は、3つのシステムが相互に連携する前提だったため、自分たちの仕様がどの領域に影響するのかを理解しながら進める必要がありました。

話し合いの場では、どのチームが論点を主導するのか、誰が次の確認を進めるのかが曖昧になることもあります。そうした時にはPMが間に入り、論点の整理や役割分担を明確にしていました。
多くの関係者が関わる中でも、最終的に何を実現するのかという目的に立ち返りながら、システム間の境界を越えて議論できる状態をつくることを意識していました。

解決策を押し付けず、現場との対話で進めた業務プロセスの再定義と標準化

システム刷新に合わせて、業務プロセスはどのように見直したのでしょうか?

データを経営管理に活用していくために、稟議のプロセス自体を見直しました。具体的には、これまで一種類だった稟議を、詳細は未定で実施判断だけを決める段階の「計画稟議」、見積書などを取得して内容を固める段階の「実行稟議」、実際に発注先を決める段階の「発注申請」に分けました。

このように段階を分けることで、支出がどこまで具体化しているのかを把握しやすくなります。まだ計画段階なのか、契約間近なのか、もう発注まで可能な段階なのかを分けて捉えることで、予算の消化見込みをより早いタイミングから確認できるようにする狙いがありました。

標準化を進める中で、現場の運用とはどのようにすり合わせていったのでしょうか?

当初は、グループ全体で共通のプロセスに揃えていく前提で進めていました。しかし、現場と対話する中で、一律の適用では対応しきれないケースがあることが分かってきました。たとえば、すでに別のシステムで承認済みのものに対して同様の承認を求めると、現場にとっては重複した手続きになってしまいます。

そのため、すべてを一律に適用するのではなく、守るべき標準と、例外として整理すべきものを切り分けていきました。他の仕組みで承認済みのものは一部のプロセスを省略できるようにするなど、標準化の目的を保ちながら、現場が実際に運用できる形に落とし込んでいきました。

多くの関係者を巻き込むうえで、特に意識していたことはありますか?

意識していたのは、解決策だけを先に示さないことです。ホールディングス側で検討した内容をそのまま提示するだけでは、現場からすると、自分たちの業務実態が十分に反映されていないように受け止められてしまうことがあります。

グループ各社には、それぞれの業務の進め方や、これまで積み上げてきた運用があります。だからこそ、まずは何が課題なのかを明確にし、その課題に対して「こういう考え方がありますが、どうでしょうか」と相談しながら、合意形成を進めていくことを重視しました。

大規模なプロジェクトでありながら、スケジュール通りに進められた要因は何だと考えますか?

一つは、PMが業務側に深く入り込んだことだと思います。システム側だけで要件を整理するのではなく、業務側のメンバーと同じくらい業務内容を理解しながら、何をシステムで担保し、何を運用で対応するのかを一つひとつ要件に落としていきました。

もう一つは、関係者の皆さんが協力的に関わってくれたことです。プロジェクトの名簿に載っている方だけでも約250名の関係者がいましたし、実際にはそれ以上の方々に協力いただいています。多くの方が通常業務と並行しながらの参加でしたが、課題があれば議論し、必要な取り組みには前向きに関わってくれました。

大規模なシステム導入では、1年単位で遅れることも珍しくありません。その中でスケジュール通りに進められたのは、PMが状況に応じて進め方を調整し続けたことに加えて、各組織の皆さんが同じ目的に向かって協力してくれたことが、大きかったと感じています。

データ基盤が意思決定のあり方を変える。ファイナンス高度化を支える第一歩とその先の展望

今回のプロジェクトによって、現時点ではどのような成果が出ていますか?

今回の取り組みによって、稟議ワークフロー・財務会計・管理会計に関する情報を一元的に蓄積できるデータ基盤が整備できました。稟議が申請された段階から情報がデータとして蓄積されるため、予算に対してどの程度の支出が見込まれているのかを、これまでより早い段階で把握できるようになっています。

また、経営管理部門と現場が同じデータをもとに支出見込みを確認できる環境も整いました。これまで分散していた情報を一つの基盤に集約できたことが大きな成果だと捉えています。

データ基盤が整ったことで、新たに見えてきた課題はありますか?

今後はデータの可視化や分析の仕組みを整えながら、経営管理部門と現場がデータをもとに対話し、意思決定につなげていく運用も強化していく必要があります。データ基盤上で個別の案件把握に留まらず、十万件規模のデータを全体として見渡し、経営判断により効果的につなげていくための高度化を進めていきたいです。

最後に、今回の取り組みが、今後のAI活用とどのようにつながっていくのか教えてください。

今回整備したデータ基盤は、今後のAI活用を進めるうえでも重要な土台になると捉えています。

すでに、経理領域では承認業務へのAI活用を検討しています。たとえば、証票の内容や勘定科目、税区分などを確認する業務をAIが支援し、確認が必要な箇所を事前に示せるようになれば、経理担当者はより重要な判断に集中しやすくなります。

AI活用の目的は、日常的に発生する確認作業や調整業務の負荷を減らし、人が判断や対話といった付加価値の高い業務に集中できる状態をつくることです。今回のプロジェクトで実現したデータ基盤の整備は、次のファイナンス高度化につながる一歩だと考えています。

ありがとうございました!

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一/撮影=原野純一(PalmTree)
※所属組織および取材内容は2026年6月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年6月時点での内容です。

Profile

岩佐優子 Yuko Iwasa

パーソルホールディングス株式会社
グループWork Style本部
ビジネスITアーキテクト部
ファイナンスAX室
シニアコンサルタント

半導体関連企業で経営企画・IRなどコーポレート業務に従事。社内システム導入プロジェクトへの参画を経験した後、2023年パーソルホールディングスに入社。全社基盤システム刷新プロジェクトでPMを担い、現在は経理領域のAI推進PMを務める。

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