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PoCで終わらせない。Copilot Studioの全社展開から見るパーソルグループのAIエージェント戦略

生成AIの活用を、個人の業務効率化から組織の業務変革へどうつなげるか。
パーソルグループでは、Microsoft Copilotの活用を進める中でこの課題に直面しました。そこで着目したのが、業務プロセスに組み込んで使用できるAIエージェントです。Copilot Studioを活用し、AIエージェントの開発・展開に乗り出しました。

しかし全社規模で活用を広げるには、現場で「使える」だけでは十分ではありません。投資に見合う成果を示せるか、社員が自らエージェントを開発しながら業務に活用できるか。150名のPoCでは一定の手応えを得る一方、全社展開に向けた新たな課題も見えてきました。

PoCで明らかとなった壁をどのように乗り越え、全社展開へとつなげたのか。AIエージェント活用を推進する荒木に、その取り組みのプロセスと今後目指すはたらき方について聞きました。

生成AI活用の次なる一手。業務プロセスの変革を目指したAIエージェント開発への挑戦

まずは、生成AIの活用を進める中で、どのような課題が見えていたのか教えてください。

パーソルグループでは、もともと生成AIアシスタントであるMicrosoft Copilotを導入していました。検索や会議の要約、情報整理など、個人業務の効率化には活用できる一方で、組織やチーム単位での業務改善や生産性向上につなげることには課題がありました。

特に、個人レベルでは「作業を5時間削減できた」という成果が出たとしても、その削減した5時間が組織や事業にどのような価値をもたらしたのかまでは見えにくく、経営層からは投資に対する事業成果や生産性向上につながる具体的な効果を示すことが求められていました。

そうした課題に対して、なぜCopilot Studioに着目したのでしょうか?

Copilot Studioは、単にAIへ質問するだけではなく、問い合わせ対応や情報連携など、人が担っている一連の業務プロセスを自動化するAIエージェントを作成できます。また、Microsoft 365との親和性が高く、社内データや既存の業務ツールと連携しやすい点も大きな特徴です。

AIエージェントを業務プロセスに組み込むことで、個人の業務効率化にとどまらず、チームや組織単位で業務プロセスそのものを変えられるのではないか――そうした可能性を感じ、Copilot Studioの導入検討を始めました。

導入を検討する段階では、どのような点を確かめる必要があると考えていましたか?

大きく二つありました。
一つは、投資対効果を明確に示せるかという点です。既存のCopilotでは定量的に把握しにくいという課題があったため、Copilot Studioによってどのような業務改善や事業インパクトを生み出すことが可能であるのか、経営層に説明するための検証する必要がありました。

もう一つは、開発経験のない社員でもAIエージェントを作成し、継続的に活用できるかという点です。ツールそのものの使いやすさに加えて、運用ルールや支援体制も含めて仕組化できるかを確認する必要がありました。

この二つがクリアにならないまま全社展開することはできないと考えていました。

成果だけでなく課題も見えた。150名のPoCが示した全社展開への第一歩

そうした懸念を踏まえ、最初の検証は何から始めたのでしょうか?

まず、昨年の上期に150名の有志メンバーとともにPoCを実施しました。
この段階で検証したかったのは、Copilot Studioそのものの有効性と、実際の現場業務に適用し業務改善につなげられるかという点です。

生成AI関連のサービスは、新しいものほど他社事例が限られており、自社の業務でどこまで活用できるのかを判断することが難しい側面があります。そのため、いきなり全社展開を目指すのではなく、まずは開発への関心や活用意欲を持つ社員を対象に、小規模な検証を通じて具体的な活用事例をつくるところから始めました。

PoCでは、どのような観点で成果を見ようとしていたのですか?

次の展開を判断するため、ROIに加え、幅広い業務への適用可能性、人が介在している業務をどこまで自動化できるか、利用者が継続して使いたいと思えるか、といった観点で評価項目を設定しました。

ただ、数字だけでは実際に業務がどう変わるのかまでは伝わりません。そこで、請求書の確認や差し戻し対応のように、これまで人が担っていた業務をエージェントが代替する事例をつくり、定量成果とあわせて示すことを意識していました。

実際にPoCを行って、どのようなことが見えてきましたか?

PoCでは、パートナー契約に関する質問への回答や問い合わせ対応を支援するエージェントなど、27のエージェントを開発しました。

その結果、投資対効果が見込めると評価されたエージェントの割合は82%、継続利用意向も85%と、Copilot Studioを活用した業務改善の可能性について一定の手応えを得ることができました。一方で、開発途中で離脱したり、思うように開発が進まなくなったりするケースも想定上に発生し、「このままでは十分な事例の創出は難しいのではないか」という危機感を抱いたことを覚えています。

つまり、サービスとしての有効性は確認できた一方で、そのまま全社に展開できる状態ではないということが明らかになりました。成果と課題の両方が見えたことが、PoCの大きな学びだったと思います。

開発を止めない仕組みをつくり、成果を経営に示す。全社展開につなげた二つのアプローチ

上期の成果と課題を踏まえて、下期はどのように取り組み方を変えたのでしょうか?

下期は、単に「サービスとして使えるか」を検証する段階から一歩進み、「全社展開できる仕組みを構築できるか」を見極めるためのスモールスタートへと移行しました。

全社へ展開するとなれば、相応の投資が必要になります。そのため、Copilot Studioが十分な投資対効果が見込めることを経営層へ示す材料をそろえることが大きなミッションでした。同時に、上期のPoCで明らかになった「開発が継続しない」という課題の解決にも取り組む必要がありました。

開発が進まなくなる原因を、どのように捉えていましたか?

原因は大きく二つあると考えていました。
一つは、通常業務が忙しくなるとAIエージェント開発の優先順位が下がり、途中で離脱してしまうことです。

もう一つは、開発そのものの難易度です。Copilot Studioはノーコードで開発できるとはいえ、十分な支援がないまま誰でも簡単につくれるわけではありません。

そこで、Microsoft社の協力のもと、分からないことをすぐに相談できる場を設けるとともに、社員同士で質問や回答を共有できるコミュニティを整備しました。さらに、5チームを選抜して集中的な技術支援を行い、その開発プロセスを中間発表会やナレッジシェア会で共有しました。

上記において意識したのは、単なる技術支援にとどめないことです。他の人の事例や取り組みを可視化することで、「自分にもできそうだ」「自分も挑戦してみたい」と感じてもらい、開発へのモチベーションや優先順位を高める仕組みづくりを進めました。

取り組みを進める中で、どのようなエージェントが生まれたのでしょうか?

エージェントの開発テーマは、利用者自身に設定してもらいました。
ただし自由に設定するのではなく、利用者が多く業務インパクトの大きい領域や、Microsoft 365との連携効果を発揮しやすい業務など、Copilot Studioの強みを活かせるテーマを意識してもらいました。

その中で印象的だったのは、登録されたナレッジを検索するだけではなく、そのナレッジを収集・蓄積するプロセスまでAIエージェントが担う事例です。日常的なチャット上のやり取りや共有された画像から必要な情報を自動で収集し、ナレッジとして蓄積するなど、これまで人が担っていた業務の一部をAIエージェントが代替する事例が生まれました。

スモールスタートでは、どのような成果が得られ、それをどう全社展開の判断につなげたのでしょうか?

ROIは629%となり、想定を大きく上回る結果となりました。また、投資対効果が見込めると評価されたエージェントの割合は95%、継続利用意向も95%に達しました。さらに、自動化された処理件数は5万件を超え、AIエージェントが人の手を介さずに多くの業務を処理できることも検証できました。

上期のPoCで得た「現場業務に適用できる」という手応えに加え、下期では「全社へ展開しても投資に見合う成果が期待できること」「継続的な利用が期待できること」を示す判断材料を揃えることができました。

経営層に対しては、こうした定量成果に加え、全社展開後に期待できる業務変革のイメージを具体的な事例とセットで提示しました。その結果、Copilot Studioの有効性と展開可能性が評価され2026年4月から全社展開を実現することができました。

開発者は約4,000名へ。誰もが自然にAIエージェントを活用する組織を目指して

全社展開後、利用はどのように広がっていますか?

現在、AIエージェントの開発者数は約4,000名まで増え、エージェント数も数千規模に拡大しています。

全社展開を開始したタイミングから利用は一気に広がりました。
その背景には、もともと現場に高いニーズがあったことも大きいと考えています。Microsoft 365は日常的に利用している社員が多いため、「この業務をこう変えれば効率化できる」と、社員自身が活用イメージを持ちやすかったのではないでしょうか。

また、PoCやスモールスタートを通じて生まれた事例を共有し、「こうしたはたらき方が実現できる」という世界観を伝えたことも、利用拡大を後押しした一因であると感じています。

利用が広がる中で、現場にも変化はありましたか?

大きな変化の一つは、コミュニティを通じて社員同士が学び合い、相談しながら課題を解決する文化が生まれたことです。「他の人も取り組んでいるなら、自分もやってみよう」と、お互いに刺激を受けながら挑戦する雰囲気が広がっていったと思います。

特にうれしかったのは、IT部門ではない社員から「自分でも業務を改善できた」「開発することが楽しかった」という声が上がったことです。

AIエージェントの活用を通じて、現場の社員自身が業務課題を見つけ、解決策を形にし、その成果を実感する。そうした成功体験が生まれたことは、業務改革のためのツール活用を越えた大きな成果だったと受け止めています。

今後、AIエージェントの利用を社内でどのように定着させていきたいと考えていますか?

開発者をさらに増やしていきたい一方で、すべての社員が開発者になる必要はないとも考えています。重要なのは、最終的に誰もが自然にAIエージェントを活用できる状態をつくることです。

社員一人ひとりが自ら開発するだけではなく、私たちが全社員向けの共通エージェントを開発し、提供していくことも一つの方法であると考えているからです。

まず利用者としてエージェントを使い、その可能性を実感する。そして必要に応じて、開発する側へ回る。そうした循環をつくりながら、AIエージェントの活用を組織全体に定着させていきたいと思います。

最後に、AIによってはたらき方はどのように変わっていくのか、荒木さんのお考えを聞かせてください。

今回の取り組みで生まれたさまざまな事例を見ていると、人がこれまで担っていた業務の一部をAIが代替する世界は、すでに現実味を帯びてきています。

これからは人は、「考える、判断する、承認する」といった役割により集中し、それ以外の業務プロセスはAIが担う。そんなはたらき方へと変化していくのではないでしょうか。

はたらく人の状況を変えるためには、業務やはたらき方の仕組みそのものを変える必要があります。今、まさにそうした仕組みが変わっていく様子を目の当たりにしています。

AIと人適材適所なはたらき方を実現するために、今後もAIエージェントの活用を推進していきたいと思います。

ありがとうございました!

取材=伊藤秋廣(エーアイプロダクション)/文=嶋田純一(エーアイプロダクション)/撮影=山口修司(ファーストブリッジ)
※所属組織および取材内容は2026年10月時点の情報です。
※略歴内の情報は2026年10月時点での内容です。

Profile

荒木麻有実 Mayumi Araki

パーソルホールディングス株式会社
グループWork Style本部
ワークスタイルテクノロジー部
ワークスタイルEX室
リードコンサルタント

2016年4月、パーソルテンプスタッフへ新卒入社。人材派遣事業の新規・既存の営業活動を担当。派遣スタッフの雇用の場を作る中で「はたらく仕組み」の重要性を感じ、2023年1月にパーソルホールディングスへ転籍。現在は、グループ社員の生産性向上を目指し、生成AIツール導入や機能拡張・利活用に従事。

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