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英語実務経験ゼロからグローバル開発チームを立ち上げ、AIプロダクト開発を実現。パーソルホールディングスのエンジニア組織史上初となるプロジェクトはいかにして成功したのか?

Profile

Hidetoshi Yoshizawa

パーソルホールディングス株式会社
グループAI本部
エンジニアリング部
Product Engineering室
室長

2022年にパーソルホールディングスに入社。データエンジニアとしてデータ基盤の設計、構築、運用に従事。2023年からは、ビジネスサイドとの企画立案や要件確認、アーキテクチャの検討からプロダクト実装までを担うエンジニア組織を立ち上げ、継続的に自走できるチームづくりを推進している。

Maiki Takeda

パーソルホールディングス株式会社
グループ AI 本部エンジニアリング部
Technical Alliance 室
シニアエンジニア

2015年、SIerに入社し業務システム開発に従事。その後、飲料メーカーで音声認識や生成AIを取り入れたテクノロジー活用を推進。2025年4月にパーソルホールディングスへ入社し、基幹システムのデータ活用基盤の開発やグローバル開発チームの立ち上げを牽引している。

Yue Shen

パーソルホールディングス株式会社
グループAI本部 エンジニアリング部
AI-Native Engineering室
シニアエンジニア

中国・上海出身。イギリスおよび日本での留学を経て、2026年3月にパーソルホールディングスへ入社。現在はグローバルプロジェクトに参画し、AIモデルの検証・構築やAI技術を活用したシステム開発に幅広く携わっている。

パーソルホールディングスのエンジニア組織として初となる海外エンジニアとの協働プロジェクト。プロジェクトメンバーの英語実務経験ゼロからスタートしたこの取り組みは、検証用プロダクトの開発を経て、AIプロダクトのR&Dや本格的なプロダクト開発へと発展しました。

今回はプロジェクトの中心メンバーである吉澤・武田・沈(しん)の3人に、グローバル開発チーム立ち上げの裏側と、そこで得た学びについて聞きました。

徹底した事前準備がプロジェクト成功の原動力に

どのようにして開発体制のグローバル化に挑むことになったのか、その背景から教えてください。

吉澤

若年人口の減少によるIT人材不足が進む中、先端技術の潮流はますますグローバル化しています。AIをはじめ、多くの技術は海外で生まれ、実用化も海外市場が先行するケースが少なくありません。加えて、パーソルグループは海外に100社以上のグループ会社を展開しており、グループ全体の連携強化やグローバル化を進めていきたいという経営方針もありました。そうした背景から、パーソルホールディングスのエンジニア組織では初となる海外エンジニア協働プロジェクトを立ち上げることになりました。

海外エンジニア協働プロジェクトが始動したきっかけは、AI活用を加速させるための「デジタルコア基盤(※1)」の開発だったと聞きました。
開発に携わった武田さんにうかがいます。どのような経緯ではじまったのでしょう?

武田

デジタルコア基盤の本開発が進み、テストフェーズが近づくと、AIやプロダクトが基盤を通じてデータを安全かつ柔軟に活用できるかを、実際に確かめる必要が出てきました。
そこで、フィリピン・セブにあるHiPE社にプロジェクトへ参画していただき、まずは検証用プロダクトの開発を担当していただきました。

武田さんは、当時どんな思いでこの仕事に携わっていましたか?

武田

AI活用は事業推進における重要なテーマであり、検証項目も多岐にわたります。さらにパーソルホールディングスとしても、私自身としても初となる海外エンジニアとの協働プロジェクトであり、経営層からも「ぜひ成功させてほしい」という熱い期待が寄せられていました。プレッシャーは相当なものでしたね。

特にどんな点に苦心されたのでしょうか?

武田

最も苦心したのは、海外エンジニアとの協働をスムーズに立ち上げるための準備です。海外エンジニアとのコミュニケーションを見据え、デジタルコア基盤の検証用プロダクトの開発が本格的にスタートする3カ月ほど前から準備を進めました。まず、コミュニケーション面での不安をできるだけ減らすため、AIコードエディター「Cursor」を活用して開発効率を高め、パーソルホールディングスのメンバーが英語学習に当てる時間を捻出しました。また、このプロジェクトの目的や期待する成果、将来的な展望についても英語でドキュメント化し、情報共有の土台づくりを進めました。

さらに、信頼関係の構築も欠かせないと考え、プロジェクトのキックオフを兼ねてフィリピン・セブのHiPE社を訪問しました。現地で開発を担当するHiPE社メンバーと直接対話することで、お互いの理解を深めることができたと思います。

なぜ開発パートナーにHiPE社を選ばれたのでしょうか?

吉澤

この取り組みがはじまる前年、フィリピンで協業するオフショア開発企業を探していた際、候補の一社としてHiPE社と出会いました。

私たちがHiPE社を選んだ最大の理由は、開発に対する主体的な姿勢です。オフショア開発では、ブリッジSEを介して役割を分けながら進めるケースも多くあります。しかし、私たちが望んでいたのは、日本のエンジニアと同じチームメンバーとして共に考え、汗をかくことをいとわないエンジニアたちとの協働です。その点、HiPE社のエンジニアは一人ひとりから、日本のメンバーと直接コミュニケーションを取りながら開発に携わりたいという熱意が感じられ、それが開発パートナーになっていただく決め手となりました。

※1 「デジタルコア基盤」は、パーソルテンプスタッフの基幹システムが持つデータを、複数のAIやプロダクトから安全かつ柔軟に活用できるようにする共通基盤。データ・API・認証/認可・管理の4つの機能で構成され、データ検索や連携にかかる時間の大幅な短縮を実現している。

海外エンジニアと協働して生まれる数々の成果

実際に開発に携わってみていかがでしたか? 率直な感想を聞かせてください。

武田

私自身、海外エンジニアと一緒にはたらいた経験がなかったため、当初は悩む場面もありました。しかし、事前に丁寧に準備を進めていたこともあり、実際にプロジェクトがはじまってからは比較的スムーズに連携できたと感じています。

なかでも印象的だったのは、セブ側のメンバーであるHiPE社メンバーの熱量の高さです。デイリーミーティングでは、「私はこう思う」「こうしたい」と積極的に意見を発信してくれました。単に依頼された作業をこなすのではなく、より良いプロダクトを一緒につくろうという姿勢が伝わってきたんです。

そのおかげで、依頼者と作業者という関係を越え、同じ目標に向かう一つのチームとして短期間で信頼関係を築くことができました。HiPE社メンバーには本当に感謝しています。

日本のエンジニアとリモートではたらくのとは違うものですか?

武田

やってみて感じたのは、開発プロジェクトを成功させるための本質は変わらないということでした。

もちろん言語も文化的な背景も異なります。ただ、それ以上に大切なのは、「何をつくりたいのか」を明確に定義し、その目標に向かってチーム全体が協力できる体制を整えることだと感じましたね。日々のコミュニケーションやドキュメンテーションをしっかりしていなければ、プロジェクトがうまく進まなくなるのは日本でも海外でも同じです。そうした意味では、言語以外に大きな違いは感じなかったというのが正直なところです。

沈さんは、武田さんが立ち上げたグローバル開発チームと検証用プロダクト開発の成果を受け、AIプロダクトのR&Dやその後の実装を主導されたと聞きました。具体的にはどんなお仕事だったのでしょうか?

沈

私は2026年3月に入社し、最初にアサインされたのがこのプロジェクトでした。日本側で開発全体をリードする立場として、AIに関する研究論文の調査や、人材サービスとの親和性が高い技術・AIモデルの選定を担当しました。たとえば、顔分析や表情分析といった技術の活用可能性を検証しながら、AIプロダクトの実装を進めていきました。

HiPE社のメンバーとはどのようにコミュニケーションを取っていたのでしょうか?

沈

英語で日常的にコミュニケーションを取りながら開発を進めました。認識のズレを防ぐため、口頭だけでなくドキュメント化を徹底し、仕様や要件を丁寧にすり合わせていきました。

本格的に始動したAIプロダクト開発

その後、面接やプレゼンテーション力向上を目的とした「インタビューAI」プロダクトを開発することになったそうですね。経緯を教えてください。

吉澤

検証用プロダクトの開発を通じて、HiPE社との協業体制には一定の手ごたえを感じていました。一方でその体制をさらに発展させていくためには、検証にとどまらず、私たちの事業により深く関わるプロダクト開発へ取り組む必要があると考えました。

事業貢献を目指すのであれば、国内のプランナーやエンジニアとも連携しながら価値を検証していくことが不可欠です。そこでR&Dの一環として、誰もが価値をイメージしやすいAIプロダクトの試作に取り組むことにしました。

その一つが、AIがユーザーに質問を行い、回答内容を自動で整理・要約する「インタビューAI」です。まずはプランナーやエンジニアの皆さんに「AIでここまでできるのか」と実感してもらい、新しいアイデアや活用可能性への関心を喚起することを狙いました。

沈

インタビューAIの試作が順調に進み、吉澤さんやHiPE社メンバーと次のプロダクトについて議論するなかで、面接シミュレーションを行える「インタビューAI」のアイデアが生まれました。

私自身、面接本番の緊張を和らげたり、面接の流れを事前に把握したりするために、一人で何度も受け答えの練習を繰り返した経験があります。その経験から、「AIを相手に面接練習ができれば、多くの人の役に立つのではないか」と考えるようになりました。外国人はもちろん、日本人にとっても価値のあるプロダクトになるはずだと感じ、開発に挑戦することにしたのです。

「インタビューAI」を開発するなかで、技術的に難しかったポイントを教えてください。

沈

最も苦労したのは、表情分析技術の選定です。調査を進めるなかで、どの技術が面接というユースケースに最も適しているかを見極めることが非常に難しかったですね。

技術の進化は速く、防犯分野などで活用されている表情分析技術が、必ずしも面接用途に適しているとは限りません。そのため、約3週間かけてさまざまな論文や技術資料を読み込み、複数のモデルを検証したうえで、最適なモデルを選定しました。

「インタビューAI」が完成したあと、HiPE社のメンバーも来日してデモイベントが開かれたとうかがっています。どのようなことを実施したのでしょうか?

吉澤

「インタビューAI」の実演デモに加え、パーソルホールディングスのワークスタイルテクノロジー部の皆さんとの企画ディスカッションやプロトタイプ開発のハンズオン・ワークショップを開催しました。現在、開発が進んでいる社内AIアワードに向けて、社員のAI活用ストーリーを集めるプロダクトの試作版も、このデモイベントで生まれました。

武田

企画ディスカッションで生まれた社員のAI活用ストーリーを集めるプロダクトのアイデアが、わずか半日で形になっていく様子を目の当たりにし、海外エンジニアとの協働に対する期待や評価がさらに高まったと感じました。

特に感慨深かったのは、デジタルコア基盤の検証用プロダクト開発からはじまった取り組みが、AIプロダクトのR&Dを経て、多くの方に興味を持っていただけるプロダクト開発へと発展したことです。当事者の一人として、とても意義のある取り組みになったと感じています。

沈さんは、その場に立ち会われてどんなお気持ちでしたか?

沈

「インタビューAI」のデモを通じて、AIと人が自然に会話する様子を実際に見てもらえたこと、そして参加者の皆さんが「この技術は社内のさまざまなプロジェクトにも活用できる」と可能性を感じてくださったことが何よりもうれしかったですね。

また、その場で得られた反応をきっかけに、AIとの自然な対話技術を実際の社内プロダクトへ応用する流れを生み出せたことにも大きな手ごたえを感じています。開発に携わったメンバーとしてとても誇りに思います。

デモイベントで生まれたアイデアは、その後どのように発展したのでしょうか?

沈

現在、社員のAI活用ストーリーを集めるプロダクトの正式リリースに向けたインフラの整備をほぼ終え、利用者が作成したストーリーを社内に共有できる機能が10月下旬から11月上旬にかけてリリースされる予定です。今後は順次機能を拡張して、より多くの方に活用していただけるプロダクトへと成長させていきたいと考えています。

最後にこのプロジェクトで得た知見をどのように広げていきたいですか? 展望を聞かせてください。

吉澤

今回の一連の取り組みが社員のAI活用ストーリーを集めるプロダクトの開発につながったように、単に開発組織のグローバル化にとどめず、海外のグループ企業を含むパーソル全体のグローバル化につながるような取り組みへと進化させたいですね。このプロジェクトがそのきっかけになったら、企画者の一人としてこれ以上うれしいことはありません。

武田

今回はゼロからグローバル開発チームを組成し、本格的なAIプロダクトの開発につなげることができました。立ち上げに向けた準備や進め方について、一つの再現可能な型をつくることができたのは大きな成果だったと思います。今後はフィリピンに限らず、さまざまな国や地域のエンジニアと協働できる体制を築けるよう、さらに経験値を高めていきたいですね。個人的には、グループ会社が手がける海外のAIプロダクトを日本にローカライズし、新たな価値を生み出していくような取り組みにもチャレンジしたいと思っています。

沈

グローバル化はパーソルグループにとって非常に重要なテーマの一つなので、これからも開発に携わりながら実績づくりに尽力したいと思っています。私自身、大学院在学中や前職で、多国籍なメンバーでプロジェクト推進に携わってきましたが、今回のプロジェクトは私にとっても非常によい経験となりました。今後も引き続きさまざまなバックグラウンドを持つメンバーと協力しながら、より良いAIプロダクトの開発を通じて多くの方々の価値創出につなげていけるよう貢献していきたいと思っています。

取材・文=武田敏則(グレタケ)/撮影=山口修司(ファーストブリッジ)
※所属組織および取材内容は2026年9月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年9月時点での内容です。

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